JINKI 200 南米戦線 第七話 「カラカスアンヘル」

「――残念。全ての脅威判定はC以下を示している」

『む、無傷だと……』

「それも当然。この人機――《キリビトプロト》はこの私、アーケイドに全て順応してくれている。さぁ、これで終わりだ」

 巨大人機である《キリビトプロト》がバインダーを開き、内側から射出したのは無数の自律兵装であった。

《ホワイト=ロンド》へと接近するなり、プレッシャー兵装を内蔵した自律兵器が血塊炉を撃ち抜いていく。

「その程度で! 私の《キリビトプロト》の露払いにもならない!」

 哄笑を上げていると、不意に声がかけられていた。

『油断しないで。その機体はいずれ来たるべき時に運用するキリビトタイプのフラッグシップ機。ここでは戦闘データを取ることに注力して』

《キリビトプロト》にマニピュレーターをついて直通通信を繋いだ《CO・シャパール》へと、アーケイドは興奮気味に応じていた。

「はい! ジュリお姉様! 私にお任せを!」

『……威勢がいいのは、いいんだけれどね』

『構うな! 相手は巨大人機だ! 機動力では! こちらが上ェッ!』

 背後を取ったつもりなのだろう。愚かしいレジスタンスの人機へと、《キリビトプロト》は内蔵されていたアイカメラを背後へと回していた。

『な――っ、後ろにも眼が……!』

「機動力? 何を嘗めて……キリビト!」

 機体下部に格納されていた拡散型のプレッシャー兵装で接近した《ホワイト=ロンド》を焼き尽くし、周囲一帯を焦土へと変えていく。

「これがキリビトの力ァッ!」

 自律兵装が宙を舞い、直下へと地形を変えかねない威力の光線が一射される。

『退け、退けぇーっ! 何とかして敵のデータを持ち帰って……!』

「逃がすわけ! ないだろうに!」

 手繰る兵装は敵機の機動力を先回りし、光条がコックピットを射抜いていく。

「無力! 無意味! これが力を持つ者と持たざる者の差ァッ!」

『……オーケー、アーケイド。この程度でいいでしょう。あまり敵にデータを取らせるのも旨味がないわ。それに、この部隊だけが本隊じゃない。どこかで計算高くこちらの動きを見ている連中が居るのは明白』

