ウィンヴルガ 9 Pathetic song 2

 これ以上問答していたら、さらに彼女たちを苦しめる。殺されてしまうかも知れない。ドミネイターたちは女性の命など何とも思っていないのだから。

「おっと、手を縛ったままでは立てないな。手伝ってやるよ」

「あっ!? きゃああぁっ!」

 突然、背後から身体をガバッと抱きかかえられる。男にとって、私の身体を持ち上げることなど容易いことで、一息の間に私は机の上に立たされた。

「ひゅー、良い眺めだぜ」

「足をもっと開けよ」

 男たちの軽口と視線が身体のあちこちに突き刺さる。

 手を拘束されたままでは恥ずかしいところを隠すこともできない上に、足を閉じることも許されない。

「何ですか、これ!! あなたたちは一体何がしたいんですかっ!?」

「ひひひ、だから身体検査だよ。見える範囲では怪しいものは持ってないとは言え、女には隠せる場所が多いからなぁ。例えば……」

 1人の男が近付くと、目線と同じ高さのところにある股間へと指を這わせた。

「ここ、とかな」

「い、いやっ! 触らないでっ!!」

 自分ですら身体を洗う時以外に触れることの無い部分を無遠慮に触れられる不快感と気持ち悪さで皮膚が粟立ち、慌てて身体を捩る。

 女の子にとって〝ここ〟は大切な場所だということは、教えられなくても何となく理解する。ドミネイターが女性を捕らえたら必ずここを蹂躙することは知っていたから、こうなるのは予想していた。だけど、実際に躊躇も繊細さも微塵も感じさせない雑な手つきで触れられて平気なはずがない。どれだけ覚悟したってし足りない。

「動くなと言ってるだろう。仕方ない……」

 股間に触れて来た男が再び端末を取り出すと、どこかに連絡を取り始める。

「俺だ。例のやつ、1本注射してやれ。あぁ、物分かりの悪いお姫様なんでな」

「な、なにを言って……」

「お前が抵抗するたびにはかりが苦しむってことだよ。1本で女兵士すら発狂しかねない代物だ。果たして何本目で壊れるかな……?」

 自分が抵抗することで、他の者に危害が及ぶ。卑怯でロクでも無いけれど、今の私にとってはこの上なく有効な手段だ。彼女たちが苦しむ姿を見せられるのはどうあったって耐えられない。

「…………分かり、ました」

 観念して再び足を開く。相手が見やすいように、触りやすいように……。

「なぁ、姫様。ここは何て言うんだ? 教えてくれよ」

 別の男が指でトントンと股間を叩く。緊張による汗で薄布がぴったりと貼り付いて、女性器の形をくっきりと浮かび上がらせてしまっていた。

「………………ち、膣です……」

「はははは! さすがお姫様、品が良いぜ。良いか? ここはオマンコだ、オ・マ・ン・コ! ほれ、言ってみろ」

「お、おま、んこ……うっ、うぅ……」

 頬を染め、羞恥に俯きながら悔しそうに絞り出した声にドッと沸く4人の兵士。

(何でもない、こんなこと何てことない……! 心を閉ざせばなんてこと……)

 必死に自分に言い聞かせる。そうしていないと不安に押し潰されそうだ。

 きっと彼らの要求はますますエスカレートする。耐え切る自信も、敗者ゆえに仕方のないことだと割り切る自信も無い。もう狐尾子もいない。〝大丈夫〟と己を洗脳して耐え忍ぶ以外に方法は無い。

「ねえねえ、せっかくだから初心なお姫様に僕たちで性教育してあげようよ」

「それ良いな。そうと決まれば……もう服は邪魔だなっ!」

 4人の中で最も大柄な男が力任せに私の服を破り捨てる。ビリビリと薄布が引き裂かれ、あっという間に白い膝上のソックスを残すのみとなった。

「うっ……うぅっ……こんな、こと……して何が楽しいの」

 男たちから滲み出る欲情と混じり合って、さらに淀んで粘り気すら感じる空気が全身を撫で回す。服に隠れていた女性特有の部位が余すところなく晒され、男たちの目を楽しませてしまう。

「成長途中って感じが堪んねぇっ!! やっぱり女はこれくらいじゃねぇとな」

「ひひ……あのぴったり閉じたマンコは味見せねば……」

「胸は小さいけど、乳首はちゃんと膨らんでるね。ぐふふっ、女の子が女性になろうとしてるんだね。もう生理はあるのかな? 赤ちゃん産めるのかな?」

「言い方が変態くせぇよ。そんなんだからお前とセックスするより拷問を選ぶ女がいるんだよ」

 4人全員が口々に聞くに堪えない感想を言い合い、オブジェと化した私の身体を評価する。

「裸になったところで……」

 1人の男が私の太腿の方へと手を伸ばすのが見えた。

「ひっ――!? やめっ……」

 身を捩ってその手を躱す。

 裸になると栓をしていた恐怖心が間欠泉のように湧き上がる。

 手を縛られているから恥ずかしくて大切な場所を隠すこともできず、自分よりも体格のいい男たちは服を着ているのだから、何をやっても勝てるはずがない。心は正直だ。どれだけ閉ざそうとしても、意思の力だけではどうしようもないことだってある。男たちに自分の弱さを見せてしまうことが悔しくて悲しかった。

