「……《モリビト2号》……私は……私はこの場所で……! あなたに逢えてよかった! あなたと一緒に、笑って泣いて……そして強くなれた! だから今、私はここに居る! ……だから、だから……」
『……泣き虫なんだから』
頬を伝う熱いものを止められないまま、青葉は声にしていた。
「……だから……っ! ここでさよなら! モリビト……! もっといっぱい、いっぱい……! 私の大切な人たちを守って欲しい! それが私の……モリビトの誇りだよ!」
さよならが言えてよかった。
別れを自分から告げられてよかった。
強くなれてよかった。
弱くなったかもしれないけれど、それでもよかった。
涙は枯れない、止め処ない。
ルイに見られていても、それでも今は、それでいいと思えた。
こんな形でも、自分はやっぱり――。
「私は人機が好き……大好き! だからその心で、もっと、たくさんの人たちの思いを受け止めて! 《モリビト2号》ならそれができるよ!」
『……青葉……』
「ルイと一緒に……私の故郷を守って、モリビト……。私はずっと、ここで待っている。もう一度逢えるなんて都合のいいことを言っているのかもしれないけれど、それでも! ……私はずっと、この場所で戦い続ける。それがあなたと一緒にここまで来られた、私の強さだから……!」
その時、ルイがコックピットから飛び出す。
彼女にも思うところがあるのだろう。
青葉は涙を拭って、笑顔でルイの手を取っていた。
「……青葉、私は……」
「大丈夫っ! きっとルイなら、モリビトを託したって大丈夫だから! 私の想いを受け止めて欲しい」
「……重たいわよ、そんなの」
「かもね。重たい。……でも、ルイには《モリビト2号》を好きになってくれているから。だから、きっと……! 私の愛した人機を、ルイなら同じように愛してくれる。そう信じているよ」
「……青葉。私はあんたの思うようなタイプじゃないのかもしれない。それでも……あんたの想い、決して裏切らないから」
「うんっ! 約束だよ!」
本当ならば笑顔で送り出すつもりだった。
だと言うのに、どうしてこうも涙が溢れてしまうのか。どうしてここまで、自分の感情一つでさえも切り外せないのか。
――それでもきっと、それが別れの言葉だと言うのならば。
愛しき者たちへ、自分は精一杯声を張ろう。
「きっと、どこに行ったって! ……モリビトは私の大切な……唯一の人機……!」
帰りは自ずと言葉少なであった。
別れの儀礼は済ませたからなのか、あるいはその言葉をルイが受け止めてくれたからなのかは分からない。
いずれにしても、もう《モリビト2号》に乗るのは、これがきっと最後。
最後のはずなのに、下手な慕情に囚われることはない。
きっとそれは、モリビトの意思を確かめたからかもしれない。
「……青葉、本当にこれでよかったの?」
背中に語りかけてくるルイに、青葉は振り返らずに応じる。
「……うん。これがでも、本当の本当に最後だとは、どうしてなのかな……私は思えないの。また、生きていればきっと、逢えるはずだから。だからその時まで。私たちの絆は決して消えない。それがこの世の終わりになったとしても」
「……嘘つき。やっぱりあんたは泣き虫ね」
操縦桿に落ちた涙の粒に、青葉は頭を振る。
「……もう、泣かない。泣くもんか……って何度も何度も決めたのに。それでも涙って、出ちゃうんだね」
「……そのほうがあんたらしいわよ。笑って泣いて、強くなるんでしょう?」
《モリビト2号》が断崖を降下する最中、斜陽が差し込んでくる。
泣きっ面には、その光は少し眩しい。
それでも、涙色の別れにはしない。それだけはしてはいけない。
「きっと、また逢えるね」
向かう先の光を信じて、青葉は微笑みを答えにしていた。