「ですが、お姉様……! 敵がまだそこに……!」

『泳がせておきなさい。それに少しは帰らせたほうが《キリビトプロト》の脅威も分かるでしょう』

「……仰せのままに」

 自律兵装をわざと収納させ、数機だけ帰還させる隙を作らせる。

《ホワイト=ロンド》編隊はほうほうのていで逃げ帰っていくが、心は幾分も晴れなかった。

 本来ならばこの地を地獄に変えて実力を示してでも、アーケイドはジュリに果てのない忠誠を誓っている。

 だが敵を逃がせとジュリが言うのならばそれに従おう。

「それにしても、キリビト……こんな人機があるならばトウジャになんてこだわる意味なんてなかったな」

 自分が今操っている力の象徴に、アーケイドは酔いしれる。

《キリビトプロト》は通常の人機の三倍近くはある巨体を維持するのに、血塊炉を五基も積んでいる。

 如何にキョムの技術力の結晶であったとしても、人機である以上は血塊炉に頼らざるを得ないのだ。

 そして、巨大な血塊炉は命そのもの。

 アーケイドは《キリビトプロト》を操れば操るほどに、自らが洗練化されていくのを感じていた。

「……これが、彼の黒将が感じていたという、命そのものの力……。私もその座に加わることができる……この! キリビトの力さえあれば、私も八将陣へと!」

『アーケイド、一度帰還するわ。キリビトの力とは言え、何度も見せてやるものでもない』

「ええ、分かったわ、お姉様。シャンデリア!」

 直後、シャンデリアよりもたらされた光の柱が二機を包み込み、一瞬にして宇宙要塞へと転移していた。

《キリビトプロト》へと整備班が取り付き、機体制御系統を任せてアーケイドはコックピットより歩み出る。

「それにしても壮観ね。上下逆さまのコロニーって言うのは」

『ここは理想郷、見果てぬ夢を見た者たちの、ね』

《CO・シャパール》よりジュリが出て来るなり、マニピュレーターを伝って自分へと駆け寄る。

 アーケイドはジュリの腕に抱かれてその熱を存分に感じ取っていた。

「ああ……お姉様……」

「いい子ね、アーケイド。キリビトほどの巨大人機を試運転まで漕ぎ着けられたのはあなたの成果のお陰」

「いえ、そんな……お姉様が居たから、私は……」

 熱い視線を交わし、唇を重ね合う。

 情熱的なくちづけは互いの信頼の証であった。

 愛撫の指先が至る前に、乱雑な声が迸る。

「おい! オレの《バーゴイルシザー》の整備ができてねぇとは、どういうことだ!」

「……カリス・ノウマン……」

 カリスは大鎌を整備士の首にかける。

 それをジュリが鞭で制していた。

「おやめなさい。整備士だって無限じゃないのよ。殊に、グリム出身の整備士と言えばね」

「気に入らねぇな、ジュリ……。てめぇ女のクセに前線に出張りやがって。オレの取り分がねぇと来た」

「あんたはこの二年で改良強化を得たとは言え、南米戦線に出るよりもまず、一年後の東京出兵に向けて力をつけてもらう。それは私たちを束ねるシバの総意でしょう」

「それも気に食わねぇってんだよ、あの女ァ……! 力がないなら後ろから犯してバラバラにしてやるってのによォ……!」

「それもできないから、私たちは手をこまねいている。せめて、南米だけでも手中に収めるために、今は順当な手が欲しい」

「ハッ! 順当な手、って言うのはそこに居るにわか八将陣の女のことを言ってんのか? ジュリ!」

「……誰がにわか八将陣だって……」

「分かってんじゃねぇか。自覚あるから噛み付いて来るんだろ」

 アーケイドは直後にはカリスに向けて飛びかかっていた。

 腕に仕込んだショットガンを炸裂させ、相手の視界を眩惑させる。

 カリスが如何に強化人間とは言え、その一瞬の隙を突けば難しくはない。

 何故ならば――自分自身も強化されているのだから。

 頸椎を折ろうとしたその瞬間には、カリスは習い性の戦闘勘で抜け出している。

「クソがァッ! 力を半端に持っている分、面倒だなァ、オイ! 犯して殺すのにも、機械の身体なんてそそられねぇ……!」

「……何度でも言いな。お前は私より弱い」

「何だと……。吼えるんじゃねぇ、この女狐が……!」

「――やめろ、カリス。それにアーケイドも」

 タン、と自分とカリスの間に降り立った黒の女は流麗に刃を抜き放っていた。

