JINKI 200 南米戦線 第十話「青葉の抗い」

『何だかなぁ……。レジスタンスなんて無茶だってボクは進言したんだよ? ナナツーの急造部隊なんてどこかに欠陥を抱えているもんなんだからさ。メカニックなしで一か月もやれるもんかって、ボクは息巻いたんだけれど……』

「実際にはもう二か月……正直、認めてあげたら?」

『だ、駄目だねっ! メカニックとして看過できるもんか!』

『エルニィちゃん、こっちの整備状況の進捗も頼めないかな。何せ、手が足りてないもんで……』

 古屋谷の弱気な言葉振りに怒声が飛び交う。

『貴様ら、何を弱気になっておる! エル坊に手ぇ借りるなんざ絶対に許さんからな!』

 相変わらずの山野の論調にエルニィが反目していた。

『山野のじーちゃんさぁ、ボクのこと、認めてくれないってわけ? せっかく新型トウジャのロールアウトまで漕ぎ着けたんだ。もう一端のメカニックだよ』

『馬鹿を言え。お前の祖父さんに比べればまだまだひよっこだ。新型トウジャの設計書も見させてもらったが、少し浪漫が過ぎるんじゃねぇのか』

『いつだって必要なのはロマンと情熱さ。……ってなわけで、新型機の顔見せ、青葉も協力してくれる? ウリマンとの共同で造り上げた技術だし、それに新しい人機は青葉にも見せたいんだ』

 エルニィの厚意に青葉はうんと頷く。

「新しい人機……見せてもらえるんなら嬉しいけれど」

『けれど? 何だか含みがあるなぁ』

「……もう、私の後に人機の戦いを作らせないなんて、偉そうなこと、言えなくなっちゃったな、って思って」

 こちらの言葉が沈んでいたのを察知して、エルニィは困惑する。

『それは……。青葉のせいじゃないよ』

「でも、私の努力不足なんだと思う。もう少し……強ければ……」

『何でも背負わない。そうじゃなくったって青葉は重く受け止めがちなんだから。キミだけがアンヘルじゃないんだ。もっとボクらの力を頼ってよ』

「……うん、それは分かったけれど……」

 何かと彼らには苦労をかけさせる。それでも自分が進むべき道筋はあるはずなのだろう。

 青葉はコックピットから出るなり、整備班の面々と顔を合わせてから、広世に言われた通り、宿舎の裏を目指していた。

 既に待っていた広世はこちらへと視線を振る。

「……広世」

「青葉……。悪い、もっとモリビトと一緒に居たかったよな」

「ううん、エルニィたちに任せられるから。それよりどうしたの? 改まって……」

「ああ。青葉には……言っておかないといけないことがあったんだ。もっと早く言っておくべきだったんだろうけれど」

「それは何?」

 広世は何度か躊躇ってから、やがて声にしていた。

「……みんながあえて避けているのは分かる。でもだからって、俺は青葉にまで伏せることなんてできるほど器用でもない。……小河原両兵に関してのことだ」

 両兵。

 その名をカナイマアンヘルの皆はあえて避けているのは空気で分かる。

 いつの間にか居なくなってしまった半身――あの日より生き延びた自分の愛する人。

「……両兵が、どうかしたの」

「俺は小河原両兵が居なくなる前に、一度会っている。……お前よりも先に目を覚ましたあの人は、行かなくっちゃいけないところがあるみたいに、お前には何も言わないままで……」

 それは初めて耳にする両兵の行方の手掛かりであったが、青葉の胸中は不思議と凪いでいた。

「……そっか」

「そっかって……青葉。あの人のこと……青葉は一日だって忘れたことはないはずで……俺が今日まで言えなかったのは、単純に弱さもあるからなんだ。カナイマのみんなにとって、小河原両兵の名前は精神的支柱になっている。それが分かっていながら、俺は……!」

「ううん、広世、いいの。……何でなのかな。ちょっと不思議なんだけれど、広世に話を聞く前から、両兵は絶対に生きているって言う感覚だけはあったから。特に驚かずに済んだって言うか……」

「生きているって言う感覚……? それは予感めいたものか?」

「それもあるけれど……私と両兵は、言葉にできない……絆みたいなので繋がっている。それが分かるから、だから悲しいけれど、でも泣かない。もう、泣かないって決めたから」

「青葉……辛いんなら、俺たちを頼ってくれたっていい。それは当たり前のことだし、俺はお前のこと……大事に思ってるんだから」

「ありがとう、広世。両兵が生きているってこと、言うのとっても勇気が要ったと思う。だから、ありがとう。私のため、なんだよね?」

「あ、ああ……。俺ができるのなんてこれくらいだしな」

 広世は自分から視線を逸らして、どこかばつが悪そうに眼差しを彷徨わせる。

 青葉は広世の言葉を聞いて、より強い決意を抱いていた。

 ――両兵が生きている。

 それが自分だけではない、誰かの言葉で裏付けられたというのならば、迷っている場合ではない。

「……キョムと戦う。そして、いつか両兵に追いついて……何やってたのって、文句の一個くらい言ったって、ばちは当たらないかな」

「……それは大丈夫だと思う」

 微笑みを交わし合い、青葉は大きく伸びをする。

「広世。両兵がこの世界のどこかで生きているって言うのなら、私は戦う。迷わずに戦える。これまで通りに、《モリビト2号》で……」

「……俺も迷わなくって済みそうだ。何だか心のしこりが取れた気分だよ」

「辛かったよね? でも、私たちはこの地の守りを預かったアンヘル……その守り人だって言うんなら、歩みを止めている場合じゃないもの」

 青葉は迷いのない相貌を闇夜へと投げていた。

 両兵がもし自分と再会する時があるとすれば、その時に後悔だけはないように。

 ――だから、誰にも負けらない。

 その誓いだけは、崩すわけにはいかないはずだろう。

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