「ちょっと、作木君。いい感じのムードのところ悪いんだけれど、ここに。誘われるのを待っているレディを差し置いてウリカルを先に招くとは、やってくれるじゃない」
面白がったナナ子の発言に大慌てで作木はつんと澄ましたこちらへと改まる。
「あっ、その……小夜さん……。えっと、撮影大変だとは思うんですけれど、海に……」
「……いいわよ、そこまで言うんなら行ってあげる」
「素直じゃないんだから、小夜も。今年一番の輝きを誇って、いざ海に駆り出しましょう!」
ぐっと拳を握り締めたナナ子に、レイカルたちがめいめいに水着を手に取る。
「ウリカル! 今年はお前となんだな! 楽しみだぞ!」
「えと、その……私にこんな風な水着なんて……似合います……かね?」
作木はうん、と頷く。
「とてもよく似合っていると思う」
ウリカルは頬を紅潮させて、水着を手に顔を伏せる。
「騒がしくなって来たね」
将棋盤を挟んで対面していた削里に、ヒヒイロは応じていた。
「ええ。今年も騒がしくも、替え難い季節がやってきたようです」
「いいね。俺はあんまり外には出ないけれど、夏は嫌いじゃない」
「それはよい心がけですね、真次郎殿。うっかりすると引きこもりがちになってしまいますから」
「それはお互い様だろう? 隠居はまだ早いはずさ。……っと、王手」
「おや、これも奇遇ですね。こちらも王手です」
将棋盤を睨んで呻る削里に、ヒヒイロは先んじて制する。
「言っておきますが、待ったは五分までですよ」
「……うーん、ヒヒイロも水着は気になるのか?」
「そうですね。ナナ子殿の腕もいいですし、たまには違う衣装に袖を通すのもよいでしょう」
「……そうか。俺はお前がそうやって前向きになってくれて……まぁ嬉しいかな」
「もう一つ、言っておくと、話題を逸らして時間を延長するのは一回きりでお願いしますよ」
「……参りました」
削里たちの勝敗を他所に、レイカルは声を上げる。
「海に行きましょう! 創主様! だって夏は……輝かしい季節なのですから!」
「――準備はいい? せーのっ!」
「海だ――!」
ナナ子の号令でレイカルたちは一斉に海へと跳ね上がる。
ウリカルはレイカルに手を引かれていた。
「ウリカル! 海はすごいんだぞ! 焼きそばが美味しいんだ!」
「相変わらずレイカルは騒がしいのう」
「とか言っちゃって、ヒヒイロも浮かれてるんだろ?」
「どうでしょうかね」
削里の肩にちょこんと乗ったヒヒイロは、ナナ子特製の水着を着込んでいた。
渚では伽とナナ子が追いかけっこに興じている。
「伽クーン! こっちにおいでー!」
「待てよー、ナナ子ー!」
「……勝手にラブロマンス決め込んでるんじゃないっての」
小夜は黒い水着姿に身を包み、サングラスを傾ける。
「小夜さんも、よく似合っていますよ」
「……作木君のお世辞はいいから。今日は私だけの王子様なんだからね!」
その手を引き、波間へと繰り出す。
作木は砂浜を駆け抜けながら、照り返す陽光を仰いでいた。
「……ああ、今年も夏が来る。いつだって、誰もが輝ける季節が、来るって言うのは、何だか嬉しいな」
ウリカルはレイカルたちと共に焼きそばを食べて目を丸くしている。
きっと彼女たちにとっても初めてが多いはずだ。
ならば、その一瞬が、やがて永遠の思い出になるようにだけを願って――。