 その切っ先はカリスの眼前に、鞘はアーケイドの肋骨を叩き折っている。

「てめぇ……シバ……! どういうつもりだ!」

「どういうも何もない。私たちの目的を忘れたか、二人とも」

「……そうですよ。カリス、あなたもすぐに頭に血が上るのはよくない。今はシバに感謝すべきでしょう。八将陣同士で潰し合ったところで仕方ないのですから」

 シバに追従する形で仲裁したのはハマドだ。

 彼はカリスと同じ、殺戮者の類だが、カリスよりかは冷静に事の次第を観察できる。

「邪魔すんなら、てめぇだって同じだぜ、シバァ……。ここでブチ犯されてぇのか?」

「やれるものならやってみるといい。その結果、死体が転がるのは目に見えているがな」

 その超然とした佇まいに、カリスのような狂犬でも分を弁えるくらいはできるらしい。

「……命拾いしたな、アーケイド」

「それはこっちの台詞だよ」

「八将陣は互いの手柄を奪い合うような愚を犯すことはない。それは分かっているだろう? さて、アーケイド。あれの調子はどうだった?」

「ああ。六割ってところかねぇ。キリビトタイプは未知数の部分が大きい。設計者の思惑通りに動くかどうかで言えば微妙なところさ」

「それでも、その手腕、期待している。ジュリがスカウトしたんだ。この二年間、無為に過ごしてきたわけではないのだろう」

「もちろんさ。強化施術も受けた。足りない部分は機械化もした! この力、存分に振るわせてもらうよ。そのための南米戦線だ」

「そうか。ジュリ、《キリビトプロト》とはこのままツーマンセルを組んで現地のレジスタンスを駆逐しろ」

「構わないが、相手もアンヘルを名乗っている。どうするの? 徹底的にやれと言うのならばやるけれど」

「命令は変わっていない。逆らう者全て、皆殺しだ」

 さしものアーケイドでもシバの迷いのない殺意に中てられると身震いしてしまう。

 軍に居た頃にも出会ったことのない、純然たる悪意の塊――邪悪の権化。

「それにしても、南米戦線は思ったよりも悪化していると言えるだろうね。あれは病理よ。どちらかの死でもってのみ、結論が出るのでしょう」

「ならば相手を殺し尽くせ。ジュリ、それだけの力は与えているだろう」

「それは分かっているんだけれどね。シバ、あんたは未だに沈黙を続けている。カリスじゃないが、八将陣でもその腹の内くらいは気にかかると言うのは本音さ」

 ジュリは自分では及びもつかないような悪の象徴であるシバへと、少女にそうするように肩を叩く。

 死にに行くつもりか、と緊迫したのも一瞬、シバは妖しく微笑んでいた。

「その心配はない。私の統率の下に、八将陣は生まれ変わる。揺籃の時代は今に終わる。楽しみにしているといい」

「そう……なら私たちは、せいぜいキョムの力を発揮するとしようか。それが期待された戦果だと言うのならばね」

「アーケイド、キリビトを預けているのは何も伊達ではない。物事は全て結果に集約される。結果でその実力を示し続ければ、八将陣でも特別な枠に入れてやらないでもない」

「そ、それは……黒将直属の……」

 声にしようとした自分へと、音もなくシバは接近し、立てた指で唇を塞ぐ。

「言葉にするまでもない。お父様はお前を見ている」

 お父様――そう呼ばれる存在を、しかしアーケイドは一度として目の当たりにしたことはない。

 恐らく、文脈から黒将であるのは確実なのだが、彼女の言うそれは「何か」が違う。

 その何かを明言化する方法は、自分には永劫訪れないように思われた。

「シバ、あまりアーケイドをいじめないでおくれ。この子は私のだよ」

「そうだったな。その力で私たちと共に戦う日を心待ちにしている」

 シバが空中庭園から立ち去っていく。

 漆黒の女の気紛れはいつであっても自分を魂の芯から震撼させる。

「……お姉様。一つだけ聞きたいことが」

「何? 《キリビトプロト》の整備状況ならグリムの連中に聞いたほうが」

「いえ、その……シバは、一体何なのですか。まるで抜き身の刃のそれのような殺気を伴わせて、それでいてその振る舞い自体は、まるで邪悪を知らぬ幼子のような……」

「幼子、か。言い得て妙ね。でもあまり踏み込まないほうがいいと思うわよ? ――あの子は、冷徹なのだから。下手に踏み込んで闇を目にすれば、アーケイド、あなたは地に堕ちることになる。それだけは、あってはならないはずだからね」

