「こいつらに野球教えてやってンだ。こないだは……何位だったか?」
「三位だよ、三位! これは俺達にとっては快挙なんだってば!」
「だから甘ぇって。オレが教えてんだから一位獲れ」
少年たちとまるで同年代のように野球に興じる両兵に赤緒は、ああ、と察していた。
「南さんの言っていた、草野球チームの……」
「ねーねー、お姉さんは両兵の恋人?」
「こっ……恋人?」
赤面した赤緒に比して両兵は涼しげに応じる。
「違ぇって。こいつもこの間のオバちゃんと同じ、ロボットのパイロットやってんだよ」
思わぬ紹介に赤緒はむっとむくれていると、少年は歓声を上げていた。
「すげー! あのロボット、お姉さんたちが動かしてんの?」
「あっ、うん……人機って言うんだけれど……」
「両兵! そんなすごい人と知り合いならもっと早く言ってくれよー」
「すごくも何ともねぇだろ。ホレ、レフト甘ぇぞー。ノックもう十本!」
「ちぇっ、両兵のかいしょーなしー!」
「あっ、てめっ! どこで覚えやがったそんな言葉! あったま来たぜ、もう十本追加!」
「両兵のケチー」
ケチー、という言葉が飛び交う中で両兵がノックを重ねる。赤緒はその慣れた佇まいに遠慮がちに口にしていた。
「あの……小河原さんって、野球経験……」
「ああ、ガキん頃にしたっきりだが、どうにでもなるもんだな。こいつらあまりにも弱くって見ていられねぇんだよ」
バットを担いだ両兵に赤緒はまだ自分の知らぬ側面があるのだと実感する。両兵はふんと鼻息を荒くして次! と叫ぶ。
「ライト方面に流すぞ! 遅れんなよ!」
カキーン、と小気味いい音が響き、ノックが再開される。その時、少年たちの一人が手を上げていた。
「待ってって! そろそろメシ時!」
「あー、よっし! じゃあ休憩! ただし三十分だぞ」
「やりぃ! みんなー、弁当食おうぜー」
少年たちがめいめいにそれぞれの手作り弁当を差し出し、食事に入る中で両兵はこちらへと振り返っていた。
「何やってんだ? 買い出しの途中だろ? とっとと神社戻らねぇと、怒られんぞ?」
「あ、そうですよね……。あの、小河原さん……お腹、空かないんですか?」
「あー、いいんだって。どうせ橋の下の連中と呑むからよ。ちょっと腹ぁ減らしといたほうが酒もうめぇし」
「もうっ……お酒ばっかり飲んでいると駄目な人になっちゃいますよ。五郎さん言ってました! 酒は飲んでも飲まれるなって!」
「あー、もう、うっせぇな。とっとと神社帰れ帰れ」
「えーっ、両兵そのお姉さん帰しちゃうの? せっかくだし、俺らのマネージャーやってよ、お姉さん!」
少年らの声に赤緒は仰天してしまう。
「ま、マネージャー? 私が?」
「あー、やめとけ、やめとけ、お前ら。このねーちゃん、すげードジだから、てめぇらのユニフォーム、一生返って来ねぇぞ?」
思わぬ言葉に赤緒はもうっ、とつんと顔を背ける。
「知りませんっ! ……小河原さん、晩御飯をねだってきても知りませんからっ」
「あっ、てめっ! それはずりぃだろ! 晩飯くらいは用意してくれよ」
こちらの力関係に少年らは呆然としながらも、ぼそっと呟いていた。
「変なのー。両兵とこのお姉さん、いわゆるこれってヤツ?」
その意味を分かって言っているのか、少年は小指を突き上げる。赤緒は再び紅潮する顔を予感したが、両兵はぱしっとその帽子面をはたいていた。
「アホ、そんなんじゃねぇよ。柊、こいつらの教育に悪ぃからとっとと行ってくれ」
「な、何ですかぁ……。私、教育に悪いわけないのになぁ……」