「まだそんなこと言ってんのか! さっさと足拡げろ、大切な仲間が廃人になっちまっても良いのかよっ!」

 苛ついた男の怒声が響いて、反射的に身を守るように縮込めた。

 涙が頬を伝い落ちる。どうせロクな目に合わないんだから、本当はときこみたいに相手を睨み付けて言い返したい。はっきりと「嫌だ」と言い放ってやりたい。国を飛び出してからほんの少し強くなった気がしていたけど、やっぱり私は真白やヨミやしぐれのようにはできない。怖くて怖くて堪らない。

 だから、これ以上相手を怒らせないように、おずおずと足を肩幅まで開いた。決して従順になったのでは無いと心の中で言い訳しながら……。

「ほら~、そんな大声出すから青歌ちゃん怖がってるじゃないか」

 優し気な口調には騙されない。この太った男がこちらに向ける目線は、4人の中で一段と気味が悪い。他の男たちは胸や股間や太腿に目線を向けてくるのに、この男だけはニコニコとした表情を崩さずにじっと私の顔を凝視している。

「ごめんね、短気なやつばっかりで。野蛮人たちをこれ以上怒らせないために、さっき習った言葉を復習してみようね。ここは何て言うんだった?」

 太った男の指と鼻先が股間に触れるか触れないかの距離まで近付けられる。

 興奮で荒くなった鼻息が股間に当たる。それだけで自分が汚れてしまったような錯覚に陥ってしまう。

「…………お、まんこ……」

 消え入りそうな声で、教えられた単語を口に出す。男たちの卑下た顔を見たくなくてギュッと目を閉じながら……。

「もう少し大きな声で」

「おまんこ……」

「もう少し頑張って」

「おまんこ……!」

「う~ん、仕方ないけど、お注射1本追加かな」

「お、おまんこっっっ!!!」

 部屋中に響き渡る大声で卑猥な単語を吐き出した。

 裸を見られて恥ずかしい言葉を言わされて……あまりにも惨めで、いっそのこと乱暴された方が泣き叫んでいられる分、楽なんじゃないかとさえ思ってしまう。それだと心を石にしていれば身体だけ穢されるだけで済む。だけど、これは泣いたところで許されることも無く、身も心も同時に切り刻まれる。

「ひひ……」

「おい、もっとお姫様に新しい言葉教えてやれよ」

「オッケー。それじゃあ次……ここは何ていうか知ってる?」

 男はそう言うと、ぷっくりとした左右対称の割れ目部分を両手で摘まんだ。女性器を直接触られるのは初めてではないものの、その嫌悪感に慣れることは絶対にない。手を振り払いたいし、嫌だと叫びたい。でもそれは叶わないし、許されない。

「知ら、ない……」

「ここはね、大陰唇って言うんだよ」

「だい、いんしん……」

「そして、その内側にあるヒダヒダが小陰唇」

「……しょう……いん、しん……」

 求められるままに復唱する。

 絶対に触れさせてはいけない大切な秘所が爪の伸びた湿った手で犯される。目を瞑っていなければ本当に吐いてしまいそうだった。

「しっかりと覚えられたね。さらに奥にあるのが……」

 両の親指でグイッと陰唇を押し拡げられ、その先にある〝穴〟をまじまじと観察される。中に生暖かい空気が入り込んで来るのがはっきりと分かる。

「ぐひひひっ! 青歌ちゃんの処女膜だ! ちゃんとあるよっ! ほら、処女膜だよ、言ってみて」

「……処女膜……青歌の、処女膜……うぅっ、ううぅぅっ……! お願、い……もうやめ……」

「なかなかじっくり見ることなんかねぇもんな。処女だけあってやっぱり中は狭いな」

「肉も綺麗なピンク色だ。さぞ、チンポを締め付けてくれることだろう」

 代わる代わる性器を拡げては中を覗き込まれ、内部の様子を実況される。耳を塞ごうにも手は封じられて動かせない。私はブルブルと震えながら身を焦がす羞恥に耐えた。

「処女膜があるってことは、武器は持ち込んでないってことだな」

「ははは、これで一安心だ。次にいくか」

 全員に膣内を観察されたところでようやく〝身体検査〟が完了した。

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