JINKI 110 踏みしめる、この瞬間に

 ――微かに切れ切れになった記憶の中で、囃し立てる子供の声を聞く。

 それは渦巻く断片の記憶に墨を垂らしたかのように広がり、やがて拡散し、そして霧散する。

 一滴の記憶の片隅に過ぎないそれを辿ることは叶わず、何度か手繰り寄せようとして、やはり無駄か、と諦めていた。

 何度も、何度だって、この身が引き裂けそうになりながらも思い返そうとして、それでついぞ思い出せずに雑多な思考の只中に消えゆく。

 それはすれ違う人波のように。

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