JINKI 180 闇夜の蠢動

 だがフィリプスからしてみれば、敵勢の先鋭化はこれまでも何度かあったこと。

 今さら、レジスタンスの実行する戦力は変わらない。

 しかし――それはあまりにも。

「……何て言う……化け物か」

 疾走する触手の一手が《ナナツーウェイ》の有する盾を突き抜ける。

『隊長! これまでの奴とはまるで違います! このままでは……』

「うろたえるな! 如何に巨大とは言え……古代人機だ!」

 そう古代人機であるはずなのだが、その色調が今まで対峙して来たものとはまるで異なる。

「……漆黒の古代人機だと……まさか」

 通告を受けたのはほんの一時間前だ。

 古代人機出現の報はカナイマアンヘルを通してレジスタンスにもたらされ、その上で出撃したのだが、これまでの常識を塗り替えかねない巨体に、戸惑ったのがまず一つ。

 そしてもう一つは、時を同じくして空を満たした黒い波動であろう。

 その黒い波動が雷撃の如く古代人機に降り注ぐなり、通常色であった古代人機は色相を変異させ、攻撃性を高めて来ていた。

『ナナツーでは持ちません! 押し切られます!』

「武装も……ジャングルではプレッシャー兵器を迂闊に使えんからな……。しかし、通常人機の三倍はあるぞ……。これが、テーブルマウンテンの守り手だとでも言うのか……」

 あるいは、事ここに至って、キョムの扱う古代人機の作戦行動が変わってきた可能性もある。

 フィリプスは空中展開する《バーゴイル》がどこか値踏みするように黒い古代人機を眺めているのを視野に入れていた。

『黒ガラスは、仕掛けて来ませんね……。あれも古代人機を警戒してのことなのでしょうか……』

「分からん。だが、我々レジスタンスは、キョムに屈服するわけにもいくまい。それに古代人機を通さないと言うのは……我々の意地だ!」

 白兵戦仕様の《ナナツーウェイ》に大型ブレードを携えさせて、フィリプスは雄叫びを上げつつ、黒い古代人機の横腹を斬り付ける。

 僅かながら斬撃が入ったが、それでも痛くも痒くもないとでも言うように天上から触手の応酬が降り注ぐ。

 確実に獲られたと確信したフィリプスであったが、それを遮ったのは空を舞う機影であった。

『悪い、フィリプス隊長、遅くなった!』

「広世か……。《マサムネ》でやれるのか?」

『分かんないけれど、やるっきゃないだろ。武装プロテクト解除! 《マサムネ》の銃撃掃射で足止めをする!』

《マサムネ》が可変し、ガンツウェポンを有した両腕を突き出していた。

 ミサイルの噴煙を引きつつ、黒い古代人機を押し出していく。

「効いている……のか?」

 それも疑問でしかない。

《マサムネ》の性能ではせいぜい、古代人機相手に応戦が関の山だ。

 やはり、切り札は――とフィリプスは小高い丘の上に位置している友軍機を意識する。

 光輪が瞬き、黒い古代人機を打ちのめすも、空間を奔った触手の一撃を回避し切れず、武装が絡め取られる。

『こいつ……手強いな……!』

「広世! 我々地上部隊が隙を作る! お前はその間に、射線を維持しろ!」

『だけれどよ、フィリプス隊長! こいつ、これまでの古代人機じゃ……ない!』

「それは分かっている! 分かっているが、我々にできるのはその程度だ!」

 奥歯を噛み締め、フィリプスは《ナナツーウェイ》の盾で古代人機の足を止める。

《マサムネ》が直上を取り、炸薬をばら撒いていた。

 古代人機の頭蓋に直撃するが、それでもまるで通用した様子もない。

「無敵なのか……この古代人機は……」

 そのような絶望視が思考を染め上げようとした瞬間、甲高い砲撃音が生じ、古代人機の装甲板を叩き据えていた。

「……やはり、来てくれたか……。津崎青葉……黒髪のヴァルキリー……!」

