ウィンヴルガ8 Pathetic song 1

 自分たちの都合で好き勝手し、若い世代を苦しませる上層の死に損ない共。それを見て見ぬフリするしかできなかった〝システム〟のために存在する形式だけの姫という自分。

 上層の老婆たちは自分の生活を守るためにドミネイターと手を組み、私を婚姻という名の供物として差し出そうとした。

 だから国を飛び出した。どこか遠い場所で玖尾狐の中にいるのが一番安全だと思った。殻に閉じこもっていればあれこれ考えずに済んだ。心のどこかではこのままじゃいけないって分かっていたけど、玖尾狐は『自分で決めたことをする。それが〝強さ〟だ』と言ってくれたから、これで良いんだって前に進めた。

 あれから色々な出会いと別れを経験した。受け止めきれないこともたくさんあったけど、少しは強くなれたと思うんだ。

 見ていてくれてるかな? ねぇ、玖尾狐……?

「ほらっ、さっさと歩け」

「あぅっ! うっ、ぐぅ……!」

 ジャラッと鎖が引かれ、身体が前の方へとつんのめる。後ろ手に手錠をはめられ、そこに鎖を繋いで犬の散歩のように身体を引かれながら、ドミネイトにある軍施設内の長い廊下を歩かされていた。連行するのが目的なら別に手錠は前でも良い。ただでさえ、私の左右後ろにもドミネイトの兵士が見張っているのだ、逃げられるはずがない。

 彼らの下品な視線が私の股間に注がれている。理由は簡単、後ろ手の手錠から前方へと伸びる鎖が私の股間に這わされているのだ。前方の隊員が急かすように鎖を引っ張ると、硬い鉄製の鎖が股間に食い込む仕組みだ。

「ひひひっ、早く歩かねぇと余計に食い込むぞ」

「もしかしたら、もっとやって欲しいのかも知れないよ?」

「そんなはずないで……あっ、うぐぅぅっっ!!」

 背後から飛んで来る軽口に反論しようとして立ち止まると、鎖がさらに食い込んだ。

 天津之黄泉の姫の正装は戦巫女と同様、肌にぴったりと密着したものだから、鎖の刺激がダイレクトに股間に響いてしまう。

「そんなにお望みならもっとやってやろう。おい、お姫様を抑えろ」

「了解。おいっ、暴れんじゃねぇよ」

「やっ、触らないでっ! いやっ! 離してっ!」

 背後にいる男が私の肩を掴もうとするのを身体を捻って抵抗するけれど、男の、それも兵士の力に敵うはずもなく、あっさりと押さえ込まれてしまう。

「オナニーもしたことなさそうな顔してるけど、実は経験豊富だったりするのかな?」

「何をふざけたことをっ……!」

「ははは、ってことはやっぱりお姫様は処女なんだな」

「どうしてあなたたちにそんなことを言わないといけないんですか!」

 こりゃ初々しい反応だ――と馬鹿にしたように笑う兵士たち。

 悔しい。悔しいけど、今の自分には彼らを止めることも逃げ出すこともできない。だから、せめてこれ以上彼らを楽しませないように口を閉じて気丈に睨み付ける。それが返って彼らを喜ばせ、嗜虐心に火を点けていることなど露知らず……。

「エッチなことを知らないお姫様には刺激が強いかも知れないが……」

 年長者と思しき兵士が握る鎖を力一杯引っ張った。

「あ、うっ! ぐっ、ううぅぅっ!!」

 ピンと張った鎖が割れ目に思い切りめり込む痛みから逃れるために、思わず踵を浮かせようとするも、後ろから押さえ付ける手がそれを許さない。必然的に全ての力がデリケートな股間の柔肉に集中してしまう。

「い、痛っ! うぐっ! や、やめっ……!」

「分かったならしっかり歩け。次はもっと痛い目に遭わせるぞ」

「へへへ、やって欲しいなら遠慮なく立ち止まるんだぞ」

 そう言い放って再び歩き出した鎖を握る兵士。それに遅れまいと俯いたまま歩を進める。時折、嫌らしく鎖を引いて股間を刺激され、その度に腰がビクンと跳ねてしまう。その様子を背後の兵士たちが二ヤニヤと卑下た表情で眺めていた。

 これからどうなってしまうんだろうという不安と恐怖、そして身体を好き勝手されて嘲笑われる惨めさと悔しさで泣きそうになる。いや、〝これまで〟の私だったら絶対に泣いていただろう。

