昨日までの雪解け水で泥になっていた地点に見事に顔を突っ込んでしまい、全身が泥だらけになっていた。
「あ、あの……レイカル……?」
この状況はさすがに可哀想で、小夜も言葉を投げ損ねてしまう。
レイカルは直後、泣きじゃくって飛び上がっていた。
「うわーん! おみくじなんて大嫌いだー!」
「――ってのが事の顛末。悪いわね、勝手に上がらせてもらってレイカルをお風呂に入れていたらこんな風になっちゃって」
ナナ子の説明にようやく合点が行った作木は、レイカルへと視線を落とす。
「……レイカル。じゃあもう一回、おみくじを引きに行こうか?」
「で、でも高杉神社で大凶と出てしまったので、意味がないのでは……?」
「その辺はおとぎさんや高杉先生のほうが詳しそうだけれど……まぁ単純な話。僕もまだおみくじ引いてないからね。引き直そうって思っただけなんだ」
「……作木君らしいわね。年末年始、どうしていたの?」
「あっ、ちょっとした仕事が舞い込んできまして。その工房にお世話になっていたところで」
「そっ、よかったじゃない。じゃあ、もう一回行くとしますか、おみくじを引きに」
「あれ、小夜さんも行くんですか?」
「とは言っても、近所の小さい神社だけれどね。さすがに高杉神社まで往復はきついから」
肩を回した自分に作木はお疲れ様です、と労う。
「別にいいのよ。それに……こういうところで徳を積んでおかないと、何だかまた駄目なほうに転がっちゃいそうだし」
「小夜ってば素直じゃないわねぇ。作木君とまだお正月を楽しみたいだけでしょ?」
連れ立って、近所のほんの小さな神社に詣でる。
人影もまばらであったが、しっかり参拝し、その後におみくじを引いていた。
レイカルへとおみくじが差し出されると、彼女は少しだけ躊躇する。
「あの……また大凶なんてことは……」
「運が悪くっても、今度は一緒だから、ね?」
「……はいっ、創主様!」
引いたおみくじを小夜は窺う。
「どうだったの?」
作木とレイカルは同時に大吉のおみくじを提げていた。
「やった……! って、私が喜んでどうするのよ」
「ええ。……レイカル、きっと神様は見てるんだ。僕たちがいい行いをするかどうかって言うのを、お正月の間に。だから、少しでも、レイカルと一緒に、僕も成長したい」
「はいっ! 創主様! じゃあこの、大凶のおみくじは……」
「こういうのも、きっちり気を付けて生きて欲しいって言うメッセージなんだと思う。だから、大凶でも僕はレイカルと一緒に、この一年を過ごせることのほうが大事かな」
「……創主様……じゃあ大凶も! 私は背負っていくとします!」
レイカルと作木の絆に、小夜は高杉神社で引いたおみくじをそっと見返していた。
「……恋愛、慎重になるべし、か。……何だか釘を刺されているみたいね。でもま、乙女の恋路はいつだって、気紛れ……っ!」
小夜は思い切って作木の腕に抱きつく。
よろめいた作木は盛大にすっ転び――小夜と共に雪解け水の泥の上にあった。
お互いに泥まみれになって、小夜はぷっと吹き出す。
「……小夜さん、いきなり抱きつくから……」
「いーのよ! これで! 私たちらしい、年の始まり方じゃない!」
そう、いつだって年初めは少し騒々しいくらいでちょうどいい。
それが「大凶」のおみくじが示す――これからの自分たちの運勢の行方だというのならば、喧しいくらいの年明けも、縁結びの一つであろうから――。