「ああ、お姉様……」

 脈動はこれほどもない恐怖に沈んでいると言うのに、昂ぶりだけは抑えられない。アーケイドはジュリに身を任せ、その愛撫の指先が下腹部に伸びたのを感じ取っていた。

 ――死に中てられかけた肉体は、生を謳歌するために他者を求むる。

 この時のジュリとのひと時は、情熱的であった。

「――信じ難いな……。単騎でここまで?」

 言葉を振ったのはレジスタンスのリーダーで、桜花は首肯する。

「それも型落ちの《ナナツーウェイ》で……《バーゴイル》小隊を蹴散らした男です」

 リーダーは強い顎鬚をさすって思案を浮かべる。

「その男、今は?」

「ナナツーから降りようとしません。食事も、人機のコックピットで済ませたようです」

「そうか。格納デッキには?」

「既に武装で固めた兵力が。ですが……個人的な視点に過ぎませんが……あの男、銃で怯むことはないかと」

「お前がそう言うのならば、その通りなのだろう。一度、戻りなさい。あとはわたしが見ておこう」

「い、いえっ……! 私があの男をここまで招いたのです……! 責任があります。アンヘルの一員として!」

「……桜花。お前には苦労をかける」

「いえ、私も戦士ですから」

 血の滲んだ包帯を握り締めた自分に、リーダーはそっと頭を撫でかけて、あ、と躊躇っていた。

 桜花は頬をむくれさせる。

「子供じゃありませんっ!」

「……すまない。つい、な」

「ついじゃないです! いつまでも……子供扱いして……!」

「リーダー、桜花はうちの切り込み隊長なんです。その癖、直したほうがいいですよ」

 前を行く構成員が笑って茶化すと、リーダーも困惑したように頬を掻く。

「いや、すまない。……そんなに可笑しいか?」

「可笑しいですよ。強面が自慢のカラカスアンヘルのリーダーが子煩悩だって言うんじゃ」

 そこいらかしこで笑い声が巻き起こるのを桜花は憮然として応じていた。

「子供扱いしないで! もう、十五よ!」

「まだ十五だろうが。それにしたって、リーダー。ナナツーに乗って来たって言うことは敵って線はひとまず薄いんじゃ?」

「いや、それも分からん。一度会って話をしなければな。そうでないと始まらない」

「……武器は」

「一通りで構わんだろう。相手も流儀が分からんクチではあるまい」

「……了解。桜花、もしもの時には頼むぜ」

「私に命令していいのはリーダーだけよ!」

「へいへい。ったく、口の減らないガキだぜ」

 格納デッキで佇んでいる《ナナツーウェイ》のキャノピーを開いたまま、人影はこちらへと視線を移していた。

 今まさにパンを齧っていた相手は、自分を認めるなり立ち上がる。

「前線のガキじゃねぇか。……ってことは、あんたらの誰かがリーダー格だと思えばいいのかね。……見た感じ、そこの髭のオッサンっぽいが」

「髭のオッサンって……失礼なことを言わないで! この人は――!」

「構わん。桜花、彼なのは間違いないか」

「え……ええ。確か名前は……」

「小河原両兵だ。てめぇら、その霜月とか言うガキに聞いた限りじゃ、カラカスアンヘルだって言っているらしいが」

「間違いではない。我々は消滅した南米の首都をその名に戴くアンヘルだ」

「……南米での重力崩壊……いや“ロストライフ現象”ってご大層な名前が付いているらしいな? 今じゃ」

「時の為政者が自国で核を使うと言う犠牲をそう呼ぶしかなかった、と言う事情がある」

「事情ねぇ……。まぁオレにゃ関係ねぇところだ。どっちにしたって、同じ話。キョムはオレがぶっ潰す。八将陣も、だ」

 両兵は腰に提げた刀を握り締める。

 まるでそれが命よりも大切だと言わんばかりに。

「……サムライ、と聞いた。東洋の武人は刀を使う」

「それはとっくの昔の話だが、オレの武器はこいつでね。時代錯誤だと笑ってもらって結構だぜ」

「……いや、笑えんさ。レコードを観させてもらっても構わないだろうか」

「構わねぇが、大した記録なんざ残ってねぇ。オレの《ナナツー零式》に触るんなら気ぃつけろ。こいつも生半可な死線を潜ってねぇ」

「……《ナナツー零式》……」

「カスタムタイプかね? それも独自の」

 整備班がリーダーの合図で取り付いていく。

 両兵はタンとコックピットから地面に舞い降り、こちらと視線を合わせてきた。

「何だかんだで操主としての勘ってもんがあってね。もしもの時にメカニックなしでも数日はどうにかなる」

「そうか。……我々はそうでもなくってね。血塊炉そのものが貴重なのだ。特に、搭載機となればな」

 両兵は自ずと格納デッキに収容されている他の《アサルト・ハシャ》へと顎をしゃくっていた。

「……珍しい型だとは思ったが、一度軍部のデータベースで見たことがある。電池ベースで動く軽量型の市街戦特化人機、《アサルト・ハシャ》。……先のカラカス消滅でその過半数を失ったと聞いていたが」