 長年に渡って天津之黄泉に仕えるヨミ、そしてドミネイトを滅ぼそうとしている2人の女性との出会いは確実に私の〝在り方〟を変えるきっかけになった。

彼女たちの目に宿る炎と絶対に諦めない激情は私の弱く脆い心を溶かしてくれた。天津之黄泉を滅ぼしたいというとんでもない願いにも手を貸してくれた。

 私とヨミは天津之黄泉の〝システム〟の在り処を知るネクトゥと闘って……そして敗れてしまったのだった。

 ヨミは……真白さんや飛花さん、他の天津之兵のみんなはどうなったのだろう。誰かがきっと助けに来てくれる。それまで私が心を折る訳にはいかない、決して……。

「それで、この哀れな姫様でどうやって遊ぶ?」

 私の右側にいる若い兵士が口を開く。この男、先程から私の白いニーハイソックスに包まれた太腿を食い入るように見つめている。

「鎖でオナニーさせようぜ」

「僕は青歌ちゃんの処女膜が見たいな」

 左側と背後にいる男たちが聞くのも汚らわしい欲望を口にする。この男たちは頭の中で私をどのように辱めるか必死に考えを巡らしているのだろう。

『姫様、ドミネイターに捕らえられた女は玩具のように扱われ、売り物にされます。当然、その身が綺麗なままでいることは敵いません。絶対にです』

 かつてのヨミの言葉を思い出す。

 天津之黄泉の王族である前に私は単なる女。彼らにとっては格好の餌でしかない。カタカタと鳴りそうになる歯をグッと噛みしめる。

「ダメだ。こいつは最高司令に献上される。勝手に手は出せんよ」

 鎖を握る兵士が首を振る。

 元々、私はこの国の最高司令なる人物と婚姻させられる予定だった。それが嫌で天津之黄泉から逃げ出した。

「そうは言っても、他ボイドの王族なんて滅多にありつけませんぜ? それも膜付きのかわいいお姫様なんてレア中のレアじゃないですか。捕らえた時にはこの状態でしたって言えば大丈夫ですよ。それに、あんただって楽しみたいでしょ?」

「当たり前だ。こんな可愛子にチンポ突っ込みたくないやつなんていないさ。だが、もしこいつが処女じゃないって知れたら俺ら皆殺しにされるかもしれん。残念だが……」

 そこで男は言葉を切ると、何かを考えているかのように沈黙する。

 数秒後、その口がゆっくりと三日月形へと変化した。

「あぁ、そうか……処女のままであれば別に問題ないな」

 その言葉につられて、他の3人も不気味に笑う。

「ひひひ、そう来なくっちゃ。おあつらえ向きに尋問部屋もすぐそこだ」

「姫様、ゆっくり楽しみましょうぜ……」

 我慢の限界に達した男が背後からお尻を撫で始める。

「いやっ! 気持ち悪い、触らないで下さいっ!」

 身体を捩っても大した抵抗にしかならず、気味悪い魔の手からは逃れられない。興奮でじっとりと湿った無骨な手がお尻や太腿を撫で回す。薄い衣装のせいで、手の生暖かさをはっきりと感じてしまい、皮膚がザワッと粟立った。この時ほど自分の衣装を呪ったことはない。

「おいおい、堪え性のねぇ奴だ。どれ俺も……」

 さらに1人が私の黒い長髪へと手を伸ばす。

「や、やめっ……!」

 これ以上気持ち悪い手で触られたくないと暴れて抵抗しようとした瞬間、身体が前の方へと引っ張られた。

「ああぁっ!? 痛ぁぁっ!!」

 自分の手がお尻にグイッ押し付けられ、勢いでよろめいてしまう。肩と肘の関節がビリッと痺れて、鎖が股間を押し潰す痛みに思わず悲鳴を上げた。

「まぁ待て。こんなところで遊んでいるのを見られたくない。尋問室は目と鼻の先なんだ。少し我慢しろ」

「そうだよ。ぶひっ……青歌ちゃんも怖がってるじゃない」

 残りの2人が彼らを嗜める。だけど、決して私を助けてくれたわけじゃない。この光景を見掛けた誰かが参加してしまって、自分たちが楽しむ時間が減ってしまうのが嫌なのだ。私を触ろうとした2人以上に粘ついた視線を向けてくるのがその証拠。彼らもまた、頭の中で私を嬲る算段をしているのだろう。

 怖くないはずがない――かつてレイプされかけたことを思い出す。追い掛けられ、服を脱がされ、舐められ……そして犯されかけた。アソコに当たる硬い感触は思い出しただけで吐きそうになる。これからあれと同じ……いや、あれよりももっと酷いことをされるかも知れないのだ。泣き喚いて助けを求めたって何もおかしいことじゃない。

 だけど……

(耐えないと。泣いたら彼らを喜ばせるんだけ。どんな目に遭ったって真白さんたちみたいに……)

 震えそうになる手をギュッと握る。滅ぼしたいほどに嫌いでも、私は天津之黄泉の王族なんだ。敵の男に無様な姿なんて見せてやるものか。

「ここだ」

 前の男が立ち止まる。

 重く頑丈そうな扉の上には〝特別尋問室〟の文字。

「この施設にはこういう部屋がたくさんあってな。別に何てことはない、質素な部屋だよ。まぁ、身体に〝聞く〟ための道具が少々あるけどな」

 鉄同士の擦れる甲高い音を響かせながら開けられる〝地獄への門〟。中から溢れ出してくる空気は湿っていてカビ臭く、さながら瘴気を思わせる。

 男たちは情欲を滾らせながら一人また一人と部屋の中へと入って行く。

「どうした? 早く入って来い」

 私が立ち竦んでいると、グイグイと鎖が引っ張られた。

 ここに入ったが最後……何をされるかは火を見るよりも明らかで、自分から一歩を踏み出せない。机の上に置かれている見たこともない器具の数々。どう見積もっても身体に苦痛を与えるとしか思えない形状に恐怖心が止めどなく溢れ出す。

「おら、さっさと入れっ!」

「きゃぁぁっ!?」

 痺れを切らした男が乱暴に私の背中を押す。

 よろけながら部屋に入った瞬間、重そうな音を立てて扉が閉められた。

 さっきの決意が早くも揺らぐ。兵士全員が性欲を隠そうともしない目をしてにじり寄って来るのが見えたから。

 これから数時間に渡って彼らの歪んだ欲望を一身に受けることになるのを、この後私は嫌というほど思い知らされる。

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