のれんを潜って入ってきた作木に小夜は応じる。
「作木君。レイカル、持って帰って。さすがにもう夜中だから」
「そうします。……でもどうして二人が?」
「……説明すると長くなっちゃうけれど、要はゴールデンウィークの出がらしみたいなものよ。作木君も呑んでいく?」
「いえ、僕は自転車で来ちゃったので……」
「そ、創主様ぁ……。私はその……邪魔なんでしょうか?」
涙目に訴えかけるレイカルに、作木はううんと頭を振ってから、胸ポケットより何かを取り出す。
それはオリハルコンのサイズのカーネーションの花束であった。
「これ、は……?」
「いや、何だか普段からずっと居てくれるのを、ありがたいと思う気持ちが薄れていたのかなぁと思って。ささやかなものだけれど、許してもらえるかな? レイカル」
レイカルは花束を手に、大輪の笑顔を咲かせる。
「もちろんです! 創主様! 花束は……もらうのが初めてなので……。こういう気持ちって何なんですかね! 胸がぴょんぴょんします!」
「それはきっと……嬉しい、じゃないかな」
「嬉しい……。創主様、私からあげられるものはでも、ほんの少しのものだけで……」
「そんなことないよ、レイカル。レイカルがくれたものは多分、僕の人生を変えるものだったんだと思う。だから、ありがとうの気持ちのカーネーションなんだ。……まぁ、母の日にはちょっとだけ早いけれどね」
はにかんだ作木に、これだから好きになったのだな、と小夜は気持ちを新たにして二人のやり取りを眺める。
するとカリクムが袖を引っ張って来ていた。
「……小夜……」
「分かってるわよ。ナナ子に頼んでカーネーション、あんたにもあげるから。感謝を形にするのって、難しいわよね。でもそれができるから、人間なんでしょう」
そう、絆は形にしなければ伝わらないわけではないが、想いは形にしなければ伝わらない。
せめて、感謝には豪奢なカーネーションで――。