JINKI 60 ビタースイートデイズ

 エルニィが、ふふんと誇らしげに胸を反らした。

「それ! ボクが寄りすぐった最強のチョコなんだからね! えっとー、まずは基本的にカロリー高めに設定してー」

「立花……てめぇのくれたチョコ、甘すぎやしねぇか? これ、普通の奴が食ったら一発で虫歯だぞ」

「おいしいでしょ?」

 齧りながら両兵は他のチョコも抜粋していく。

 小奇麗に纏まったチョコは小さく小分けされており、製作者の手間暇を感じさせていた。

「あ、そのチョコ……私の……。お兄ちゃんに、いつでも食べやすそうなものを食べて欲しくって……」

 どこか所在なさげなさつきに両兵は小粒のチョコを口に放り込む。

「んー、まぁ立花のよかうめぇじゃん」

「えー! 両兵ってば失礼ー! ボクだって頑張ったんだよ?」

「あとは……これは洋酒が入ってやがんな。だいぶ濃い味付けだが」

 視線を巡らせると神社の柱の陰に隠れているメルJとかち合った。彼女は見つかったとなれば、と自ら公言してみせる。

「こっ……濃い味付けのほうが美味いだろうが!」

「メルJってば、子供の発想だなー。チョコは、甘さが命なんだよ?」

 やれやれと肩を竦めるエルニィにメルJはふんと鼻を鳴らす。

「そんなもの、貴様のチョコなど敵ではない。所詮は甘いものしか作れん自称天才め」

「な、何ぉー!」

 いつもの喧騒に呆れつつ、両兵は他の包装紙も解きにかかる。簡素な板チョコもあり、まずまずの味であった。

「これ、誰ンだ? 市販品っぽいが……」

 周囲を見渡すと、ルイがじっとこちらを警戒するかのように見据えている。チョコを掲げてみせると、彼女は目線を逸らした。覚えず南へと囁きかける。

「……何で市販品?」

「ルイってば、あれで結構乙女なのよ、両。失敗したくないって言う乙女の発想。分からない?」

「南、うるさい」

「あら、ルイ。まぁ、私のに勝てないんじゃ、まだまだ及第点もあげられないってところよね。どう? 両。そのチョコ、美味しいでしょ?」

 南の取って寄越したチョコは赤く染まっていた。

 うわぁ、という声音が自然と漏れる。

「何入れてんだ、これ。気味悪ぃ……」

「失敬な! 私特製の激ウマピリ辛ソースを仕込んでおいたってのに!」

「てめぇの趣味じゃねぇか。あー、予想通り一番マジィし……。さつきのチョコがいい具合に掻き消してくれてるぜ」

 チョコを頬張りながら爪で引っ掻かんと迫る南より両兵は遁走する。

 逃げながら、ふと考えていた。

「……そういや、何でてめぇら、急にチョコなんざ? オレがそんなに食うに困ってるように見えたかよ?」

 不意に立ち止まったせいで追いすがっていた南が頭をぶつけ、ふがっ、と奇声を上げてよろめく。

「あ……あんたってばホント……乙女心の分からない……。日本では2月の14日に女子から男の子にチョコレートを渡すのよ。バレンタインデーを知らないの?」

「いや、そりゃあ知っちゃいるけれどよ。今、五月だぜ?」

 両兵はチョコを頬張りながら思索にふける。それを南は、これだからと嘆かわしそうに額に手をやっていた。

「……日本に来てからそれっぽい行事ごとなんて、できるかどうかなんて分からないじゃない。私たちはトーキョーアンヘルとして、最前線で戦うのよ? ……来年の二月があるかどうかだって、分からない中で戦うこの子たちの気持ち、考えたら?」