 白銀の色彩を誇る人機――《モリビト雷号》は地面を滑走しつつ、次弾を装填する。

 屹立した巨大な砲門を照準し、一拍の猶予も開けずに引き金を絞る。

 古代人機相手に初めて、攻撃らしい攻撃が通っていた。

 よろめいた敵機に、フィリプスは声を張る。

「全速前進! 古代人機を転ばせる!」

 地上部隊が加速を上げ、《ナナツーウェイ》の馬力で古代人機をそのまま転倒させようとする。

 当然、ナナツーだけの力では足りないのは百も承知。

 だが、そこに広世の《マサムネ》と、そして青葉の駆る《モリビト雷号》の精密砲撃が重なれば――。

《マサムネ》が空中を舞い、ミサイルを解き放つ。

 爆撃を受けた古代人機へと、《モリビト雷号》の的確な砲撃網が咲き、その中心軸を捉えていた。

『フィリプスさん! 古代人機をこのまま押し込みます!』

「……だが、我々の力不足だ。まだ、古代人機を転倒させるのには……」

『いいえっ! 充分です!』

《モリビト雷号》は射程距離に入るなり、巨大砲門を突き上げさせる。

 砲塔の下部に搭載していたのはブレードであった。

 加速度を上げて跳躍した《モリビト雷号》が唐竹割りの軌道を取り、古代人機へと打ち下ろす。

 両断の太刀が振るわれ、古代人機は硬直していた。

 その頭蓋に亀裂が走る。

『このまま……斬り伏せます!』

 直角の太刀筋を払おうとして、不意に古代人機より力が失せたのを感じ取っていた。

 黒い波動が消失し、通常色に戻った古代人機が、成す術もなく青葉の刃を前に溶断される。

『……えっ……』

 戸惑いを浮かべたのは何も青葉だけではない。

 ここに居る全員が、黒い色調に染まっていた古代人機から、攻撃の意志が凪いだことを関知し、薙ぎ倒された相手に瞠目する。

「……何だ……? まるで力が突然に消えたみたいな……」

 古代人機が倒れ伏し、フィリプスは疑念を伴わせてその遺骸を眺めていた。

 青葉は古代人機へと砲身を向けていたが、やがてそれを下げる。

『何かが起こって……古代人機が、凶暴化していた……?』

 その何かを明瞭化する術を持たず、青葉はただただ茫然とするのみであった。

 フィリプスは《ナナツーウェイ》のキャノピーを空気圧縮で吹き上げ、戦線を見据える。

「損害は!」

「軽微です! とは言え、こちらも似たり寄ったりで」

 部下の声を聞きつつ、フィリプスは軍帽を目深に被る。

「黒い波動で古代人機が凶暴化だと……? そのようなこと、これまでなかったと言うのに……」

「それだけじゃありませんよ。見てください、黒ガラスが撤退していきます……」

 空中展開していた《バーゴイル》が何もせずに撤退機動に移っていく。

 それはこれまで幾度となく防衛戦を繰り広げてきたフィリプスからしてみれば奇異に映った。

「……キョムの黒ガラスが何もせずに撤退……。それだけではなく、この古代人機もそうだ。黒い波動を浴びて、漆黒に変わっていた。何かが起こりつつあるのか……」

《マサムネ》がゆっくりと降下軌道に入る。

《モリビト雷号》の隣へと降り立った広世が、すぐさま青葉へと声を飛ばしているのが窺えた。

『青葉! 大丈夫か?』

『うん……私は大丈夫。でも、この古代人機……』

《モリビト雷号》のコックピットより姿を見せた青葉は、どこか古代人機相手に、憐憫の情を抱いているようであった。

『……何かがあったんだ。きっと何かが……。それでも、俺たちには理解も及ばない何かなんだろうけれど……』

「広世……。私は、この子を、ちょっと調べてみます」

 その言葉にフィリプスは思わずうろたえていた。

