「あれは……現太さんのモリビトの……刀……」
それを振るう意味を問い質す前に、地上に舞い降りた《モリビト2号》が古代人機を蹴散らす。
その姿はまさに鬼神。
刃を振るった時には勝負は決している。
古代人機は劣勢と判じるや否や、地下道を掘り進めて撤退していた。
「あいつら、逃げ……いや、今は……」
『答えて……いいえ、答えなさい! 青葉なの?』
直通回線を繋いだルイに対しても、《モリビト2号》は沈黙を返していた。
そのコックピットが静かに開き、操主が露わになる。
上操主席に収まっているのは、両兵であった。
彼は片腕で操縦桿を握りながら、その腕に抱えていたのは――。
「青葉……」
裸体の青葉を抱き、両兵は奥歯を噛み締めた、瞬間――全ての糸が切れたかのように倒れ伏す。
《ナナツーウェイ》が咄嗟に《モリビト2号》を抱えなければ両兵は落下していただろう。
『……どうして……小河原さんと……青葉……』
「何が……何が起こったんだ……?」
全てが不明瞭なままだが、脅威が晴れたのだけは間違いない。
手負いの《トウジャCX》を自動操縦に設定し、広世は勝世の傷の具合を見ていた。
「……案外、浅い。俺もパニックになっただけか」
「ううーん……青葉ちゃん……」
「……思えばこいつがそう簡単に死ぬわけないよな」
幸せそうな寝顔の勝世をコックピット備え付けの救命用具で包帯を巻いてから、改めて広世は《モリビト2号》を見据える。
「……本当にモリビトなのか? 何だか……違う感じがするような……」
『分からないわ。とにかく、小河原さんと青葉を連れて……カナイマに帰投しましょう。何も分からないままじゃ、私たちにできることは何もないわ』
それだけは確かだろう。
このまま何一つ分からないまま、最期を迎えるのだけは御免であった。
「……ああ。勝世の治療もしたい。上操主が居ないと、俺だって困るんだからな」
『……事態を飲み込むのに、《モリビト2号》が帰って来てくれただけでも幸運よ。私たちは戦わなくっちゃいけない。カラカスで戦った敵よりもなお色濃い、本物の敵とね』
「本物の敵、か……」
それは分かっていたが、何故なのだろうか。
帰還を果たした《モリビト2号》が、まるでこれまでと違う次元にある人機なのではと、勘繰ってしまう自分が居たのは。
ぽつり、と砕けたコックピットに雨粒が滴る。
やがて世界を覆う灰色の雨が降り出していた。