とぼとぼと帰路につくが、赤緒は少年らが弁当を頬張っているのをじっとベンチで眺めている両兵の背中を見据える。
「……どんな人だって、お弁当、要らないわけがないよね……」
「うん? 赤緒ー、何で朝から玉子焼きのにおい? いつものメニューは?」
「あっ、立花さん。これは……そのお弁当の分で」
台所に窺いに来たエルニィはしかしその返答に納得していないらしい。
「……今日は日曜日だよ? まさか赤緒……もう遂にその辺りまで駄目に?」
どこか震撼した面持ちのエルニィに赤緒は笑って叱りつける。
「もうっ! そんなんじゃないですってば! ……ただ、お弁当がないのは、誰だって辛いと思いまして……」
「ん? お弁当? でも学校じゃないでしょ」
「あ、いや、これは……」
「小河原さんへのお弁当なんですよ。草野球チームを率いているそうなので。お昼もなしと聞いて、では、と私も提案したんです」
五郎の補足に、あわわ、と赤緒は当惑する。こうなってしまえば、黙っていないのがアンヘルメンバーだ。
「あっ、赤緒ってば、ずるい! そうやってまた、両兵といいカンケーになろうとしてるんでしょ!」
エルニィの言葉を嚆矢として他のアンヘルメンバーも台所に入ってくる。
「何だ、立花。随分と騒がしいが……」
「聞いてよ、メルJ! 赤緒はまたズルしようとして!」
「ず、ズルじゃないですよぉ……。これはただ……単純に小河原さんだけお弁当ないの、可哀想だから……」
「むぅ……そうやってお前という奴は……」
「ね? やっぱズルじゃん!」
「えーっと……何がズルなんです?」
「……うるさい」
さつきとルイまで入って来て最早収集がつかない状態だ。あわあわと弁明の言葉を浮かべようとして、南が押し入ってくる。
「おっ、今日は玉子焼き? 珍しいわねー」
「南! 南でしょ、赤緒に吹き込んだの!」
エルニィの糾弾に南は首を傾げる。
「吹き込んだ? 何を?」
これは大仰なことになりそうだ、と予感したその時、焦げ臭いにおいが鼻をつく。
「あっ……焦げちゃう! ……とにかく! 今日は私が作りますんで、今朝は勘弁してくださいよ」
「……今日だけね」
「……明日からは知らんぞ」
そう言ってすごすごと退散していくエルニィとメルJの背中を眺めつつ、さつきとルイがまだ状況を理解していないのか顔を見合わせる。
「……何なんでしょう?」
「……きっとロクでもないことよ」
ルイの一言は、想定外の形で当たってしまったことになった。
「うわっ! すげっ! 両兵の弁当うまそー!」
草野球の少年らの歓声に訪れた赤緒はやはりと言うべきか、照れてしまう。両兵も、おおと感動しているようであった。
「マジに美味そうだな。柊、これもらうぜ」
「あ、はい……どうぞ……」
「……何でそんなに肩落としてんだ?」
箸を取った両兵に赤緒は、あははと乾いた笑いを浮かべていた。
「ちょっとありまして……」
「ねーねー、明日からもお姉さんが両兵にお弁当作るの?」
「これってあいさいベントーって奴じゃね?」
恐らくはその意味も分かっていないのだろう。しかし口にされた「愛妻弁当」という言葉に、赤緒は頬を赤らめていた。
「あっ、愛妻弁当……!」
「そうなのか? 明日からも昼メシ作ってくれんのか?」
両兵の問いかけに浮かれかけた調子はすぐにしぼんでいく。
「あっ……いや、それはその……」
想定外のことになったとは言い出し切れず、濁した赤緒に両兵は疑問符を浮かべる。
「まぁ、いいや。おっ、この玉子焼きうめぇな」
こちらの思惑は知らず弁当を頬張る両兵に、どこか憔悴していた。
