「――ウチで清掃?」
「そう! 人手がなくって困ってるでしょ? 広い銭湯だし、ボクらが掃除してあげる!」
「……何で風呂掃除なんて……」
文句を言うルイの口を塞ぎつつも、エルニィはデッキブラシを手に取る。
「じゃあ、おじいさん、ボクらは掃除に入るねー」
ちょうど夕刻に入る前の掃除の時間帯だ。
だだっ広い銭湯で二人はデッキブラシを握り締めて掃除に入る。
「……頭脳労働だけかと思ったら肉体労働もなんて……。ねぇ自称天才。あのゲームってそんなに価値があるものなの?」
「言っている暇があったら手を動かして! ……まぁ、正直ボクも、何でここまでしないと、ってのは思ってるよ」
「じゃあ馬鹿みたいじゃない」
デッキブラシを携えたルイが憮然とする。その様子を視野に入れつつ、エルニィは考えを浮かべていた。
「……んー、何て言うのかな。ホラ、ボクらのお仕事って基本的にはあんまし世間に公表されないわけじゃん。でも、何か……あのおもちゃ屋に集った子供たちの夢くらいは、叶える力があるって証明したかったのかもね」
「……自己満足じゃないの」
「そうだよ? でも、さ。ゲームクリアも人機の開発も結局は自己満足だし、延長線なのかもね。……ボクはつまんないとは思わないなぁ。そりゃ、疲れはするけれど。ルイはどう?」
「……言わせないでよ。すぐに済ませるわよ。……夕食に間に合わなくなっちゃう」
言葉で言い表さなくっても伝わるのだろう。エルニィはサムズアップを寄越していた。
「……さすがは、ゲームの戦友!」
「あんただけじゃクリアできないからやってあげているだけ。もっと喜んでみせなさい」
それでもさほどの文句が出ないところに、エルニィは頼り甲斐を感じていた。
「……これ、キョムとのバトルでもこういう感じだよね。背中は任せた、って感じ」
「何を今さら。トーキョーアンヘルはそうでしょ。背中を任せるに足る相手、なのはお互い様」
澄ました様子でありながら、ルイの内心は燃えているのは窺えた。
負けないように、デッキブラシを走らせる。
「よぉーし! やり切ってやるんだから!」
「――っ、疲れたぁ!」
柊神社の居間になだれ込んできたエルニィとルイに、赤緒はびくつく。
「お、お二人とも何が……? 何だか泥だらけ……」
「あー、いいってば。それよりも赤緒、ご飯をお願いー。もうお腹ペコペコー」
「そ、それはいいですけれど……ルイさんまで?」
「……今日は疲れたわ。赤緒、あったかいご飯を任せる」
二人分の注文を受けて赤緒は首を傾げたところで、不意に子供たちが分け入ってくる。
「姉ちゃんたち、スゲー! 本当にあのカセット買っちゃうんだもんなー!」
「早速遊ばせてよー!」
「えっ……何で子供たちが……」
その問いかけにエルニィとルイは目線を合わせてから、二人にしか分からない微笑みを浮かべる。
「……まぁ、ちょっとね。色々あったってわけ」
「そう、色々……ね」
何だか分け入れない空気に赤緒は早速金色のゲームカセットを起動させた一団を見守る。
するとゲームが始まるなり、空気が固まっていた。
「……姉ちゃんたち、このゲームって……カセットの外は確かに限定品だけれど……」
「このゲーム画面って……」
硬直する子供たちにエルニィは呆然と口にする。
「……こ、これ、有名なクソゲーじゃん……」
エルニィとルイが将棋倒しのように脱力して倒れ込む。
思わぬ事態に赤緒は慌てていた。
「だ、大丈夫ですか? 立花さんにルイさんも……」
「いや、うん……何だか今日は疲れた……」
「そうね。……徒労ってこう言うことを言うのね……勉強に……」
二人して重なり合ってがっくりと肩を落とす。
子供たちが飽きて家路につく中で、赤緒はすっかり泥と汚れの跳ねた頬っぺたのエルニィを窺い、それとなく呟いていた。
「……何だかよく分かんないですけれど……頑張ったんですね、お二人とも……」