 そこでようやく、不自然なチョコの受け渡しに合点が行ったが、しかし、と両兵は首をひねる。

「……じゃあ何で柊の奴、オレにだけはあげないって言ったんだ? あいつだってアンヘルメンバーだろ?」

 その言葉に南はそれとなくため息を漏らしていた。

「……ま、赤緒さんなりの葛藤なのかもね。それか、チョコを用意している時に、思い出話をしちゃったのが、よくなかったのかもしれないわ」

「思い出話?」

「……南米での話よ。青葉が来てから、あんたも含めて一回だけしたでしょ? バレンタインのチョコ作り」

 その言葉でようやく、両兵は南米での日々を回顧する。

「あったな、そういや。……あン時もよく分かんなかったんだよな。だってあいつ……」

「2月ともなれば、それなりに冬は深まってくる頃合いだろうね」

 そう、口にした現太に青葉はふと、日本での出来事を反芻する。

「そういえば、2月はバレンタインデーがあったような……」

 自分には縁遠い話である。プラモ漬けでまともに男友達もできなかったため、そういう女子の催しからはどこか遊離していた。

 だが、隣の席で聞いていたルイは聞き逃さない。

「……バレンタインデー?」

「あっ、こっちじゃないんでしたっけ?」

「あー、まぁあれも言ってしまえばお菓子会社の販売促進だからねぇ。こっちじゃあまり意味のない行事かもしれないが……」

 ルイはこちらの胸倉を掴み上げ、その翡翠の瞳で睨み上げる。

「教えなさい。あんただけ知っているのは不公平な気がする」

「え、えっとぉ……女の子が男の子にチョコをあげるの。その……普段からよく思っている相手に……ってなっているけれど、私は……あげたことない……」

 その一言にルイはどこか思索顔になったかと思うと、ぱっと手を離していた。

「……普段からよく思っている……」

「あっ……別に気にしなくってもいいんですよね? でも私、アンヘルの皆さんはその……よくしてもらっているので。チョコ、作っていいのなら……」

「青葉君、作れるのかい? すごいじゃないか」

 現太の評に謙遜しつつも青葉は応じる。

「あれ……プラモみたいなものですから。配合と順序さえ間違わなければ誰でも作れますよ」

「あー、そういう……。でもまぁ、いいんじゃないかな。整備班のみんなには内緒で作ってみようか。そういうことなら今日の人機の操主訓練は特別授業だ」

「いいんですか? じゃあ、私……キッチンをお借りしても?」

「ああ、構わないとも。根回しは私がしておこう。みんな、喜ぶと思う」

 現太の太鼓判があればこちらもやる気が入るというもの。駆け出そうとした青葉の襟首をルイはむんずと掴んでいた。

「待ちなさい。……私も作る」

「えっ? でも、ルイは……」

「あんたにできて、私にできないわけがない」

 断固とした強い論調に青葉はたじろいでしまう。こういう時、ルイは手堅い競合相手として張り合ってくれる。その分だけ自分をライバル視していると思っていいのだろうか。

「で、でも……いいのかなぁ……」

「先生。キッチンをお借りします」

 そう言い繕ってルイはすたすたと歩み出していく。現太は少しばかり不安げな面持ちになっていた。

「大丈夫かなぁ……。ほら、彼女、普段は南君に見てもらっているから、常識とか……」

 あっ、とそこで思い至る。この間、酒を飲まされたばかりではないか。

「せ、先生! このままじゃみんな……とんでもない目に遭いそう……」

「う、うむ……。青葉君、サポートを頼めるかな? 何、彼女だって思うところがあるに違いないし、邪魔するわけではなく、ね?」

「は、はいっ! 一緒にチョコレート作りですね! よぉーし!」

 一目散に駆けつけた青葉は早速冷蔵庫を漁っているルイを発見する。

「……チョコレートって、何が入っているのかしら。甘いから、リンゴとか?」