「あのその……明日からは、また違うお弁当になると思います……」
「うん? 別にいいんじゃねぇの? 毎日同じだと飽きんだろ」
「……そういう意味じゃないんですけれどね……」
残念そうに肩を落とす赤緒の意図を、一ミリも理解していない両兵は弁当にがっついていた。
「マジにうめぇな。これ、毎日食えるんならそれなりに得だな」
「はい! 両兵! ボクから!」
翌日、弁当が届けられると思っていれば想定外の顔に両兵は面食らう。
「立花? 何やってんだ、てめぇ」
「何やってんだってご挨拶だなぁ。おべんと、要らないの?」
「弁当だぁ? ……柊じゃねぇのかよ」
「もうっ、そんなに赤緒がよかったの?」
ぷいとそっぽを向いたエルニィに少年らが囃し立てる。
「両兵、泣かしたー!」
「あーっ、うっせぇ! ……お前がオレに弁当? 食えるんだろうな?」
「むっ、それは失礼だな。きっちりさつきに教わったから大丈夫だよ」
「そうかよ。ま、ありがたくいただく――」
弁当箱を開いたところで両兵は硬直する。
「……マヨネーズ?」
弁当箱一面に敷き詰められたマヨネーズに両兵は硬直する。
「あれ? マヨネーズは両兵、駄目だっけ?」
「いや、食うけれどよ……。マヨネーズ漬けじゃねぇか、これ……」
「味は保証するよ! 何でって、ボクは天才だからね!」
ぐっとサムズアップを寄越すエルニィに要らないとは言えず、両兵はマヨネーズまみれの飯を口に運ぶ。
「……ん、予想通りって感じだな。マヨネーズの味しかしねぇ……」
「でしょー! これ、ボクのとっておき!」
自信満々なエルニィにまずいとは言えず、両兵は一気にかけ込む。
「よっ! いい食べっぷり! そんなに美味しかったのかなぁ? ボクも味見すればよかった」
「……味見してねぇのかよ」
ゲップを堪えつつ、両兵は下手な満腹感に辟易する。
「よぉーし、みんな! 野球なんかよりサッカーやろ! サッカー!」
「えーっ、俺たち、草野球チームだよ?」
「いいじゃん、いいじゃん! サッカーのほうが熱中できるってば! ね? 両兵!」
「んー……まぁ、いいんじゃねぇの」
少なくともこのマヨネーズ弁当が消化されるまでは動けそうになかった。
空を仰ぎながら、このパターンはまさか、と怖気を走らせる。
「……嫌な予感がする……」
「小河原! 今日は私が直々に弁当とやらを作ってやったぞ!」
河川敷に現れたメルJに少年たちは鼻息を荒くする。
「り、両兵? 何あの……エロいお姉さん……」
「あー、ヴァネット? お前、そんな恰好でガキの前に……」
「いいじゃないか。ほれ、弁当だ」
既に嫌な予感がしていたが両兵は蓋を開ける。
「……に、肉……?」
「スポーツをしてるんだろう? だったらまず、肉だ、肉! それでパワーをつけて午後からの練習も打ち込め!」
二段弁当だったが、どちらもぎっしりと肉が詰められている。
「……こんなに肉ばっか食ったら、胃もたれしそうだな……」
「……小河原? 私の弁当は……駄目なのか?」
メルJは戦闘以外ではめっきりなのはよく知っている。だからと言って否定してやるのは一番に駄目だと知っている両兵は、一気にかけ込んでいた。
それを見てメルJは何度も頷く。
「そんなにペースを上げるほど美味いか! ならば、よし! ……少年たち、野球をやっているのだと聞いた。いいことだ。的に当てるのは将来の役に立つ。ためしにあの柵に突っ込まれているボールがあるだろう? あれを……」
途端、銃声が響き渡り、両兵は思わずむせる。
少年らは柵に引っかかったボールを正確に撃ち抜いたメルJの技量に呆然としていた。
