直後に弾き出された結果にはエルニィも当惑していた。
「90パーセント……って出てるけれど……メルJ?」
「ご、誤解のないように言っておくが、別にこれも赤緒と同じ理由だぞ? やはり、台所を担当してもらっているというのはだな……」
どうしてなのだか論調に焦りが滲み出ているメルJにエルニィは訳知り顔で応じる。
「ふぅーん……何だか踏み込んじゃいけなさそうな部分だから、ここはあえてスルーするけれどさ。うーん、それにしたって結構幅があるなぁ。テスト運用しようにも、アンヘルメンバーじゃ何となく予想通りなのもあるし」
腕を組んで考え込んだエルニィへと、赤緒は言いやる。
「やっぱりその……運用はちょっと待ちましょうよ。確かじゃないんなら何だか……悪いことをしているみたいですし」
「かなぁ……。まぁ、一旦調整して、数値とかももう少し精度を上げてからじゃないと商売にならないか。ちぇーっ、せっかく御守りとの抱き合わせ商法で大儲けできると思ったのにー」
完全に本音がだだ漏れのエルニィに対して、何だか弄ばれた感覚で赤緒は筐体を片付けるその後ろ姿を眺める。
「……でも、相性が数字で……か。もし運用できたら何だかちょっと……」
「――おーっす、柊、晩メシあるか?」
夜半も過ぎた頃合いで玄関を開けた両兵に、赤緒は鉢合わせて狼狽する。
「お、小河原さん……? あの、もう夕飯どころかみんな寝る時間なんですけれど……」
「あ、そうだったか。ちぃと遅くなっちまってよ。橋の下で酒盛りしていたら、そういやメシまともに腹に入れてねぇな、って思っちまって。余り物でもいいんだが」
「……しょうがないですね。夕飯の余り、ちょうどあったはずなのであっためますから」
「おう、頼んだぜ」
台所に戻って味噌汁を温めつつ、赤緒はそういえば、と思い返す。
「……小河原さんと私……もし今日の機械で測ったら……どんな数字が出るんだろ……」
別に魔が差したわけでもないが、赤緒は夕飯を整えてからハートマークを外して格納庫の隅に置かれていた相性診断デラックス君を神社の中へと運び込む。
「おっ、メシか?」
「あの、その前に……これ、ちょっとやってもらえます?」
「何だこりゃ? また立花の造ったよく分からん発明品か?」
「まぁ、そんなもので……。えーっと……ここに一緒に手を置くと……数字が出てくるんです」
「何の数字だよ?」
「えーっと、あっ! 操主としての力量、みたいな……」
相性とは言えず、思わず嘘をついてしまう。
両兵は別段、疑うわけでもなく、手を置いていた。
「何も起きんぞ?」
「あっ、二人で手を置かないと駄目なんですよ」
「そうか。じゃあ上から手を置けよ」
「で、では……」
両兵の大きな手の甲の上に、赤緒はそっと自分の手を添える。
すると、相性診断デラックス君が起動して数値をたたき出していた。
緊張の一瞬――もし大した数字じゃなかったらどうしよう、という思いが掠めた直後には、数字が弾き出されたかのように思われたが――。
「うん? 何だこりゃ? エラーしてるぞ」
「えっ……そんな嘘……本当だ、エラーしちゃってる……? 何で?」
「オレが聞きてぇよ。ま、それなりに戦えるようになったってことじゃねぇの。つーか、早くメシくれって。腹減ってんだからよ」
相性診断デラックス君が弾き出したエラーの文字列に、赤緒はしかし、どこかホッとしている自分を発見する。
もし――単純な数値に集約されてしまえばきっと、この想いは一途ではいられなかったのかもしれないのだから。
「……でも、できれば数字が欲しかったなぁ……。だって、そうすればきっと……」
間違いじゃないのだと、思えたはず。
「柊、メシ」
こっちの思惑をまるで無視して夕飯を要求する両兵に、赤緒は嘆息を一つついてから、夕飯を運んできていた。
「あの……美味しいですか?」
「うん、旨ぇ」
何だかそれ以上の言葉が欲しかったのは、親密度を数値化できてしまう機械の魔力だろうか。
エラーしたことを残念がるよりも、数字にできない、今の気持ちが自分の胸の中にあることを、赤緒は確信していた。
「……本当に大事なことは数字にならないほうが、エラーのほうがよかったのかも……なんて」
そう呟いて、赤緒は両兵のおかわりの白米をよそう。
――数値化されない夜半に流れる二人だけの時間は、きっと代え難いもののはずなのだから。