流転したハウルエネルギーが低気圧の中心地を捉え、立てた刃が吹き込んでくる風圧を衝撃波で叩きのめしていく。
直後には満天の星空が二人の視界いっぱいに広がっていた。
「(……よしっ! これで大丈夫……!)」
――さ、小夜……。まったく無茶するなぁ。
「(言ってなさい! 明日の花見の主役はこの私……へっくし!)」
思いっ切りくしゃみをした小夜は直後には震え出していた。
――さ、小夜……? もしかして……。
「――えっ、小夜さん、来られないんですか?」
珍しく携帯電話を取った作木はもたらされた言葉に当惑する。
『ええ。まぁ、これも支払った代償ってことかしらね』
通話口のナナ子の意図が分からず、作木は首をひねる。
「……でも、みんなもう……集まってきちゃっていますよ。ブルーシートも引いて……」
『あー、それなんだけれどね、作木君。私も今日は小夜の看病するから、行けないし、後で写真とか送ってくれる?』
「いいですけれど……心配ですね、どんな調子なんですか?」
『……まぁ、因果応報って奴じゃないのかしらね』
通話が切られ、作木はイマイチ不明なことに疑問符を挟む。
「……どうしたんだろ。こういうイベントごとは絶対に来るのが小夜さんなのに……」
「創主様! こっちのベーコン美味しいです!」
「あっ、こら、レイカル。そのお弁当はみんな揃ってからってつもりでしょうに。……で、網森さんは?」
「何だか……来られないって。心配なので僕、後で観に行きますね。風邪を引いちゃったみたいらしくって……でも何でなんだろ」
花見席でヒヒイロと削里が将棋を打つ。
「……待った」
「構いませんが真次郎殿。待ったは十秒までです」
「……あんたら、花見まで来て将棋打ってるんじゃないってば。少しは桜を楽しみなさいよ」
ヒミコは花見酒としゃれ込んでいる。
懿とおとぎは花見を楽しみつつ、作り込んできた弁当を水刃へと振る舞っていた。
「水刃様。こちら、朝一で仕込んだ塩鮭となっております」
(……ふむ。悪くない味だな、懿。お主も出来るようになって来たではないか)
「いえ、先生。……俺なんてまだまだで」
「水刃様。特製のお酒です。こちら、姉さんにも振る舞っていますので」
「おとぎちゃーん! こっちにも酌をして――」
伽はすっかり出来上がった様子で、おとぎに酌を頼もうとするのを水刃の殺気に咎められていた。
(……貴様……)
「い、いえ……自分で注ぎます。あっ……水刃様もどうですか……」
酔いは今ので醒めたらしい。作木は年代物の携帯電話で満開の桜を撮ってから、それを小夜へと送信する。
「……レイカル。後で小夜さんのところにお見舞いに行こう。もちろん、お弁当も持ってね」
「創主様!」
飛び込んできたレイカルを肩に乗せ、作木は散り行く桜の花びらを視野に入れていた。
「……だって、一人だって、足りないのは寂しいはずだから」
「――とか言っていると思うわよ、小夜」
ずびっ、と鼻水をすすり上げた小夜は、悔しー! と喚いていた。
「せっかくのお花見がぁー……乙女の嗜みがぁー……!」
「それをぶち壊しにしたのは小夜でしょうに……」
呆れ返ったカリクムと共に、ナナ子はビーフシチューを振る舞う。
小夜は布団を被って涙を呑み、寝返りを打っていた。
「やれやれ。みんなでお花見は来年に持ち越しねー。……ま、雨が降って地固まると言うし、もしかしたら……お花見も、雨もそういう風物詩なのかもね」