胴体を射抜き、血塊炉を停止させる。そのままの勢いを殺さずに、撃墜した人機を足場にして、《バーゴイルミラージュ》が跳ねていた。
敵のプレッシャー兵装が満身創痍の下敷きにした人機を射抜く。
瞬間的な超加速で肉迫し、メルJはスプリガンハンズの刃を返していた。
「続いて二機!」
峰打ちを施された《ヴァルキュリアトウジャ》が降下する。それを許さず、【ミストレス】と名乗った隊長機がプレッシャーの光線で粉砕していた。
『何で……イヴ隊長――』
通信網に焼き付いた操主の声を【ミストレス】は一蹴する。
『黙りなさい。弱い操主は今次作戦には要らないのよ』
「……言うじゃないか。お前のほうがよっぽど冷酷に見えるがな」
『そっちも、回るのは舌だけのようね! 私の操る《ヴァルキュリアトウジャ》に、一撃でも与えられるかしら! ファントム!』
【ミストレス】の《ヴァルキュリアトウジャ》が掻き消える。
「……確かに奴さんの言う通り、機体性能はそれなりだな」
「ああ、だが――全て、遅いな」
空間を飛び越えて迫ったランスの穂先を、《バーゴイルミラージュ》はスプリガンハンズを翳して受け止めてみせる。
眼前で爆ぜたスパーク光に相手のほうがうろたえていた。
『……何で。《シュナイガートウジャ》の戦闘データを得た、空中ファントムの超加速なのに……ッ!』
「知らないようだから教えてやる。シュナイガーはもっと速かった。それに、お前のように、戦闘の最中に余計なお喋りなんてする操主では、なかったのでな」
機体軸を回転させつつ、スプリガンハンズを呼気一閃する。
頭部を狙い澄ました一撃を相手は予想通り、掻い潜って距離を取っていたが、それでも伝わったはずだ。
こちらの本気が。
『……な、何なのよ。アンヘルの木っ端操主風情が……ッ!』
「【ミストレス】、だったな。できる操主なら今の交錯で分かったはず。至近距離でも中距離でも私に分がある。それでもまだやるか?」
舌打ちが通信に滲み、残存した《ヴァルキュリアトウジャ》が撤退機動に入っていく。
『……いずれ借りは返す。この、【ミストレス】が……』
相手が完全に射程外に逃げ去ってから、メルJは戦闘神経を緩めていた。
「……危ねぇな。これ以上の継続戦闘はこっちもヤバかったろ?」
「……それでも虚勢を張らなければ、今の相手は下がらなかっただろう。それに、もしもの時にはお前も居てくれる。頼りにはしていたんだぞ、小河原」
「そうかい。……いずれにしたって、そこそこスッキリしたんじゃねぇの? シュナイガーのこと、馬鹿にされっ放しじゃ性に合わねぇだろ、てめぇは」
「まぁな。……それにしたところで、いつになったら私のシュナイガーは帰ってくるんだ。帰投したら、まずは立花と黄坂南に問いただしてやらねば」
むくれたメルJが帰投ルートを辿る。
飛翔する《バーゴイルミラージュ》の中で、両兵はふっと呟いていた。
「……まぁ、今のてめぇなら、シュナイガーの誇りとやら、取り戻したっていいと思うんだがな」
「――《ヴァルキュリアトウジャ》を擁する一団に関して、米国は関知せず、と。まぁ、想定通りね」
呟いた南にエルニィが筐体を弄りながら応じる。
「上々じゃないのー? だって、今回は敵を下がらせることが目的じゃん。それに、米国は絶対に譲らないだろうしねー」
「そうね。あの子も無事に帰って来たし。ま、小言は言われちゃったけれど。いつになったらシュナイガーは帰ってくるんだってね」
「……それ、さ。メルJもあんましこだわってないんだと思うよ。だって、シュナイガーがなくったって、ボクらは、もう……」
「そう、ね。あの子も分かっているとは、思うんだけれど」
紡いだ絆は、簡単に切れるものではないはずなのだから――。