半ば呆れ調子でいると、不意にラジオのチューナーが思わぬ波長を捉えていた。
何らかのメッセージを受信したラジオを、ルイは抑え込んで耳をそばだてる。
「何かの……電波? まさか本当に宇宙人……――」
そこまで口にしたところで、自衛隊基地へと割って入った黒い影を二人は目にする。
「《バーゴイル》だ! 迎撃指令!」
『……こんな時に』
「邪魔なんてしてくるんじゃ……」
プレッシャーライフルを放つ前の《バーゴイル》へと、ルイはメッサーシュレイヴで斬り込む。
平時よりも鋭い剣筋を立たせて、《バーゴイル》の両腕を即座に両断していた。
それはエルニィも同じのようで、槍の穂を《バーゴイル》の血塊炉へと叩き込む。
「夢を――!」
『壊すな――っ!』
即座に二機の《バーゴイル》を迎撃せしめた自分たちへと、自衛隊員の歓声が響く。
「さすがはトーキョーアンヘルのお二方! キョムの動きを察知してのことだったのですね!」
思わぬ賛辞にエルニィとルイは人機越しに視線を交わし合ってから、大仰なため息をついていた。
「あれ? 違うのですか?」
戸惑う自衛隊員を他所に、二人は人機でとぼとぼと家路につく。
『……何だか疲れた。帰ろっか、ルイ』
「まぁ、そうね。……やっぱり宇宙人なんて居ないのかしらね」
『いやー、それとこれとは別でしょ。ただまぁ、出端を挫かれたというか……何だか醒めちゃったね……』
確かにキョムのような分かりやすい脅威が居るのに、宇宙人がどうこうはさすがにどうかしていたと思われても仕方あるまい。
自分もはしゃぎ過ぎた、と反省する。
「……嘘っぱちなのかしら。UFOも宇宙人も」
『いや、分かんないよー? 分かんないから面白いんでしょ』
「……何だかはぐらかされているようで、嫌よ、それ」
とは言え、現実的ではなかったのかもしれない。
そもそも武力と叡智の証である人機を操っておいて、UFOや宇宙人にかぶれるのも可笑しな話でもある。
『でもさー、ボクは今日、楽しかったけれど? ルイはどうだった?』
「……つまんなくは、なかったかも」
『でしょー? ボクら、根本は似通っているのかもね。嘘でもホントでも、別にどっちでもいいんだってば。その時その時の刹那的な生き方って言うのかな』
「何それ。楽しけりゃ何でもいいってことじゃない」
『えー? 違う? ……ボクは楽しかった。何だかな、一番科学とか色々分かっている人間がこんなこと言うのは変かもなんだけれどさ。こういう、不完全だったり不確かだったりをかつてのボクは信じられなかったから。何だかそれだけで、世界が色づいて見えるんだ。この色が、ちょっと前までは数式だったのに比べればね。数式で解明できないことはないって、本気で思っていたもん。だから、ああいう……チープだし、何なら手作り感満載だけれどさ。嘘っぱちでも面白そうなほうを信じるって、それだけでロマンじゃない?』
嘘でも、何でも、結局は受け取り手次第であったとしても。
それでも、信じて楽しければ、それは本物なのだろう。
「……馬鹿馬鹿しい。結局あんたは、嘘って分かっていて楽しむってことをやっていたわけでしょ?」
『えー、駄目かなぁ?』
「駄目も何も、根本では信じていないのは――」
そこでルイは《ブロッケントウジャ》に視線をやろうとして、夕暮れ時の空に、不自然に輝く何かを目にしていた。
ハッと望遠映像に入ろうとして、その映像が何故なのだかレコードされないことに気づく。
「……何あれ……。《バーゴイル》か何か?」
だが《バーゴイル》ならば敵として索敵できるはず。
だと言うのに、その全く不明な飛翔体は何故なのだか人機に搭載された機能では録画できず、何ならこうして見ている今でさえもはっきりしない。
『ルイ? どうしたの? 何かあった――』
エルニィが振り向いた途端、それは流星のように消えて行ってしまった。
一瞬の出来事だが、ルイは呆然とする。
『ねぇ、何? 黙ってちゃ分かんないよ』
「……そう、なのかもね。居るか居ないか、とかじゃなくって、信じるか信じないか、か。そっちのほうが随分と――面白い生き方なのかも」
『ねぇ、ルイー? 何だったのさ』
「教えないっ。……ああ、そっか。こういうのが……特別なんだ」
ぷいっとそっぽを向いてから実感する。
誰彼構わず話すから特別なのでも決してない。
「……自称天才。嘘でも、張りぼてでも……今日はよかった日だと思える」
『ん、まぁそう言ってもらえるのなら、ボクも手を貸した意味があるってもんだね』
二人で並んで、人機で歩いているのが何だかもどかしく、ルイは《ナナツーマイルド》のコックピットより跳ね出ていた。
「……神社まで競争」
『人機は?』
「アルファーで後でも自律行動させられるでしょ。いいから、今は……走りたい気分なの」
「そいつは同意見、かな?」
エルニィもコックピットから軽い動作で躍り上がり、そのまま着地する。
「じゃあルイ! 明日も明後日も、ボクと一緒に、UFO探し、してくれる?」
「……何を分かり切ったことを言っているのよ、あんたは。……するに決まっているでしょ。見つかるまで……ああ、それも違うかもだけれど。一緒に見つけるまではやってあげる」
「それでこそっ!」
走り出したエルニィに追いすがり、ルイも駆け出す。
視界の中に滲み込んでくる夕映えが眩しく、少しだけ目を細めて、果ての空へと呟いていた。
「……いつかは見つけるから。その時まで……」
振り切るように走り出す。
エルニィとの競争は本気になりがちなので、今も全力で走るまでだ。
「ルイってば、遅いよー。そんなんじゃ置いてっちゃうね! 晩御飯はボクの一番乗りー!」
「……勘違いしないで、自称天才。私がクリームシチューをおかわりするのよ」
互いに言葉を交わし合って、そして少しだけ先を見据える。
何が待っているのかは分からない。
未来の話だ。
何もないのかもしれないし、その先に掴めるものもあるのかもしれない。
だが、その先に何が待っていようとも、夢だけは、捨てるつもりはないのだから――。