理解の追いつかない作木に小夜は説明する。
「事の顛末はこうよ。ジューンブライド、六月の花嫁ね。それの影響を受けて、ナイトイーグルとツインキャンサーはこれを機に身を固めようと決意したの。でも、なかなかそんなこと、いくら主人のオリハルコンにも言い出せないわよね? もっと言えば創主には。だから、二人で精一杯の準備をして、つつましやかに執り行おうとしたのを、ハウルの交信でレイカルはついつい聞いちゃったのよ。で、後戻りはできないからって言うんで、しっかり勉強して、ジューンブライドのために普段使っていない脳みそを使って、それで元気がなかったってわけ。そうよね? レイカル」
「な――ッ、割佐美雷、何でそこまで……!」
「役名で呼ぶな! ……とまぁ、こういうわけなのよ。レイカルにしてみれば、ナイトイーグルは相棒だし、何よりも欠かせない仲間でしょ。なら、一番幸せになれる時に、応援してあげないでどうするって話だったみたい」
「……私は馬鹿らしいって思ったんだからな。それに……修行しないとか言い出すし。その上に勉強で元気ないとか……本末転倒じゃんか!」
カリクムの不満の種はそこか、と作木は納得して、止まり木の上に居る牧師姿のレイカルへと目線を移す。
レイカルは少し困惑しているようであった。
「その……創主様。怒って……ますよね? 私が修業をサボって、その……二人の結婚式を盛り上げたいなんて思ったなんて……」
「いいや、そんなことないよ、レイカル。だってレイカルは、イーグルとキャンサーのために、できることは全部やってあげようと思ったんだろ? それって……素敵じゃないか」
「素敵……そうか、こういうのが、素敵って呼ぶんですね! 創主様!」
「うん……。でも、元気のないレイカルはちょっと心配だったかな」
その本音だけこぼすと、レイカルは止まり木からこちらへと抱き着いてくる。受け止めて、作木はレイカルの言葉を聞いていた。
「……創主様! 私にこんなこと、できるのかって不安だったんです、実は……。でも、ナイトイーグルもキャンサーも本気だった。本気の眼って、だって裏切れないじゃないですか。だったら、なおさら……っ!」
分かっている。レイカルは本気の相手を、無下にするような性格ではない。
「うん。僕も、レイカルがそこまでイーグルとキャンサーのことを考えてくれて、ちょっと嬉しい。でも、一人じゃないんだ。ナナ子さん」
「はいな! 水くさいわよ、レイカル! この無敵のナナ子様を差し置いてジューンブライドなんて! ブラジャーからミサイルまで何でも取り揃える私を嘗めなさんな! すぐに花嫁衣装を見繕ってあげるわ! イーグル!」
飛び出したナナ子が予め用意していた布を用いてイーグル相手に花嫁衣装のオーダーを請け負う。
その姿を目にして、どうしてなのだか小夜が泣いていた。
「さ、小夜さん……?」
「あ……ごめん、作木君。でも何か……他人の結婚式でも泣けてきちゃって……。六月の花嫁、かぁ……私たちはまだ先になりそう」
そうぼやいた言葉の最後までは聞こえなかったが、即座にナナ子は花嫁衣装を編み出し、イーグルに着せてから、もう一着をレイカルの目の前に差し出していた。
「な、何だこれは……フリフリしていて戦闘力の欠片もない……」
「何ってレイカル。あんたの花嫁衣裳じゃない」
「わ、私の? ……失敬だな。私は誰とも結婚しないぞ?」
「作木君、スーツの一着くらいはあるわよね?」
どういう、と問いただす前に、スーツの寸法が始まり、うんとナナ子が頷いた時には既に着替えの準備が始まっていた。
「あのー……これはどういう?」
「何って、私たちを心配させたんだから。せめてレイカルと疑似ジューンブライドでもしなさいよ」
その提案に待ったをかけたのは小夜である。
「何言ってんの、ナナ子! 私、聞いてないわよ!」
「そりゃ言ってないからねぇ。でも、せっかくなんだし、あやかりの意味もあっていいんじゃないの?」
肩を竦めるナナ子に小夜は怒りを押し殺しつつ、レイカルを涙目で見据える。
「ぶ、ブーケトスは絶対に取るんだからね!」
「わ、割佐美雷? 何だ、“ぶーけとす”って?」
「花嫁がブーケを投げるんだ。それを取った人は結婚できるって言う……おまじないみたいなものかな?」
「へぇ……なら投げれば投げるほどに高得点なんですかね! 創主様!」
砲丸投げか何かだと勘違いしているようだが、今はいいだろう。
ナナ子はちゃっかりと牧師衣装に身を包み、自分とレイカル、それにイーグルとキャンサーの祈りの言葉を紡ぐ。
「――愛し合うことを、誓いますか?」
イーグルとキャンサーは誓い合ったらしい。まごついていると、ナナ子は面白がって先に進める。
「では、誓いのキスを」
「き、キス……?」
戸惑う作木に、レイカルが腕を組んで首を傾げる。
「何だ、キスって?」
まずそこからのレイカルに対し、イーグルとキャンサーがお互いの角をコツンと交わし、難なくキスを終える。
――だが自分は……。
「……ごめん、レイカル。キスは……もっと大事な時に取っておこう」
「それはいいですけれど……キスって結局何なんですか? 美味しいんですかね?」
――今回一番に参ったのは自分だな。
そう心に結んで、作木は雨の空を抜ける、爽やかな青空を仰いでいた。
「……夏が来るね」
「夏? また海ですか! 海ならぜひ行きたいです!」
いつもの調子に戻ったレイカルだが、まだ花嫁衣裳なので直視できない。
そんな自分たちを小夜やカリクム、ナナ子たちは面白がって観察するのであった。
「……雨ばっかりの六月の季節も、なかなかにオツなものよね」
――その二日後。
「……まさかイーグルとキャンサーが成田離婚とは……」
げんなりする小夜にカリクムが言いやる。
「どうにも……やっぱりレイカルの虫食いが原因らしいんだよなー。あれで友達結構離れているみたいだし……キャンサーも可哀想だよ」
「……で、イーグルは?」
「新婚旅行ブッチされたからキレてどっか飛んで行っているらしい。傷心旅行だと」
何だかんだで、上手く収まるはずもないのだ。
「……ま、それが私たちってことなのかしらね」