「……レイカル。もうやめよう。そいつにとっても、静かなほうがいいはずだ」
「そんなこと……! そんなこと、あるもんか! 創主様に……! そうだ、創主様に頼めばお前のボディくらい、なんてことはない! だって、そうだって言って欲しいだけの……」
――時間だ。
夕映えの景色に、ハウルの煌めきを棚引かせるダウンオリハルコンとの別れの時。
「……もっと違う形で、逢えたらよかったのに……」
涙ぐんだレイカルに、ダウンオリハルコンはそっと、指を差し出す。
「……何だ?」
小指を絡め、そっと約束を果たしたダウンオリハルコンは、直後には消え去っていた。
「……何か、言えばいいのかよ」
「……いや、いい。今は……そっとしておいてくれたほうがよさそうだ。カリクム、このこと、創主様には……」
「言わないでおいてやる。私もあまり、こういうこと誰かに言ってのけるようなタイプじゃないし。それに、こいつ……何て言うか、私であるのと同時にお前でもあったんだな」
自分はダウンオリハルコンを狩り続け、いずれはどことも知れぬ場所で創主もなしに朽ち果てていたかもしれない。
レイカルは元々は純正オリハルコンとパテの混ぜ物だ。
このような帰結を辿るダウンオリハルコンになっていたとしてもおかしくない。
だから、二人は咽び泣いていた。
自分たちの鏡のような存在に。
出会えたことは幸福であったのか、不幸であったのか。
今は分からないままに、頬を伝う熱だけが明瞭だ。
「……悔しいな、カリクム。助けられないのは、悔しい……」
「まぁな。……いつまでも泣いていたら、小夜たちにどやされちゃう。……帰るか、レイカル。私たちの……帰る場所に……」
レイカルの手を引いて、カリクムは涙の粒を拭う。
今はただ、染み入るような黄昏の色が、眩しかった。
「――……いや、特に何もなかったな。最強の虫はやっぱりタガメで、最強の鳥はペンギンだろ?」
その感想を聞き入れて、小夜は大仰なため息をつく。
「はぁー……やっぱりあんたたちの夏って、何だか小学生男子のそれねぇ……」
「なっ……! 夏の過ごし方は人それぞれだろ。……それでいいじゃないか」
「はいはい。さぁーて、私は明日から撮影もあるんだし、ちょっと早めに寝るとするわ。……カリクム」
「……何だよ。私はドラマを観てから寝るんだから――」
「そうじゃなくって。……辛くても分かち合うのが、創主とオリハルコン、でしょ? 辛かったら言ってね。あんたのメンテもできない半端な創主だけれど、辛いことだけは半分こでしょ?」
こういう時に、分かった風なことを言ってくれるのが、きっと小夜のズルいところなのだろう。
何かを話したわけでもないのに、カリクムは満たされたものを感じていた。
「……そう、だよな。でも私だって、何でもかんでも話すわけじゃないんだからな」
「そうね、その辺はお互い様、って奴。でもね、私の最強は間違いなくあんた。それは譲らないんだからね」
小夜が部屋に戻ったのを確かめてから、カリクムはそっと呟く。
「……一人じゃないって言うのは、もしかすると奇跡なのかもな……なんて。ガラじゃない、か」