「どうだ? 的に当てるのは有意義だろう?」
「り、両兵……あれ、拳銃――!」
「ば、バカ! この姉ちゃんはマジの奴だ……下手なことは言うなよ……」
少年らを制しつつ、両兵はうっぷ、と肉弁当を飲み込む。
「ヴァ、ヴァネット! メシ、美味かったから今日は帰ってくれよ! こっからまだ練習あっし……」
「そうか……。残念だ。私も役に立てればと思ったんだが」
「充分役に立ったっての! いいから、今日は神社に帰ってくれ。……ちなみに聞くが、明日は誰なんだ?」
「明日か。明日は――」
「はいっ、お兄ちゃん!」
差し出された五段弁当とさつきの屈託のない笑顔に少年らは呆然とした後に口にする。
「……両兵? あのー、さすがに犯罪じゃ……」
「犯罪じゃねぇ!」
「えっ、何が犯罪なの?」
「何でもねぇから! ……黄坂のガキも来たのか……」
ルイはぷいっと視線を背けて少年らを見渡す。
「……クソガキ」
「お前が言うな! ……で、問題の弁当だが……」
しかしさすがはさつきの燻製と言うべきか、中身はしっかりしているように思われた。
これは期待できるか、と箸をつけた途端、ルイがじっと見据える。
「……何だよ」
「……別に」
「食いにくいから、見んなって……」
口に含んだ瞬間、強烈な辛さに顔が脳天まで真っ赤に染まる。
「何だこれっ! ……おい、さつき! 茶をくれ! 茶!」
「あっ、はい! ……美味しくなかった?」
「つーか、辛過ぎだろ! 本当に味見したのか?」
「……味見は私が担当」
どうりで辛いはずだ。ルイと南は二人揃って辛党の味オンチであったことを思い出す。
「あ、……美味しくなかった……かな……」
涙ぐむさつきに両兵は慌てて取り成す。
「な、泣くなっての……」
「両兵、泣かしたー」
泣かしたー、と囃し立てる少年らの手前、食べられないとは言えず、両兵は一気にかけ込んでいた。
ゲップを我慢し、さつきにサムズアップを寄越す。
「く、食ったぞ、さつき……」
「よ、よかったぁ……。よかったですね、ルイさん!」
「……別に。最初から食べられるものでしょ」
「こ……このガキ……」
堪えて両兵はこの三日間で疲弊した胃腸を感じていた。
「……これ、明日もとかじゃ……ねぇだろうな」
悪い予感は当たる。両兵はこのままでは弁当に殺されると感じ、少年らに耳打ちしていた。
「……明日はコーチ休むからよ。このお姉ちゃんの誰が来ても、知らねぇって通せよ」
「えーっ、でも両兵、どうせ橋の下だろー」
「ば、バカっ! さつき……弁当、美味かったからよ……」
「はいっ! お兄ちゃんが喜んでくれて、本当によかった……!」
これは命日が明日になっても仕方ないな、と思いつつ両兵は唾を飲み下していた。
思った通り、野球場に現れたのはエルニィ含む殺人級の弁当を持ってきたアンヘルメンバーだ。
両兵はそれを見届けてから、隠れ潜んで橋の下まで避難していた。
さすがにここまで追ってくる奴も居るまい、とソファに寝転がる。
「……このままじゃ、死んじまうからな……。死因が弁当っての、笑えないぜ……」
ふぅと息をついた両兵はふと差した影にバッと身を転がしていた。
「だ、誰だ! 言っとくが、もう弁当は食わねぇからな! さすがにここまでだと――!」
「あっ……小河原さん……」
躊躇した様子の赤緒に両兵は嘆息をついていた。
「……何だ、柊かよ。……他の連中は……」
「みんな、帰っちゃいましたよ。草野球の子たちも、知らないって言うから……。でも、多分ここだって、思ったので……」
差し出された弁当に両兵は汗が伝ったのを感じる。
