エルニィが取り出したるは何とRスーツであった。
まさか売りに出されるとは思っておらず、赤緒は仰天する。
「た、立花さん……! それ、Rスーツ……!」
「うん? まぁそうだけれど、今さら何?」
「……えっと、売っちゃ駄目ですよ。古着じゃないんですから」
「人工アルファーを使っているって言っても、一度破けちゃうと修繕もできないから、売っちゃうのが手っ取り早いんだってば。どう、そこのお二人? これさえ着ればコスプレ気分」
マキと泉はへぇー、と感心したようだった。
「ロボットのパイロットにはパイロットスーツが付き物! 赤緒、これさっきのイギリス人が着てるの?」
「いやぁー……それは……どうかな……」
自分たちの着古したものだとは言えずに曖昧に微笑んでいると、エルニィは早速交渉を始める。
「何円からなら出せる?」
「そうだなぁー……二千円!」
「よし! 売った!」
即決された値段に赤緒はエルニィへと囁きかけていた。
「た、立花さん……? あまりに安いんじゃ……」
「何言ってんのさ。もう着れない服なんてそんなもんでしょ。まぁ、コスプレ感覚で着れるかもだけれどボクらは使わないし。使わないものならそれを必要とする人の下に、でしょ」
正論なのだが、となれば先ほど古代人機抱き枕を買わされた自分がとてつもない損をしているようである。
「現役のロボットのパイロットのスーツ買っちゃった!」
大喜びするマキを他所に、赤緒はむぅと頬をむくれさせる。
「……最初から、何だか騙された気分……」
「――いやぁー、意外と売れたねぇ」
夕飯の席でシールたちと共に今日の稼ぎを計算するエルニィに、赤緒は片づけながら忠言していた。
「……立花さん、いやらしいですよ、そういうの」
「いいじゃんか、みんな結果的にハッピーだったんだし。これだけ稼げるならまたやろうかな、蚤の市」
「もうっ。調子いいんですから」
片づけを済ませて赤緒は部屋に戻るなり、布団の上に屹立する巨大な古代人機抱き枕を恨めしげに凝視する。
「……五千円……それなりの出費だったのになぁ……」
軽くなった財布を顧みながら、赤緒はふと、古代人機抱き枕へと顔を埋める。
「……うぅ……これで結構素材がいいのが悔しい……。次からは無駄遣いしないようにしないと……」
「――さぁさぁ! 寄ってらっしゃい見てらっしゃい! エルニィ立花の蚤の市開催だよー!」
翌日、またしても赤い絨毯に怪しげなものを敷き詰めて商売を始めたエルニィに、赤緒は嘆息をつく。
「……立花さん? もうそういうの駄目だって言いましたよね?」
「いやぁー、思ったよかまだ売れるのがあったんだよねー。だからこれは言っちゃうと……決算セール?」
「……うまいこと言って、また色んな人からたかる気なんですから」
「失敬だな、赤緒。これは適正価格って言うんだよ」
売られているのは例の如くガラクタだらけに思えたが、その中にアンヘルの人機ぬいぐるみを発見する。
「……あれ? モリビトとかはもう売れちゃったんじゃ……」
「ああ、昨日は商品陳列していなかっただけで、まだ在庫はあるんだよねー」
騙された気分を味わいつつ、赤緒はモリビトのぬいぐるみを抱える。
「……おっ、赤緒、それ買うの?」
今度こそは流されまい、と赤緒は料金交渉に入る。
「……言っておきますけれど、適正価格ですからね。千円しか出しませんよ?」
「いいよー、別に。千円ねー」
肩透かしのリアクションに、赤緒は千円札を差し出していた。
「……あれ? 千円でいいんですか?」
「言ったじゃん、適正価格だって」
何だか納得できないものを感じつつ柊神社に戻ろうとすると、湯飲みを持った南が縁側でこちらに気付く。
「あら、赤緒さん。今日もエルニィの商売に付き合ってあげてるの? おっ、茶柱」
「まぁ……そうなんですけれど……これ、普通に千円くらいで……」
「ああ、だってそれ、五百円とかで売っていた奴でしょ? 赤緒さんがその値段で交渉したんなら……あれ? 言わないほうがよかった?」
赤緒はモリビトぬいぐるみを抱えたまま、商売を続けるエルニィへと駆け込む。
「立花さーんっ! また騙しましたねー!」
「やべっ、バレた……。な、何だよぅ! 赤緒が適正価格を知らないのが悪いんじゃんかぁー」
「それとこれとは別ですーっ!」
追いかけっこを始めた赤緒とエルニィを、南は眺めてふと呟く。
「……ま、人によって物の価値なんて変わるものだし、一概には、言えないか」
――フリーマーケットに並んだ商品はきっと誰かに買われる時のために、陳列されているのだろう。
南は渋い茶をすすりながら、さて、と声にする。
「今日もアンヘルの蚤の市が盛況だと、嬉しいわね」