JINKI 56 アンヘルのお正月

「ああ、赤緒さん。立花さんが晴れ着を着たいと仰るので、ちょっとお手伝いを」

「あー、赤緒。お菓子ありがとー」

「そ、それはどうも……。でも、何で晴れ着なんです? まだ今年も半ばですよ?」

 来年の話題をすると鬼が笑うとは言うが、ここまでのフライングもないだろう。着つけられつつ、エルニィはふふんと胸を反らした。

「赤緒ってば、とぼけちゃってー。ボク、知ってるんだから。日本人はお正月には晴れ着を着て、それで神社に参拝! その事前準備さ!」

「じ、事前準備……? でも、別に年が明けてからでいいのでは……?」

「あー、それなんだけれどね、赤緒さん」

 軒先で茶をすすっていた南に手招かれ、赤緒はそっと寄り合う。

「……今は一応緊急事態なのよ。もし、キョムの勢力が南米戦線を重視するって言うのなら、私たちは派遣されることも考えなければいけないの。だから、年越しや、お正月なんてイベントは味わえないかもしれないのよね」

 そこで赤緒も得心する。要は、いつ危険が迫ってくるか分からないので、安全な時に済ませてしまおうと言う魂胆か。

 確かに現状のアンヘルは勢力が揃いつつあるとは言え、それでもキョム相手には劣勢。勝てるかどうかで言えば分からない勝負を仕掛けているに等しい。それに南たちが言うのには、南米で巻き起こっている戦線状態によっては人機の配備数に関係してくるとも。安穏と過ごしている時間は、まだあるようで意外と少ないのだ。

「それでお正月……」

「そっ! あうっ!」

 ぎゅっと帯が結ばれ、エルニィが奇声を上げる。Rスーツと同じ、黄色の着物に緑の帯はよく似合っていた。

「ご、五郎さん、もっと優しく……」

「しっかり結ばないとよれちゃいますから。それに、これから動くんならなおさらですし」

「動く……? どこかに参拝されるんですか? この時期だとさすがに早過ぎるんじゃ……」

「いやいや、赤緒。そもそも、ここはどこさ」

「……神社ですけれど」

「じゃあ、初詣には打ってつけ! 今日はお正月にできること、全部やるから」

「お、お正月にできること……ですか? それって……」

 言葉を彷徨わせた赤緒にエルニィは断言する。

「まずはあれだね。おそばだよ、おそば! そこからいかないと」

「と、年越しそばですか? でも、今日の夕食は魚の煮つけですし……」

「あー、もう。赤緒ってば融通が利かないなぁ。じゃあカップ麺でいいや。両兵ー!」

 天井に向かって叫んだエルニィの声に、ぬっと両兵が顔を出す。

「……何やってんだ、立花。珍妙なカッコしやがって」

「似合う?」

 袖を払ってポージングしたエルニィに、両兵は眉をひそめた。

「あー、こういうのに適切な言葉って確かあったな。えーっと、マゴだとかヒマゴだとかそういうの」

「馬子にも衣装でしょ。よかったじゃない、エルニィ。それって一応は似合ってるってことよ」

「……一応っての、何か癪だなぁ。でも、似合ってるんならいいや! 両兵、カップ麺買うから、ちょうだい」

「はぁ? 何でオレの貴重な食料を売ってやらにゃならねぇんだ」

「こっちはお正月気分なんだからさー。頼むよー。この通りっ!」

 手を合わせて懇願するエルニィに両兵は嘆息をつく。

「……黄坂。妙なこと立花に吹き込んでんじゃねぇよ」

「何も妙じゃないでしょ? いつどうなるかなんて私にだって分からないんだから。おっと、茶柱」

 両兵は胡乱そうにエルニィを眺め、そしてこちらへと視線をすすっと向けた。赤緒はどこかたじろいでしまう。

「あの、その……」

「正月ねぇ。南米じゃ形式ばっかりの正月ってのはあったが、日本で迎える正月はもう……十年くらいは前か。何か縁遠い代物だな」

「両、あんただっていくら血続を超える頑丈さだって言ったって血の気が多いったらありゃしないんだから。今日はアンヘルのお正月ってことで、一年の無病息災くらいは祈ったって罰は当たらないんじゃないの?」

