JINKI 200 南米戦線 第四話 「涙の向こうに」

「気味の悪いオッサンだな、オイ。広世、大丈夫か?」

「あ、ああ、うん。……でも俺は、あの人の言う通り。青葉を、絶対に守りたい。何があったとしても、絶対に……!」

「そうか。まぁお前らしいよ。ってもまぁ、オレらのトウジャも傷だらけだし、今夜くらいはあのオッサンに任せるしかなさそうだな。フィリプスとか言う! 生きてるか?」

 呼びかけた自分の声にフィリプスは《トウジャCX》より降り立っていた。

「機体のブルブラッドが貧血状態を起こしている。……いずれにしたところで、しばらくは動けそうにない。……すまない、みんな……! 今の私では、みんなを守ることが――」

「気負い過ぎんなってば。オレたちだって、ほとんど死に体だ。ずっと戦い続けられるかって言えばそうじゃねぇし。休息も必要だろうさ」

 勝世は周囲を見渡してから、そういえば、と思い返す。

「ルイちゃんは……どこに行ったんだ? さっきまで《ナナツーウェイ》に居たってのに」

 ――横顔を眺めるのは二人が生きている証明を確かめたかっただけなのかもしれない。

 だが生きていると言われても、それはあまりにも遊離しているような事実であった。

「……二人は、無事で?」

「不思議なことだが、目立った外傷はない。昏睡状態、としか言いようがないんだ。それに、バイタルも安定している。眠り続けている以外は異常もない」

 医師の診断に南は並んだベッドに横たわる両兵と青葉を見やってから、青葉の頬をさする。

「……きっと、大変な戦いを経て、ここまで帰って来たんでしょうね……青葉、あんたは……」

「――南。軍部が撤退したわ」

 かけられた声に南は咄嗟に返せなかった。

 泣き腫らした眼を見せたくなかったのもある。

「……ルイ……」

「こんなところで塞ぎ込んでいたって、敵は来る。それは南が一番分かっているはずでしょう?」

「でも、でも私は……。簡単に立ち直れるほど、強くない……」

「南。私は、機会が許せば《モリビト2号》へと乗るわ」

 その言葉に南は思わず振り返ってしまう。

 覚悟を決めた相貌のルイは、こちらを見据えていた。

「……ルイ、あんた……」

「青葉も小河原さんもきっと、戦いを経て強くなった。なら私は、もっと強くならなくっちゃいけないはず。二人が目を醒ました時に、弱いままじゃ合わせる顔もないもの。だから私は、モリビトに乗る」

 ルイは何かを期待しているのだろうか。

 自分はただの――戦場で大切なものを失っただけの女だと言うのに。

「……南が麻酔弾を撃たれた後に、あいつが……ダビングが言い残した言葉を伝えておくわ」

「……何て……」

「“未練はたっぷりあるから幽霊になってまた会いに行けるかも。その時はまた引っ叩たいてもらおうかな”……だって」

 南はその言葉に奥歯を噛み締めて頬を伝う熱を感じ取っていた。

「……馬鹿よ、馬鹿……本当に、あんたは大馬鹿だって言うのよ……ダビング……。そんなの、冗談にしても性質が悪いって言うのに……」

「南。私はあいつが言ったことを無駄にしたくない。あいつの行いを、無駄にするわけにはいかない」

「……少しだけ、時間をちょうだい」

「……分かった」

 ルイが立ち去っていく。

 その足音を聞きながら、南は咽び泣いていた。

 それでも、決めるべきことは――自分の道だけは、自分で決定しなければいけないはずだ。

「……泣いてる場合じゃ、ないんだから。だから、もう……泣くのはこれが最後……最後の、はずなのに……」

 それでもどうしてなのだろう。

 涙は止まらなかった。

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