「ま、待って欲しい。何が起こるか分からない。まずは我々レジスタンスが検分してからでどうだろうか。……もしものことがあってからでは遅い」

 フィリプスは部下を従え、対人用のアサルトライフルを装備して古代人機の周辺に展開する。

 もちろん、対人用の銃器など古代人機や、ひいては人機にとっては意味なんて持たないだろうが。

 ハンドサインを送って、古代人機を包囲する。

「……大きいと思ったのは間違いではないらしい。この古代人機だけでナナツーの三倍……いやもっとか?」

「ここ最近の古代人機の出現頻度、上がっていますね。にしたって、ここまででかいのはなかなかお目にかかれませんよ」

「まさに大自然の威容、か……」

 呟いて、古代人機へと致命的な一撃となった切れ込みへと懐中電灯を当てる。

「内側の血塊付近までしっかりと刃は徹っている。……となれば、やはり活動停止の要因は雷号の一撃なのか?」

 だが、先ほどの《バーゴイル》の出現には意図的なものを感じずにはいられない。

 どこか自分たちの中の不明瞭さを解消できず、フィリプスはその太刀の入った部位をさすっていた。

「それにしたって、古代人機相手に苦戦してしまったのは、我々の落ち度だ。津崎青葉、それに広世も。後は任せて欲しい」

『水臭いだろ、フィリプス隊長。俺も残るよ。青葉は、一度砲弾の補充に戻るといい。カナイマのメカニックも心配しているだろうし、いっぺんは顔を出したほうがいいと思う。そうでなくっても、《モリビト雷号》は特別な整備が必要なんだ。アンヘルのメカニックに見せないままで連戦続きだろ? このままじゃ、いつ何が起こるか、分かったもんじゃない』

「……うん。それは分かっているんだけれど、ここを退いたら何だか……嫌な予感がして……」

『考え過ぎだって。俺たちだって何度もこういうのは潜り抜けている。それよりも、自分の人機を最善のパフォーマンスにしておくのが先決だ』

 広世の言葉にフィリプスも頷く。

「津崎青葉、今は一度カナイマアンヘルに戻ったほうがいい。それが後々のためにもなるはずだ」

 その言葉を受け、青葉はコックピットへと戻る。

「……分かりました。広世、後は頼んだからね」

『当たり前だろ。《マサムネ》だってまだやれる』

 どこか後ろ髪を引かれるものを感じつつ、《モリビト雷号》がカナイマアンヘルに向けて帰投して背中を、フィリプスは眺めていた。

「それにしたって、やっぱり黒髪のヴァルキリーの腕は感嘆するものがありますね。……これだけの大質量の古代人機をたった二太刀で……」

 部下の声を聞きつつ、フィリプスは古代人機に致命打を与えた太刀傷を観察する。

「戦いにも我々よりも慣れているのだろうからな。……かと言って前には出過ぎて欲しくないのが本音だが……」

 フィリプスは《マサムネ》から降り立った広世と視線を合わせる。

「……よかったのか? フィリプス隊長。古代人機だけが敵じゃないだろ」

「それでも、我々だけでもやれると証明しなければ、いつまでも津崎青葉におんぶにだっこと言うわけにもいかないだろう」

「そりゃ、そうだけれどさ。……この古代人機、大きさがこれまでと段違いだ。何かが起こる前触れ……みたいなのを感じるな」

「前触れ、か。津崎青葉も嫌な予感がすると言っていたな。……こういう時だけは、当たらないほうがいいに決まっているんだが」

 周辺の安全を確保してから、フィリプスは部下たちに伝令していた。

「この古代人機を拠点まで引きずるぞ。《ナナツーウェイ》で半日ほど、か」

「大丈夫か? 俺も手伝うけれど」

「お前は《マサムネ》で空中警戒を頼みたい。……どうにも、な。承服し切れないものを感じるんだ。どうしてキョムの黒ガラスは防衛戦に打って出るしかない我々に対し、攻撃をしてこなかったのか、だとかな」