「あン? まぁ神社だからそういうのには困らなさそうだが……そもそも今日は正月じゃねぇだろ」

「細かいこと気にしない! 両兵、初詣しよー!」

 駆け寄ろうとして、エルニィは裾を踏んでしまい盛大によろける。その姿勢を両兵が慌てて支えていた。

「何やってんだ、ったく……。初詣? 正月以外にやっていいのか? それ」

「今日は特別ですので。私が諸々に関しては保証します」

 五郎のお墨付きである。ということは、今日は年月に関わらずアンヘルはお正月ムードだ。

 両兵は顎に手を添えて考える仕草をしたが、やがて、よしと膝を打つ。

「んじゃ、正月ってことにすっか。えっと……カップ麺? 何でカップ麺なんだ?」

「年越しそばの代わりよ。南米でだって食べてたでしょ」

「おー、あったな。男連中と顔突き合わせてうまくもねぇ支給品のソバ食ってたもんだ。南米のソバってのはどうにも旨味に欠けていてな。日本人って言ってもほとんど現地人みたいなもんだから、軍部から横流しされる食糧も大したもんはなかったな」

「こっちじゃ、年越しそばは当たり前みたいねぇ。両、あんた、そうじゃなくっても不摂生なんだから、お正月くらいはそれっぽくすれば?」

「それっぽくって何だよ」

「袴がございますので、用意しましょう。小河原さん、ちょっと待っていてくださいね」

 歩みかけた五郎に赤緒は慌ててついていく。その背中へと囁きかけていた。

「あの……本当にお正月でいいんでしょうか? 何だか悪いことしている気分……」

 一応は柊神社の巫女なので元旦行事や祭事には精通している。それだけに、こういった行動はズルなのでは? という疑問が先に立つ。しかし、当の神主たる五郎はにこやかに応じていた。

「いえ、そんなことを言い出しては皆さまの気分に水を差すというものですよ。それに……来年も再来年も、赤緒さんともこの神社で無事に迎えられるかは分かりませんから」

 五郎からしてみれば、アンヘルもキョムも日常を壊す相手には違いないのだろう。自分は操主として選ばれた。それを加味すれば、来年もこの場所で平穏無事に過ごせるかどうかの保証はない。

