「あんた、いつも何時に寝ているの? 気づいたら寝ているけれど」
「……一応、私はオリハルコンだからな。敵対する創主だとかオリハルコンとかに寝込みを襲われないように、注意してから寝てるんだ。だから……小夜たちが寝入ってからね、いつもは」
何だかそんなところでも無理をさせて来たのだな、と愛おしくなって小夜はカリクムの頭を撫でていた。
「……何すんだ、小夜」
「いや、何かこう……ああ、そっか。子供の頃、よくママが撫でてくれたっけ。こういう意味だったんだ……」
「小夜のお母さんって……」
「うん、病気で死んじゃってね。まぁ、だからパパは口うるさいんだけれど」
聞いてはいけないことだと思ったのだろう。
口を噤んだカリクムに、小夜は頬ずりする。
「でも今は……あんたも居るし、作木君も居るし……みんなが居るから、全然! 不幸とかじゃないもの……」
「無理すんなってば……。無理な時は、お互いに寄り添っていいんだって、ヒヒイロが言っていたぞ」
「……そっか。じゃあもしかして、読み聞かせるのってきっと、お互いに寂しくないよって、言い聞かせるためのものだったのかもしれないわね」
「何だよ、それ……。でも、私もその……嫌じゃないから」
ふふっ、と微笑んで小夜は続きを読み聞かせていく。
「じゃあ嫌じゃない者同士、眠るまで……」
かちかち山を読み聞かせ、うつらうつらとお互いに眠気が押し寄せてくる。
その波に抗わないのが、きっと正しいはず。
気づけば、小夜とカリクムは寄り添い合って眠っていた。
「あれ? 小夜、もう寝ちゃって……そっか。二人の眠りを邪魔しちゃ悪いわよね。おやすみ、小夜。カリクム」
ナナ子は唇の前で指を立てて、そっと戸を閉めていた。
――その頃、作木家では。
「創主様! これは変です! うさぎはズルいではありませんか! タヌキを騙すなんて!」
「いや、でもレイカル。そういう話で……それにタヌキは悪いものとして描かれて……」
「納得いきません! ……そうですね、タヌキがやったことも悪いですが、ウサギのやった、傷口にとうがらしを塗り込まれるのを想像しただけで……」
怖気を走らせるレイカルはまだまだ寝入ってくれる様子はない。
「……うーん、図書館でかちかち山を借りてきたのは失敗だったかな?」
ラクレスはカーテンを閉める間際、窓辺にそっと一言添える。
「まだまだ、夜は明けそうにない、と言うわけねぇ、こっちは」