「ルイ! 一緒に作ろうよ!」

「……何であんたと」

 不服そうなその眼差しに気圧されないように青葉は語調を強める。

「二人なら、もっと美味しいのが作れるから!」

 ルイは思案を浮かべた後に、ぽいとリンゴを投げ渡す。

「じゃあ、ためしに作ってみれば? 言っておくけれど、操主としても負けないし、こんなちょっとした勝負で、私が負けるはずがない」

 自ずと勝負になってしまったが、ルイを納得させるのには勝負ごとに持ち込むのが恐らくは手っ取り早いのだろう。

 青葉は早速、エプロン姿に着替え、チョコレートの材料を探す。

「えっと……市販のチョコレートとかない? それを溶かして、もう一回成形し直せば、それっぽく見えるはずだけれど……」

「何それ。手抜きじゃない」

「て、手抜きじゃないよ! まずは基本! それに日本と違ってこっちは材料も限られるから、それこそお手本をなぞらないと……」

 ルイと共にキッチンをあーでもないこーでもないと言いながらひっくり返す。

「プラモの材料だって、取り寄せに一週間かかっちゃうから、ありものを使わないと……。それもできるだけ、すぐに作れるような……」

「そんなに都合よくチョコの有り合わせなんてあるわけが……」

 その時、鼻歌を口ずさみながら廊下を練り歩く南を青葉は視界の中に見つける。

「南さん!」

「おーっ、青葉じゃん。それに何? ルイも一緒? 仲良くなったわねー、あんたたちー」

「……仲良くないし、南、鬱陶しい」

 そっぽを向くルイに対し、南がきょとんと周囲を見渡す。そこらかしこで散乱した具材に、えーっと、と彼女は思案し、答えを出していた。

「分かった! 火事場泥棒だ!」

「違いますって! チョコ作りですよ……」

「チョコ? 何で?」

 どうやら最初から説明が必要なようだ。青葉は事の次第を掻い摘んで説明すると、南は手を打ってこちらの手を掴んでいた。

「面白そう! そういや、アンヘルってばむさい男連中ばっかだからんねー。そういう行事ってなかったかも! 私も参加していい?」

「えっ……ぜ、是非! ルイ、よかったね!」

「……何もよくない。南、チョコなんて作れるの?」

「こぉーの、小憎たらしい悪ガキが言ってくれるじゃない。……自慢じゃないけれど、私、キッチンのどこに何があるかは知ってるのよ」

 鼻歌混じりに南は一発で板チョコの在り処を探り当てる。その迷いのなさには青葉も瞠目していた。

「すごい! 何で分かったんですか? あれだけ探しても分からなかったのに!」

「ま、まぁねー。青葉と同じ、超能力もどきって奴?」

「……ただ単に自分の隠し場所でしょ。南ってば分かりやすいんだから。南にしか分からない隠し場所なら、私たちがどれだけ探したって見つからなかった説明もつくし」

「あっ、コラ、ルイ! あんた、タネ教えるんじゃないわよ」

 何だかその事実には肩透かしを食らった気分だが、青葉はよし、と腕まくりをして本腰を入れていた。

「これでまずはスタートライン! じゃあチョコを溶かして成型しましょうか」

「えーっ……。せっかく溜めに溜め込んだチョコレートを溶かすなんてもったいないじゃないの」

「そこは南と同意見」

 二人してどうやらこちらの料理の腕には懐疑的のようだ。ブーイングを漏らす二人相手に、青葉は手早く調理を進める。

 まずは板チョコを熱して湯煎。溶けたチョコを素早く成形するイメージに投影し、迷いのない手つきでかき混ぜる。

 既に脳内に完成形はできている。あとはどれだけ理想的な動きを取れるかだ。

 ――何だか、操主訓練と似たものがあるかも。

 自分の最適解を導き出し、状況次第で応用も効かせる。もちろん、基礎は怠ってはならない。きちんとした理解と、そして判断力を常に求められるという点ではどこか似通っている。