「……ま、まさか、弁当……」
「あっ……やっぱり、迷惑ですよね……。私のお弁当なんて……」
どうやら思わぬところで赤緒を傷つけてしまったらしい。涙を堪えながら赤緒は身を翻そうとしたのを、その手から弁当箱を引っ手繰る。
「あっ……小河原さん……?」
「……ったく、てめぇらは。調子に乗るクセにすぐいじける」
「……だ、だってぇ……。ご迷惑になっちゃいけませんし……」
「迷惑なもんかよ」
蓋を開け、久方振りのまともな弁当へと箸を伸ばす。すぐに平らげ、両兵は弁当箱を返していた。
「……ごっそさん。美味かったぜ」
「……皆さんにも、そう言ってるんですよね……。小河原さん、優しいから……」
「ンなこと気にしてんのか? ……確かに言ってるけれどよ、でも……本当にマジに……これは美味かった。久しぶりの感じだな。……いや、何だろうな、これ……」
頬を伝った無意識の涙に赤緒は大慌てで取り成す。
「す、すいません! やっぱり……その……美味しくないのを押し付けるのは……駄目ですよね……」
「いや、何かこの玉子焼き……すげぇ懐かしい感じがしてよ。この涙は……多分嬉し涙だな。ワケ分かんねーけれど、この玉子焼きだけで、何だかてめぇらの身勝手な弁当合戦も、帳消しになっちまえそうな……」
言葉にならないとはこのことだろうか。
他はどうとでもなる平凡な味には違いないのに、この玉子焼きだけはどうしてだろう。
――自分の魂の底を、揺さぶられているみたいに。
「……あんがとな。お前ら」
「……何です、急に」
「いや、形はどうあれ、お前らの弁当合戦って結局、オレを見かねてだろ? ……ま、傍から見りゃメシもまともに食わずに酒ばっかってのは不健全にゃ見えるだろ」
「じゃあ、あの……」
「今日は神社で晩飯、食うからよ。だから帰る場所、用意してくれるか?」
「あ……はいっ! すっごく美味しいお夕飯、用意してますからっ!」
赤緒は大輪の笑みを咲かせて身を翻す。――と、その足元が何もないところに躓き、よろめきかけたのを慌てて支えた。
「……大丈夫かよ」
「あ、あの……っ……近い……です……」
「ああ、悪ぃ……。どうした? 熱でもあんのか。顔、マジに赤いぞ?」
「な、何でもないですからっ! ……もうっ、小河原さんは無自覚なんだから……」
「……何言ってんだかよく分かんねーけれど、晩飯、楽しみにしてるぜ」
ひらひらと手を振るのを、赤緒はフッと微笑んでいた。
「はいっ!」
「両兵、聞いたよー。赤緒がすっごいご機嫌だから、何だろうかなーってね。今度はディナーで勝負!」
食卓に並んだ各国の料理と凄味に両兵は威圧されていた。
「お、おぅ……これは……」
「皆さんで作ったんです……! 食べて、くれますよね?」
「小河原、私のを最初に食うだろう?」
「えーっ! 両兵はボクのを最初に食べるんだからね!」
「……あのー……私も頑張ったので、食べて欲しいなーって……。ルイさんも……」
「……別にどっちでもいいけれど、他のを最初に食ったら呪う」
全員分の期待を受け両兵は身を翻していた。
「か、帰る! やっぱオレは橋の下で酒飲み生活が合ってるみてぇだ!」
「あーっ! 両兵、逃げるなー!」
追っかけてくるアンヘルメンバーを他所に、南が軒先で嘆息をつく。
「……やれやれ。あれだから、両ってば」
「私も作ったのですけれど……」
おたまを握った五郎のぼやきに南は笑いを引きつらせる。
「あ、あはは……。まぁ、おモテになるのはいいことで……。両、全員分の愛妻弁当、受け取りなさいよね」
それが責任、という奴なのだから。