「何でも答えられちゃうって言っていたんですけれど、何だか黙っちゃいましたね……」
「つまんないの。じゃあこれは? 片手に花束が三つ、もう片方の手に花束が二つ。合わせて何束?」
「えっと……五束ですか?」
「……うん? その問題って、確か……」
『答えは、一束です。花束は増えませんから』
思わぬ符合にルイも目を見開いている。
「あっ……そういやこれ……南米で教えたの、オレだったか。だから知ってやがったんだな」
「えっ、あっ! そっか……ですよね、一束なんだ……。あれ? ルイさん? 固まってますけれど……」
「……このなぞなぞ、小河原さんが得意だったのよ」
「ヤベェ……余計に疑念を深めちまったか……?」
「えっ? お兄ちゃんの? じゃあこの子、なぞなぞも答えられちゃうんですね……すごいなぁ、立花さん」
「納得いかないわ。じゃあ、これ。魚が泳いでいるのが水族館。止まっているのは何カン?」
『図鑑、ですね』
続けざまに答えたせいでルイはぐむむ、と静かに地団駄を踏む。
「……黄坂のガキのなぞなぞ、オレが教えたのばっかだな……」
「えっ、あ、そっか……ズカン、って意味なんだ。へぇ、なぞなぞもすぐ分かっちゃうんだ」
さつきは素直に感心しているが、それでも得心しないのがルイらしい。
「朝に四本足、昼に二本足、夜に三本足、これ何だ?」
『人間、ですね』
「……マジにオレの教えたなぞなぞばっかりだな、あいつ」
「えーっ、何で……?」
さつきは本心で分からないらしい。ルイが補足説明する。
「……人間の一生をたとえているのよ。生まれた頃は手と足の四本でハイハイしているでしょ。で、成長すると二本足、老いると杖と合わせて三本になるわ」
「あっ、そっか……。じゃあなぞなぞも完備してるんだ。このマジロって思ったよりもすごいんですね……」
「そんな妙な機能の機械があるわけねぇだろ……。黄坂のガキはともかく、さつきはもうちょっと人を疑ってくれよ……」
こちらの願いが通じたのか、それとも飽きたのか、ルイがぷいっと視線を背けてさつきから逃げていく。
「……つまんないの。さつき、これ借りていくわ」
「あっ! 私の水着! 返してくださいよー!」
再び追いかけっこが始まる中で、両兵はやっと自由になれると、物陰から這い出ようとして、マジロの前に歩み出ていた赤緒を発見して慌てて隠れる。
「……柊? あいつ、超能力モドキで見えるから気になって戻ってきやがったのか……。頼むから、帰ってくれよ……」
「……何でも分かるんですよね、この子……。立花さんのお墨付きだし……」
「何でもはわかんねぇから! とっとと戻ってくれ!」
願っていると赤緒はこほんと咳払いして、少しだけ頬を紅潮させる。
「じゃあその……小河原さんが私のこと……その、どう思っているかだとか……」
指を合わせてもじもじする赤緒に両兵は違和感を覚えてその様子を窺う。
「……その、操主として、私ってよくできてると思いますか? だってその……足を引っ張っているんじゃないかって、たまに思っちゃうことがあってその……悩みってわけでもないんですけれど……」
どうやら誰も聞いていないと思って赤緒は悩み相談をぶつけているらしい。
両兵はマイクを通して応じていた。
『ひいら……赤緒さんはよくやっていると思いますよ。両兵クンもちゃんとそれは見ています。操主として、きっちり勉強しているのは知っていますし、血続としても鍛錬しているのも知っています。なのでもっと自信を持ったら如何ですか?』
「自信、ですか……。でも私、ぐずだし、のろまなので、その……こんなのまともに話したら、怒られちゃう……。しっかりしろ、柊、って……」
「……あんの馬鹿。それは――」
『それは怒っているわけではないと思いますよ? きっと赤緒さんを、信頼しているからこそ出る言葉なんだと思います』
「信頼……。そう、なんですかね。……少しは役に、立てているんでしょうか」
『……少なくとも、最初よりかは随分と頼りになるようになってきた。もう少しのところはあるが、それも込みで伸びしろだ……って両兵クンは言うと思います』
「ですかね……。何だかマジロさんに話していると、ちょっとだけ落ち着きます。……何ででしょう?」
『さぁ? ボクはただのAIですので』
「も、もうっ。そこで分かんないふりしないでくださいよぉ……。でも、ありがとうございます、小河原さん」
『いえ、お役に立てて光栄です。……ん? 待て、小河原って、今……』
マイクを通した声に、あっと気づいたのは同時で、赤緒が赤面して神社の中に飛び込んでいく。
両兵がぼんやりと眺めていると裏口から回ってきたエルニィがちょんちょんと背中を突いていた。
「両兵ー、もうお客さんも来ないでしょ? そろそろご飯だって……どったの? 固まっちゃって」
「……いや。柊、あの野郎……最初から分かってやがったな……」
マイクを握り締めた自分にエルニィは小首を傾げるばかりであった。
「――だから、南。新しいなぞなぞを教えて。あのマジロって奴に一泡吹かせるんだから」
「何よぉ、ルイ。あんた、なぞなぞなんて子供のすることだって南米で言っていたじゃない」
ルイが南に懇願するのを食卓で眺めつつ、メルJがプリンに醤油をかけるのをさつきが驚嘆しているのを視界に入れる。
「ヴァネットさん? 何やってるんですか! せっかくのデザートのプリンを……」
「ふふん。知らんのか? さつき。プリンに醤油をかけると、ウニの味になるのだぞ?」
「えっ……そうなんだ……知らなかったなぁ……。あれ? 何でお兄ちゃんと赤緒さん、さっきから顔を合わせないんですか?」
純粋な疑問をぶつけてくるさつきに、赤緒が当惑する。
「さ、さつきちゃん……? それはそのー」
「さぁな。どっかに万能のメカが居て、それに自分の気持ちをぶつけちまったマヌケがいるんだろ?」
さつきが首を傾げる。赤緒は耳まで真っ赤になってカレーを口に運んでいた。
「おや、赤緒さん。辛かったですか?」
「い、いえっ! その……ごちそうさま!」
台所に取って帰していく赤緒を視野に入れつつ、両兵は味噌汁をすすってぼやいていた。
「……あれでそういうところがあるから、まだ伸びしろがあるって言ってんだよ、ったく」