 南は、ほえーと感心していた。

「青葉、料理できたんだ……。ちょっと意外かも」

「いやぁ……それほどでもないですよ」

「そうよ、南。プラモオタクの道楽なんだから」

 うっ、と手痛いダメージを受ける。南が制そうとしたその時には、ルイはキッチンを駆け抜けていた。

「コラっ! 悪い言葉ばかり覚えて!」

 南の手を潜り抜け、ルイが逃げおおせる。結局、ほとんど自分が作っている形だが、二人は追いかけっこに必死らしい。

 大きくため息をつきながらも、こうして騒がしくチョコレート作りに勤しめるなんて、日本では及びもつかなかっただろうと想像する。

 思えば、誰に嫌われるでもなく、誰に好かれるでもない学生生活を送っていた。

 プラモの腕は誇れても、学生の青春としては及第点も怪しいところ。

 そんな自分が今、笑いながらチョコレートを作っていることが、少しだけ誇らしかった。

 ふふっ、と微笑むと二人分の眼差しが飛ぶ。

「どったの? 青葉。思い出し笑い?」

「いや……その……何だか私の人生に、こういう瞬間って訪れるんだなぁって思っちゃって」

「何言ってんだか。まだ青葉もルイもお子ちゃまなんだから、もっと人生経験積まないと! 私みたいにいい女にはなれないわよ?」

「それ、自分で言う?」

 再び始まる鬼ごっこを視野に入れつつ、青葉は完成形への仕上げに入っていた。

 型取りは大まかでも大丈夫だ。精密な動きはプラモ作りで長年鍛えられている。

 あとは冷蔵庫で固まるまで待てば完成であった。

「あれ? 終わっちゃった?」

「あ、はい。二人が追いかけっこしている間に……」

「あーらら。こりゃ、私たちが作ったとは言えないわねぇ」

「いえ、三人で作ったって言いましょう。そのほうが私も……嬉しいですし」

「そりゃあ、いい提案! ここで私の乙女としての実力と評価もうなぎ上りで、いずれは現太さんと……!」

 妄想に入った南にルイが手厳しく突っ込む。

「言ってなさいよ。で、妄想馬鹿は放っておくとして」

「放っておくとは何じゃい!」

 掴みかかろうとした南の手をするりとすり抜けて、ルイが問いかける。

「それ……美味しいの?」

 青葉はそこにだけは、自信満々に頷く。

「うん! 私の精一杯、出したつもり!」

「ヒンシー。この間取り寄せ頼んどいたエロ本、まだ来ねぇのかって……何やってんだ?」

 整備班が整備を放ったらかしにして感嘆しているのは、机に並べられた――。

「チョコレートか?」

「うん、すごいよ、両兵。これ、青葉さんたちの手作りだってさ!」

 両兵は丁寧に並べられたそれを手に取り、ふぅんと翳す。

「モリビトヘッド型か……。よく作り込んであるじゃねぇの」

「あっ……両兵……」

 当の本人はどこか所在なさげであった。全員から褒められているチョコレートを自分がどこか不遜そうに掴んでいるのが気に食わないのかもしれない。

「……どうした? 頬っぺた赤いぞ? 風邪か?」

「いや、その……どうかなって」

 その言葉の最後を聞く前に、両兵はモリビトヘッド型のチョコを口の中に放り込んでいた。

「ん? 何か言ったか? あ、こりゃ美味ぇや」

 その評価に青葉は呆然としている。川本が青ざめこちらの首を絞めにかかっていた。

「何やってんだよ! 両兵!」

「な、何って……チョコは食うもんだろうが……」

「そうじゃないってば! バレンタインデーを知らないのかよ! こういう時にもらうのって特別なんだって! それを味わいもせずに……!」

「あ、味は美味い。フツーにチョコの味だろ。……で、それ以外に要るのかよ?」

 きょとんと問い返した両兵に青葉はふんと視線を逸らしていた。

「知らないっ! 両兵の馬鹿!」

「ば、馬鹿はてめぇらのほうだろ! いい年こいた整備班が総出で、チョコの展覧会なんざ……!」

「いやいやー両兵。分かってないなー」

「ホントよ。両ってば、チョコ一つ取ってしてみてもデリカシーないわねぇ」

 南と川本、二人分の糾弾と、どうしてだか分からないが、ルイの刺すような視線に耐え切れず、両兵はケッと毒づいていた。

「バレンタインが何だ! 色気づきやがって! オレぁ、これからぜーったいに! チョコには関わらんからな!」

「――って言ってあんた、大ぼら吹いたじゃない」

「あー、ンなこともあったな」