「単純に、そういう戦局じゃなかったから……って言うのは楽観視が過ぎるか」

 フィリプスは黒い波動が散って行った空を仰ぎ見て、ふと小さくこぼす。

「……雨の予感がするな」

 ――雷号の装甲が雨を弾いたのを感じて、青葉はふと振り返っていた。

「……広世にフィリプスさんたち……大丈夫かな」

 とは言え、自分はこのままカナイマアンヘルに一時帰還し、装備を整えるしかない。

 古屋谷とグレンのガイドを聞き留めつつ、青葉は格納庫へと機体を接地させていた。

「よし! 雷号の整備点検、かかれ! 大口径ライフルだって馬鹿にならねぇんだ! 一個でも穴があると調子崩すぞ!」

 山野の号令で一斉にメカニックがかかっている中で、青葉はコックピットより降り始めた雨を感じていた。

「……何だか、嫌な天気……」

「青葉さん、久しぶりに川本さんがこっちに戻って来てるんです。一度、雷号の点検も含めて会っておきたいって」

 タラップを駆け上がってきた古屋谷に青葉は首肯し、Rスーツを纏ったまま、宿舎へと足を向ける。

 その間際、一度だけ振り返っていた。

 白銀を誇る《モリビト雷号》――その攻撃的な双眸は暗く沈んでいる。

「……何かが起こってからじゃ遅いけれど……でも私にできることも少ない、か……」

 こういう時、操主の身分と言うのは歯がゆさを感じずにはいられないのだが、やれることをするだけなのも事実。

 青葉は久方ぶりの宿舎の自室でRスーツを脱いでから、平時の服に着替えていた。

 鏡の前で、青葉は先ほど会敵した、黒い古代人機のことを思い返す。

「……何だろう、あれ……。何だかすごい、嫌な感じがした。古代人機と戦うのなんて、もう何回なのか数え切れないけれどでも……」

 その時、不意打ち気味のノックの音に、青葉は応じる。

「あ……どうぞ」

「お邪魔するよ。部屋に戻っているって聞いたから」

 川本の穏やかな声に青葉は椅子を差し出す。

「あ、いいって。そんなに時間を取るつもりもないし。それに、今はカナイマのほうも大変だって聞くから」

「いえ、でも川本さん。ウリマンンヘルから、とんぼ返りみたいなものだって聞きましたから」

「ウリマンの新型人機の開発はひとまず落ち着いたかな。……ナナツーの新機軸の機体だったんだ。三号機までロールアウトに漕ぎ着けただけでも、まぁ儲け物かな」

「日本に、送ったんですよね、確か」

「ああ、うん。《ナナツーライト》と《ナナツーマイルド》。姉妹機みたいなものだね。この二機は受領したって、南さんから報告も来ているし、心配はないかな」

「南さん……か。あっちでも元気なんでしょうか」

 何だか懐かしくなってしまう。

 かつてのアンヘルでの喧噪の日々を思い出すと、少しばかり涙ぐみそうにもなるのだ。

「トーキョーアンヘルの結成から先、一応は悪い報せは来ていないから、大丈夫なんだと思う。ああ、でも確か、トウジャタイプを一機、大破させたって報告は来ていたかな」

「それ、見ました。《シュナイガートウジャ》って言う……空を自在に飛べる人機なんですよね。確か、エルニィが開発したとか」

「うん。僕も詳しくは聞いたわけじゃないけれど、《シュナイガートウジャ》を基軸にして、新型機の草案も上がっているって聞くし、そこのところは心配要らないかもしれない。青葉さん……今回の戦闘、何かがあったってことは既に報告が来ているけれど」

 青葉は自分の違和感を形にしようとして、それが不明瞭なことに気づく。

「……何だか分からないけれど、嫌な感じなんです。雷号で確かに倒したはずなんですけれど……」

「嫌な感じ、か。青葉さんの超能力モドキは当たるからなぁ……。雷号の整備が整い次第、向かったほうがいいかもしれないね」

「それに……黒い波動もあったのに、キョムは何もしないで傍観していたって言うのも、気にかかるんです。あのキョムが、黒い波動の回収に来たことまでは分かるんですけれど……」

