「――でも、こんな目に遭うなんて……」
重たいバイクを押しながら、赤緒が恨み節を呟くと、両兵は不服そうに応じる。
「……しゃーねーだろ。多分、道中でバッテリーが上がるとは思っていたんだが、遠出し過ぎちまうなんてな」
「……小河原さん? 分かってツーリングに誘ったんですか?」
「あー、うっせぇ。走っている時にゃあんだけ小さかった声なのに、今は馬鹿みてぇにうっさい声出ンだな、てめぇも」
「そ……そういうもんだいじゃありませんよ! ……もうっ。公衆電話がある場所まで、せめてバイクを押していかないと……」
「アンヘルの連中に助けを乞う以外に道はねぇよな。このままじゃ晩飯にありつけん」
きゅーと弱々しく腹を鳴らした両兵に赤緒は心底呆れ返ってしまう。
「もうっ! そんなんじゃ、駄目じゃないですかぁ!」
「……でも、お前だって別に乗り気だったろ? 文句言うなって」
「言いますよ! 文句くらいは! 何だっていつも無計画なんです? 小河原さんは!」
「……もう走ってねぇンだからデケェ声出すなよ。余計にカロリー食っちまうぜ?」
「知りませんっ! ……もしうまい具合にみんなが迎えに来ても、小河原さん、ご飯少な目にしますからっ!」
「あっ、それはずりぃーぞ! 柊! お前がこの辺で引き返せばとか言ってくれりゃ、ここまで遠出はしなかったんだろうが!」
「そんなの言ったって、小河原さん、聞いたんですか?」
「……それはその時次第だろ」
見苦しく言い訳をする両兵からぷいっと顔を背け、赤緒はふと、空を仰ぐ。
満天の星空が数多の輝きを抱えて今にも落ちてきそうだ。
「……星、綺麗ですね……」
「あー、山間部まで調子こいて来ちまったからな。それでも南米よりかは少ねぇさ」
「……小河原さん。別にこれ、守ってくれるつもりのない、そういう言葉でいいんですけれど……」
「何だ、面倒くさい前置きしやがって。ハッキリ言えばいいじゃねぇの」
「……その、もし……もしもで、いいんですけれど……。南米、ベネズエラの土地に行くことがこの先、あれば……。その時には今日みたいに、何にも考えずにバイクの後ろに乗っても、いいですかね……?」
両兵はきょとんとしてこちらを見つめていたので、慌てて訂正しようとする。
「あっ……その……! やっぱりなしでも……――」
「いいぜ、別に。ただ……今日みたいに何も考えずに走れるような日が来るかどうかは、その時次第だけれどな」
「……もうっ、こういう約束まで適当な……」
「いいじゃねぇの、適当上等で。そんな約束のほうが多分……守るに値するのかもな」
「……守るに値する約束……ですか?」
「分からん。こう言っているのも戯れ言に近いんだろうが、そんなもん、それこそ風任せさ。こいつに乗ってる時と同じでな」
「……風任せ……でもそっちのほうが……」
きちんと交わした約束よりも、時には愛おしい。
そう思えるような日が、きっと、来るはずだから――。