 五郎との時間も、あるようでないのかもしれない。

「……五郎さん」

「なら、いっそちょっとズルしてでも、皆さんの時間を大事にしましょう。私はそれくらい、神様は許してくれると思いますよ? 赤緒さんたちは頑張っていますし」

 五郎の評に柄にもなく赤緒は照れくさくなる。

「そ、そうですかね……。頑張ってますかね……」

「皆さんが少しでも、思い出を作れるのなら私は労を惜しみませんよ。この日本を守ってくださっているんですから」

 袴を見つけ五郎は微笑む。赤緒もつられて笑っていた。

「日本を守る……か。何だかそんな気はしないんですけれどね」

「赤緒さんは自分で思っている以上に頑張り屋さんですよ。私が保証します。さて、この袴を持って行きましょうか。ちょうど大きめのサイズがあってよかったですね」

「……はいっ!」

 何だか浮かれ調子になってしまう。別段、褒められることが嬉しいというだけではない。自分はこの数か月で、少しは誰かのためになれたのだろうか。

 誰かのため、何かのために戦えているのだろうか。

 少し前までは自分の時間、人生は所詮、他人には及ばないのだと思い込んでいた。それを変えてみせてくれたのは人機と、それにアンヘルのみんなだ。

 自分に価値を作り出してくれた。記憶喪失でも、三年にも満たない自己でも、あっていいのだと。願っていいのだと思わせてくれたのだ。

 なら、それに報いるのも、報いなければならないのもまた戦いであろう。

 再び居間に向かうと着物姿のエルニィが両兵と卓を挟んで遊戯に興じていた。

「あっ、それ、双六ですか?」

「うん。何気にやるの初めてなんだよねー。いつもテレビゲームだからさ。たまにはアナログも悪くない……と言うか、単純だよね。これってさ、進むだけで戻れないの?」

「戻るのには指定のマスに止まってのデメリットしかないわね」

 南もいつの間にか混ざっており、双六を楽しんでいる。五郎は袴を両兵へと差し出すが、当の本人は顔を渋くさせた。

「……着たことねぇな、そういや」

「じゃあ、五郎さんに着付けしてもらえば……」

 赤緒の提言に五郎がぽっと頬を染める。そういえば、と両兵が後ずさっていた。

「……その……私でいいのならば」

「……いや、やっぱ袴はいいわ。別に着なくたって罰は当たらねぇだろ」

「えー! せっかくの初詣だし、両兵も着てよー!」

 エルニィの猛抗議に両兵はサイコロを振る。

「気持ちの問題だろ? なら、気持ちで解決すりゃいいじゃねぇか。……おっ、上がり」

 両兵の駒がゴールに辿り着く。程なくして南の駒もゴールし、エルニィははからずしも最下位であった。

 むくれたエルニィが晴れ着姿でばたつく。

「ムキーッ! アナログゲーはこれだから嫌なんだよ。確率だもん。……まぁいいや。えっと、手元にそばがあるから、これで年越しだね」

 そう言ってエルニィはカップ麺をすすって、よし、と首肯する。

 どうにも忙しい年越しだな、と赤緒は感じていた。

「んで、どうすんだ? 日本の元旦がどうだとか、オレ、知らねぇぞ?」

「それに関しては私に任せてくださいっ! これでも、巫女ですからっ」

 誇らしげに胸を反らした赤緒にエルニィは、ふぅんとどこか怪訝そうにする。

「……何だかやる気出しちゃってるね。えっと、まずは初詣でしょ? 柊神社の神様ってその辺は大丈夫?」

「はい。特に決まりはありません」

「じゃ、参拝しよー! 両兵とボクねー」

 腕を組んで本殿に向かおうとするエルニィに赤緒が待ったをかける。

「ちょ、ちょっと! 待ってくださいよ! 何で立花さんだけなんですか?」

「何でって……ボクが言い出したんだもん。ボクのためのお正月でしょ?」

「納得いきませんっ! それじゃその……お二人の関係は……」

 元旦に腕を組んで初詣に向かう男女と言えば、相場が決まっている。エルニィは恐らくそれも見越してこの正月計画を建てたのだろう。迂闊だった、と赤緒は心底後悔する。

「赤緒ー、案内してよ。巫女さんでしょ?」

 自分から巫女だと啖呵を切った手前、いざエルニィと両兵がいちゃつくのを見ると、それは嫌だとは言えない。

 赤緒は渋々応対していた。

「……じゃあ、その、本殿へどうぞ」

「不愛想な巫女さんだねー、両兵」