「何もせずに帰った、か。確かにそれは奇妙だね。一応、あっちにはフィリプス隊長含め、実力者が残ったって聞いたけれど」

「……本来なら心配なんて要らないんでしょうけれど、でも、何だか落ち着かなくって」

 今すぐに《モリビト雷号》で出撃して、あの古代人機を調べなければいけないような焦燥感に駆られてしまう。

 そのように急いたところで、今は仕方ないと言うのに。

「分かった。僕からもメカニックには口添えしておくよ。ウリマンから持ってきた雷号専用の新型装備もあるし、それの引き渡しって言う口実もあったんだ。まぁ、青葉さんの顔を久しぶりに見たかったのがあるのが一番なんだけれど」

「私は大丈夫です。……けれど、何か……引っかかって」

 自分でも言語化できないのがもどかしい。

 川本は部屋の隅に陳列されているプラモデルを視野に入れていた。

「プラモ、まだ作っていたんだ」

「あ、はい……。プラモ作ると落ち着くって言うか……やっぱり自分の中で一番ですから」

「変わっていないところもあって安心した。青葉さん、見違えたから。大人っぽくなったし、今の青葉さん見たら、両兵だって腰を抜かすんじゃないかな」

 どうだろうか、と鏡に映った自分の姿を垣間見て、青葉は首を傾げる。

「……でも、あの両兵ですよ?」

「だね。あの両兵だ。日本でも相変わらずなのかもしれない」

 そう言ってお互いに笑い合う。

 今はそれだけでも寄る辺に思えた。

「雷号専用仕様の追加装備は整備点検に回しておいたから、もしいざということがあっても――」

 そこで不意打ち気味に警報が鳴り響く。

 青葉は戦闘神経を張り詰めさせていた。

「警報……まさか、敵……」

「そんなまさか……! ついさっき帰還したばっかりだって言うのに?」

 川本と共に青葉は首肯して格納庫へと急ぐ。

「青葉さん! ついさっきの古代人機のポイントからだ! 何かがあったって……!」

 古屋谷の慌てようは尋常ではない。青葉は川本と視線を交わす。

「……川本さん、私、行きます」

「ああ。古屋谷、グレン。雷号専用の装備は?」

「十分以内にいけそうです」

「血塊炉との同調も確認! 青葉さん、Rスーツを着用してコックピットへ!」

 青葉は頷いて自室に戻るなり、衣服を解き、Rスーツを着込む。

 黒髪を流し、戦闘仕様に整えた己を鏡の前で確認する。

「……広世、フィリプスさんたち……無事でいて……!」

 ――違和感があったのは、古代人機の回収作業に移ってすぐであった。

「……隊長? これ、あまりに重過ぎませんか?」

「これだけの巨体だ、古代人機とは言え、重量はあるのだろう」

「いえ、しかしそれにしては……付近に熱源! ……これは、一体何が……!」

 フィリプスも部下の報告した熱源反応を関知していた。

「まさか、キョムの伏兵か……!」

「いえ、この熱源は……古代人機内部! 完全に……砕け落ちます!」

 振り返ったフィリプスが目の当たりにしたのは鋼鉄の塊から突き出された腕であった。

 金色に輝く腕が、古代人機の体表を打ち砕き、その腕の主は亀裂を開いて姿を現していた。

「……まさか、古代人機の中から……孵化したとでも言うのか……!」

 震撼するフィリプスの視界の中で、古代人機の中枢より現れたのは人型の――。

『フィリプス隊長! これはどうなってるんだ!』

 広世の声が響き渡る中で、人型のそれは頭部のない異様な形状を有して、揺籃の時を終えていた。

 古代人機と言う名の殻を破り、今、この世界に生まれ落ちたその躯体が、遠く長く吼え立てる。

 それは新たなる生命の顕現にさえも似て。

『隊長! 古代人機の中から、まさか人機が……!』

「いいや……これは、人機ではない……。古代人機が新たなる形に……変容したとでも言うのか……」

 絶句する自分に比して、迷わずに敵影へと照準した広世の行動は迅速であった。

 ミサイル弾頭が空中で線を引いて対象に突き刺さるが、相手は腕を払って噴煙を引き裂く。

 機銃掃射が四方八方から敵影を捉えるも、新生した不明なる古代人機相手には豆鉄砲程度でさえもない。

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