「……べ、別に悪いことしているわけじゃないし。ただ、さ……赤緒ってば、普段は自分のマイナスなこととか言わないじゃんか。だから、無理やり思い出させるとか言うのもその……恩着せがましいかなって思っちゃって……その……」
指をちょんちょんと突かせながら、視線を逸らすエルニィに赤緒は嘆息をついていた。
「……私はそんなこと、気にしませんよ。……でも、よかった。何だか二人とも、すごくいいことをしていたみたいで」
「あっ、当たり前じゃんか! ……朝っぱらから悪いことなんて頭が回らないよ」
「でも私には最後まで隠すつもりだったんですよね?」
「うっ……! それはそのぉ……サプライズだから、さ……」
「あと一日だったのに、目論見が外れたわね」
「うぅ……そればっかりは悔しいなぁ……」
嘆くエルニィに両兵は大仰なため息をついていた。
「別に、悲観することでもねぇだろ。明日、胸張って参加して、それでテープとラジカセをもらって渡しゃいいだけじゃねぇか。――柊、明日はてめぇも参加しろ」
身を翻した両兵に赤緒は戸惑っていた。
「えっ……でもそれって……」
「朝のラジオ体操なら、面と向かって参加して、それでもらって来い。そうすりゃ憂いもねぇし、何よりも……てめぇは隠されるよりも真正面からもらいたいんだろ。そういう、好意って奴をよ」
「好意……」
ぼんやりと口にした自分にエルニィが大慌てで言い返す。
「かっ……勘違いしないで欲しいなっ! これは別に赤緒がどうだとかそうだとか、そういう話じゃ……!」
「てめぇもご大層な理論並べるほどじゃねぇだろ。明日は三人揃って参加して、そんでもって残りの夏は、柊神社でアンヘルメンバー揃ってラジオ体操、結構なことじゃねぇか」
「小河原さん……」
「……むぅ。赤緒には最後まで隠し通すつもりだったのにぃ」
むくれるエルニィに赤緒は向き直ってお願いする。
「……立花さん。私も明日……参加していいでしょうか?」
「……仕方ないなぁ。ま! 赤緒が嫌だって言ってもそうするつもりだったし!」
「嘘おっしゃい。でもま、いいんじゃないの。サプライズなんてガラじゃないのよ、結局は」
呆れ調子のルイの声音を聞きつつ、赤緒は夏本番手前の暑さだけではない、胸の高鳴りを感じていた。
『――ラジオ体操第一~』
「うへぇ……眠い……。赤緒ー、もらったからってさぁ……毎日全員叩き起こしてやんの、やっぱやめようよー……」
隣で半分寝ぼけているエルニィと共に、赤緒は音楽に合わせて節々を伸ばしていく。
「何言ってるんですか。このために譲り受けたんでしょう?」
「でもさー……ほら、南とかあれ、寝てるよ……。アンヘルメンバーには思い思いの時間に起きるでいいじゃんかー……」
視線の先で寝息を立てている南を発見するなり、赤緒は声を張っていた。
「駄目ですよー、南さん! ラジオ体操は朝の習慣なんですからー!」
「はっ! ……私、寝てた?」
「バッチリ寝てましたね……。それにしても赤緒さん、何だか張り切ってらっしゃって……」
体操するさつきの隣で、不承気に両兵がぼやく。
「……何でオレまで……つーか、柊! これ、てめぇのサプライズだろうが」
「一番不摂生なのは小河原さんですっ! だから、夏の間はこれを朝一番にしましょう!」
「……あー、ったく、要らねぇ知恵与えちまったなぁ、マジに。立花、だがまぁ、悪い習慣じゃなさそうじゃねぇか。朝一に体操たぁ」
「……うーん、でもボクの本音としちゃ、スタンプを集めているのが一番楽しかったのもあるんだけれどねー。……まさかの赤緒がオカン化するなんて思ってないし」
「聞こえてますよー! いっちに! さんしー!」
「……まぁ、いっか。ひと夏の間に、思い出は必要でしょ」
そうして、朝一番に、柊神社では今日も、ラジオ体操の音楽が響き渡るのであった。