別段、この時が一生のうちに限られたわけでもないのに。だが替え難いこの感覚は。決して捨て置いてはいけないと言う、この奇妙ながら、燻る熱が頬を伝う。
「おい、柊。泣いてんのか」
「泣いてませんよ。……泣いてません」
面を伏せて他のメンバーからは泣き顔が見えないようにする。それが精一杯に思われた。
どうしてなのだろうか。
これまでだって、命の危機に立たされたこともあった。危うい綱渡りの時は何度だってあったのだ。
だと言うのに――。
唐突に訪れたこの平穏に目が霞む。
「そうだ! 踊ろうよ! 炎があるんだから、踊ったほうがいいはずさ!」
エルニィの提案に南が手を叩く。
「そうね! せっかくの林間学校なんだもの。音楽は用意してあるわよ」
珍妙な、それでいて記憶の奥底に根付くようなみょうちくりんな音楽が鳴り響く。
そんな中で、手を繋いで踊るアンヘルメンバーに、赤緒は何も言えなくなっていた。
水を差すようなことを言えるはずもない。
「……小河原さん。何だか、分かっちゃいました。永遠とか、そういうのってないんだって」
「そうか」
「……言葉、少ないんですね」
「こういう時にいい言葉なんて浮かぶかよ」
「……そうですよね。でも、今の私には、そのほうがいいかもしれません」
今よりももっと、辛くなるから。
今よりももっと、この安寧に甘えたくなるから。
だから、下手に巧妙な言葉繰りで誤魔化されるよりも、拙くっても、今を生きられるほうがいい。
そんな予感に、赤緒にはキャンプファイヤーの炎がつくづく、身に染みるのだった。
『さぁ、みんな! 片付けは人機で一気に、よ! 来た時よりも美しく! が林間学校の基本!』
南の《ナナツーウェイ》から張り上げられる声を受けつつ、人機で薪を拾い、自分たちの手で、校舎を掃除していく。
そんな中で赤緒はさつきと顔を合わせていた。
並んで窓を吹いている最中に、彼女は声を発する。
「……何だか南さん、私だけのためって感じじゃ、なかったですね、今回の」
さつきも薄ぼんやりでも分かっているのだろう。この思い出も、いつまでも永久なんてことはなく――。
「……でも、だからこそ、だったのかもしれないね。南さんもきっと、色んな想いがあるから……だから私たちに繋いでくれたんだと思う」
「……ですね。立花さんがたくさん、写真を撮ってくれたみたいなんです。帰ったら……」
微笑むさつきの横顔に赤緒は一つ頷いていた。
帰ったら、きっと万感の思いと共に、アルバムを捲る日が来るから――。