「ううっ……こんなことになるなんて……」

 自分の判断の甘さを呪ったが、両兵はふとこちらの手を取っていた。唐突な行動に赤緒は面食らう。

「えっ、その……」

「別に巫女だからって正月は接待しなきゃいけないルールはねぇだろ。お前も来りゃいいじゃねぇか」

「えっ、でも……私……」

「柊神社の巫女だって初詣すんだろ? よくは知らねぇけれどよ」

「……は、はいっ。初詣しますっ!」

 突然に声を弾けさせたものだから両兵は当惑した様子であった。

「お、おう。何だか分からねぇが、まぁいいんじゃねぇの? なぁ、立花」

 しかし比してエルニィは目に見えて不愉快そうであった。それもそうだろう。両兵を独占する口実が崩れたのだ。

 むくれたエルニィがふんと顔を背ける。

「ふーんだ。両兵ってば相変わらず鈍いんだね」

「何がだよ。初詣すりゃいい話じゃねぇの。柊が一緒だと困んのかよ」

「……赤緒には引き立て役になってもらうつもりだったのに」

 エルニィの目論見は見事に瓦解したわけだ。赤緒は二人を引き連れて本殿へと向かう。

「えっと、お賽銭……って型式通りでいいの? 一応はやるけれど」

「ニセもんの正月だからいいんじゃねぇの? オレは金出さねぇぞ」

 事ここに至っても両兵の守銭奴さは変わらない。赤緒は代表して小銭を投げていた。

「えーっと……手を叩いて、一礼? 二拍手? 何だっけ?」

「二礼二拍手一礼が基本ですね。私に合わせてください」

 赤緒が率先して鈴を鳴らそうとして、エルニィが割って入る。

「鈴はボクがやるー! えーい!」

 無邪気に鈴を鳴らして喜ぶさまだけ見れば、この偽物の正月にも価値があるような気がしてくる。

 二人ともが赤緒に倣い、新年の挨拶をする。

「赤緒、何願ったの?」

「それは……明かさないのがいいのであって……」

「えー、いいじゃん。言ってよー。ボクはね、両兵と一緒に居られることかな!」

 思わぬ攻勢に赤緒が絶句すると両兵は何でもないことのように返答する。

「ってもこの願いって叶うのかよ。祈ったって願ったって同じもんは同じだろ?」

「もうっ! ロマンがないなぁ、両兵は」

 赤緒はそっと胸を撫で下ろしていた。これで両兵まで同じように願っていたとなれば、胸中穏やかではない。

「んじゃ、次ー。おみくじ引かせてよ!」

「おみくじ……ですか? いいですけれど……」

 まごつく赤緒を他所にエルニィはおみくじを引き当てる。

「これだッ!」

 両兵も続いて引いて広げるが、二人して顔を曇らせていた。

「す、末吉……。何これ、つまんないー!」

「オレなんて大凶なんだが……」

 ぺらりと大凶のおみくじを翳した両兵にエルニィは食いつく。

「えっ、ウソ! 激レアじゃん! 羨ましいなぁー」

「病気、治らず、用心せよ……。他も全部最悪の印象だな」

「えー……大凶なんて滅多に当たらないようにできてるんですけれど……」

 ある意味ではとてつもない強運か。五郎がそれとなくアドバイスする。

「悪い運勢は枝に結ぶといいんですよ」

「んじゃ、ボクは結ぶ。両兵のも隣に結んじゃうねー」

「これで終わりか? まぁあらかた済ましただろ?」

 立ち去ろうとする両兵の背中をエルニィが引っ張り込む。

「まだだってば! 一番大事なの、やってないよ」

「一倍大事なのだぁ? 初詣はしたし、そばも食ったろ?」

「何言ってんのさ。お正月と言えば、これ!」

 差し出したのは羽子板である。赤緒はその赴く先を予見していた。

「……もしかして、羽根突きですか?」

「そう! いやぁ、ジャパニーズ羽根突き前からやってみたかったんだよねー。でもお正月じゃないとやっちゃいけないって言われちゃったから、かなり我慢してたんだよ」

「羽根突きなんて、古風だな。まー、オレにゃ関係ないこって……」

「あれ? 何言ってんの、両兵。これ、一番両兵に関係あるよ?」

「……どういうこった」

 うろたえる両兵にエルニィはウインクする。

「こいつのルール……さすがクレイジージャパンって感じだよ。南ッ! 準備は?」

「完了しているわよ」

 南が硯を削って墨を作る。半紙に書かれた「賀正」の二文字に両兵が困惑の眼差しを向けていた。

 笑い転げるエルニィに赤緒は半ば呆れ返る。

「はい! 両兵またミスー! ほっぺにバッテン!」