「……青葉の特製チョコ、よく出来てるって褒めてあげればよかったのに」

 南の言葉振りに両兵は鼻を鳴らす。

「ンなおべっか、オレには縁遠いもんでね。言い忘れちまったよ」

「……でも、そのせいで赤緒さん、渡しづらくなっちゃったのかもね。あんた、そう言いつつ絶対に忘れてないもの。青葉のこと」

「……忘れたくても忘れられっかよ。あいつのことは……」

「あんたがみんなからチョコもらうの見て、赤緒さん、何だか気を遣っちゃったのかもね。バレンタインデーは乙女のバトルだから」

「知らねぇって。柊の勝手だろうが」

「じゃあ勝手ついでに一個だけ。……格納庫のほうにいるわよ」

 南は話し終えて軒先から立ち去る。他のメンバーもいつの間にか解散していた。両兵は重いため息と共に腰を上げる。

「……乙女のバトル、ね……」

 別に気にしなければよかったのかもしれない。

 だが、同じ人機に乗り合わせた以上、比べられるのが怖かったのだろう。仰ぎ見た《モリビト2号》の相貌は、どこか顔も知らぬその人の面影を映しているのに違いなかったからだ。

 会ったこともない。それでも、忘れがたき、その人の面持ちをきっと両兵はいつでも描いているに違いない。

「……青葉さん、か。どんな人だったんだろ。私よりもうまく……想いを伝えられたのかな……」

 手の中にあるのは有り触れた、本当に当たり障りのない、ハート型のチョコであった。

 基本を疎かにせず、作り上げることのみを念頭に置いて作った代物だが、よくよく考えれば少し面映ゆい。

 こんなものを渡して、素でいられる自信もなかった。

 割ってしまおうか、と手を振り翳したところを強い力で止められる。

「……食いもんの恨みは恐ろしいって、よくよく言ってんのはてめぇのほうだろうが」

「小河原さん……」

 直視できず、咄嗟に目を逸らしてしまう。

「チョコレートとか、バレンタインデーだとか、そういうの、オレは縁遠いもんだと思っちまっているからよ。てめぇらの期待する反応ができるわけでもねぇし、気の利いた言葉なんて吐けるわけもねぇ」

「そう、ですよね……」

 やはり勝手な押し付け。勝手な思いのぶつけ合い。

 しかし両兵は赤緒の手に握られたチョコを引っ掴み、そのまま噛り付いた。

「あっ……銀紙……」

「ああ、忘れてた」

 包みのまま口に含んだ両兵はチョコを飲み込み、一つ頷く。

「美味いじゃんか。少なくともあんだけチョコ食って胸やけしない程度には、よくできていると思うぜ」

 それがきっと、彼なりの精一杯なのだろう。

 バレンタインデーも、チョコレートも――交わされる男女の想いも――何もかもが疎遠だと言いつつ、ただ一言添えられた、両兵なりの返答。

 赤緒はふふっ、と微笑ましくなっていた。

 ――何だか、精一杯背伸びする子供のようで。それでいて、ぶきっちょなのが。

「小河原さん……あの、こういうの言いそびれちゃいそうなので、言っちゃいますけれど……ハッピーバレンタイン……で、いいんでしょうか?」

「ああ、ハッピー……何がハッピーなんだ? よく分からんが、まぁそうなんじゃねぇの?」

 搾り出した声も自分なりの精一杯。

 自分だってそうだ。両兵のことは言えない、不器用ではないか。

『あーっ! やっぱり! 赤緒ってばズルい! いいとこばっかし持って行くんだもん!』

 不意に轟いた広域通信に赤緒は周囲を見渡す。《ブロッケントウジャ》のコックピットより、アンヘルメンバーの女子たちがめいめいに恨めしい眼差しでこちらを見据える。

「ええ……っ? 皆さん、ずっとそこに?」

「両兵はボクのが一番美味しかったんだよね? 赤緒のは反則!」

「それには同意だな。ムードを作り過ぎだ、貴様は」

「……お兄ちゃん。私のチョコが口直しにちょうどいいって言ってくれてたのになぁ……」

「……やっぱり赤緒。そういう手口なのね」

 それぞれの糾弾の言葉が飛んでくる中で、両兵はへっと笑っていた。

 取り繕うことのない、笑顔で。

「よかったじゃねぇか。てめぇら充分、ハッピーなんだろ?」

「は、ハッピーじゃありませんよぉ……。助けてください、小河原さんー」

 ――やはり、バレンタインデーはリボンを添えた、乙女の戦場。

 そこに、勝者なき結果は訪れない――のかもしれない。

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