「それでも半数以上はまだ残っていた。それも我々に反抗の灯を預けてくれたお方……ダビング中将の恩は死んでも返し切れない」

 その名前を聞いた途端、両兵の瞳に宿ったのは言い知れぬ敵意であった。

「……そうか。あいつ、そんなことまでやってやがったのか。タヌキ野郎が。で? 当のダビングはどこだよ?」

「……あのお方は大義に殉じられた」

「……カラカス防衛戦で最後の最後まで核のマーカーになったのは中将の《ホワイト=ロンド》だ。まさかそんなことも知らないのか?」

 他の面子の言葉に桜花は、両兵の中の敵意が凪いでいくのを感じていた。

「……ンだよ、死にやがったのか。二年も前に」

「だが中将の志は死んでいない! あのお方は我々に《アサルト・ハシャ》と少数ながら純正血塊炉搭載の人機! そして反抗のための力を届けてくださったのだ!」

「……こんな場末に来てまで演説聞こうなんて酔狂じゃねぇンだ。ダビングがどれだけご立派に死のうが、死人は死人だろうが」

 両兵の吐き捨てた言葉に数名のメンバーが色めき立ち銃口を向ける。

「貴様……! 中将を侮辱するか!」

「やめて……! リョーヘイは敵じゃない!」

「どうかな。オレはてめぇらが思っているよりよっぽどクソッタレの外道かもしれねぇぜ」

 挑発めいた言葉を口にする両兵に、兵士たちが引き金を絞ろうとした、その瞬間であった。

「やめないか! 彼は桜花の命の恩人だぞ!」

 リーダーの気迫の一声が格納デッキを突き抜ける。

 その怒声一つで、兵士たちは一斉に銃口を下げていた。

「……へぇ。カリスマってもんはあると見ていいんだな」

「すまなかった。皆、キョムに住処を追われ、そして愛する家族を殺された者たちだ。気性が荒いのはわたしの責任だろう」

「別に、オッサンに頭を下げてもらいてぇわけじゃねぇ。ただな、ここに来るまで随分と《バーゴイル》に遭遇してきたが、八将陣が介入してきたのは今日が初めてだ。……ここはそういうことが頻繁に起こるのか?」

「……八将陣にとって、ここカラカス跡地は……最早実験場だ。試験兵器を存分に振るうのにこれとない適材適所なのだろう」

「……なるほどね。試作人機でもここなら憂いなく戦えるってわけか。加えててめぇらの血の気も荒い。そういう連中ほど、分かりやすく死んでくれる。体のいい的ってわけだ」

「……そんな言い草……!」

「事実だろ? それとも、死にに行く覚悟もなしに、今日まで戦い抜いて来たってわけでもあるまいし」

 ひとたび、桜花は両兵と睨み合う。

 この世全ての絶望を一身に受けたかのような奈落の瞳にも、桜花は屈せずに奥歯を噛み締めていると、リーダーが声にする。

「やめろ。我々は、敵対すべきじゃない」

「でも、リーダーと仲間を馬鹿にされて……」

「彼は試しているんだ。我々の本質と言うものを」

「へぇ……馬鹿じゃねぇらしい」

「オガワラ、と言ったな? 我々は君を歓迎はしない。だがここで突き放すほどの人でなしでもない。君の戦い振りを見せてもらおう。アンヘルに加えるかどうかはそれからの判断だ」

「別に。オレは一人でも戦えるぜ。何なら全員で束になってかかって来いよ。結果はすぐに分かる」

 うろたえた兵士たちを制するように、リーダーは静かな論調を崩さない。

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