 エルニィが筆を手に両兵の顔に模様を書き付けては爆笑する。両兵は舌打ちを漏らしていた。

「……こんなちっこい板なのが悪いんだっつう……」

「負け惜しみは言わない! それにしても……二人して弱過ぎ……赤緒も最高の顔立ちだよ」

 ぷくく、と笑いを堪えるエルニィに赤緒は嘆息をついていた。

 勝負を挑まれ、二対一でもいいと言われたが、赤緒は生来の運動音痴のために失点を重ね、そのせいで両兵の足を引っ張っている。

 悪い気がしていたが、元々運動神経抜群のエルニィにスポーツで勝利するのがどだい無理な話なのだ。

 赤緒の顔はほとんど墨塗れで、両兵もそこいらに模様を書かれている。

「……何でこうなったんだろ……」

「柊、もうちっとうまく返せよ。オレが打ったって意味ねぇし」

「そんなこと言われてもぉ……」

 困惑する赤緒にエルニィは満足げに羽子板を振るう。

「顔中真っ黒にしてやるんだ。二人とも覚悟してよね」

「そ、そんなぁ……」

 肩を落とした赤緒に両兵は肘で小突く。

「気ぃ落とすなって。まぁ、でも、嫌な気分はしねぇな。ニセもんの正月なんざ、意味はねぇと思っていたが」

 羽子板へと視線を落とす両兵に、赤緒は声をかけそびれていた。

 彼はきっと、正月や祝い事など、最も縁遠い戦いをしてきたに違いない。それは自分たちもそうだろう。

 こうして羽子板を握ってはいるが、これがいつ拳銃にならないとも限らないのだ。

「……小河原さん、私でも、このカラフルな羽子板を不格好に振るえることってきっと……得難いことなんでしょうね。だって来年だって……来るのかどうかは分からない……」

 この国は既にロストライフ現象の渦中にある。来年、いやもっと言えば明日だってあるかどうかは分からない。

――そんな気風で生きていたくない、と強く握り締めた赤緒に両兵は声を投げていた。

「……まぁでも、こうして笑って、馬鹿騒ぎして……んでまた、来年は来るんだろうな。その次の年も、その次も」

「……あると、思いますか? 小河原さんは私たちに、未来が……」

「ないわけねぇだろ。それだけは……ああ絶対に、そうに決まっている」

 強い語調でそう口にしたのは何よりも自分を納得させるために思えた。

 両兵は窺い知れぬ魔を飼っている。その闇に飼い慣らされる前に、相手の喉笛を掻っ切るだけの野生。それこそが両兵の持つ強さだ。

 だから、来年が来るに決まっている、という言葉の持つ心強さに、赤緒は自ずと返していた。

「未来があれば……未来という答えが……この手にあれば……」

 そう、答えなんてない。暗中模索の日々だ。

 それでも、明るい未来を、明日を見据えるのはきっと、この手にあるもののみ。この手で掴める範囲だけなのだ。

 気の利いた言葉を返そうとして、赤緒は両兵に書き加えられた頬のぐるぐるにぷっと吹き出していた。

「……笑ってんじゃねぇよ」

「す、すいません……っ! でも、可笑しい。……そう、可笑しい」

 こうして笑える。それが何よりも明日を目指せる原動力ではないか。

「はい、赤緒も罰ゲーム。二人してバカ面ー!」

 大笑いするエルニィに赤緒は両兵と顔を見合わせていた。

 ――確かに、これ以上のないバカ面だ。

「アホっぽい顔が余計にアホっぽく見えるぜ」

「……小河原さんだって。人のことは言えませんよ」

 互いに微笑み合った二人にエルニィが怪訝そうに眉をひそめる。

「……何さ、二人とも。言っておくけれど! 罰ゲームなんだからね。にしたって、日本のお正月って面白いなぁ。毎日お正月ならいいのに」

 ――毎日お正月。

 エルニィらしい楽観主義だが、そんな世界を目指せればきっと、これ以上とない――。

「……偽物でも、よかったですね、お正月」

「ああ。たまには悪くはねぇ」

「……じゃ、来年もやりましょうか。今度は本当のお正月に」

 それは約束されない言葉だろう。両兵は、おうとも何とも言わない。

 でも、それでいい。

 きっと、それくらいでちょうどいいのだ。

 ――さぁ、もういくつ寝ると、本当のお正月だろう。

 遠くてもそれはやってくるのだ。それだけは間違いない。

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