レイカル 58 7月 レイカルと期末テスト

 小夜たちを通してから、作木はテーブルの上で解答用紙を並べたラクレスを目にしていた。

「じゃあ始めるわよぉ……」

「よ、よろしく頼むぞ! ラクレス!」

「ひいきしたら承知しないわよ……」

「お願いします!」

 カリクムとウリカルも正座し、三者三様の反応を楽しみながらラクレスが採点する。

「けれど、ヒヒイロが言っていたんだけれど、何で作木君の家で採点? それが分かんないまま来ちゃったんだけれど」

「あ、それはですね、多分……」

 採点を終えたラクレスがレイカルたちに答案用紙を裏向きで返す。

 各々、ゆっくりと答案用紙を捲ると、レイカルがまず奇声を上げた。

「あー! 全然合ってない!」

「……思ったよりかは解けていてよかったぁ……。ウリカルは?」

「あっ、私はえっと……」

「……百点満点じゃない」

 レイカルはテーブルの上で手足をばたつかせる。

「悔しいー! 二十五点なんて全然強くないじゃないかー!」

「私は六十点。ウリカルなんて満点よ? レイカル、もうちょっと勉強したほうがいいんじゃない?」

「六十点がよく言えるわね……。カリクム、あんたもうちょっと勉強したほうがいいわよ」

 呆れ返った小夜にカリクムはむっとする。

「……は、半分取れてるんだからいいだろー」

「では、作木様。例のものを」

 ラクレスから赤ペンを渡され、作木は促す。

「じゃあ……早速付けていこうか」

「お願いします! 創主様!」

 ミニサイズの答案用紙へと、作木が描いたのは花丸である。

 それを施されるとレイカルは先ほどまでの不機嫌さはどこへやら、笑顔になって答案用紙を誇っていた。

「どうだ! カリクム! 私の答案用紙は最強だぞ!」

「……二十五点がえばっちゃって……。私も頼めるかしら」

 続いてカリクムの答案にも花丸を描き、もちろん百点満点のウリカルにも花丸をあげていた。

「これで対等ね」

「対等だと? 私の花丸のほうが強そうだぞ!」

「わ、私も花丸、すごく嬉しいです。作木さん」

 全員の賛辞を受けてから、なるほどね、と小夜がコーヒーを片手に歩み寄る。

「作木君の家で、ってそういう意味だったわけ。けれど、いいの? みんな点数が違うって言うのに」

「いえ、これは決めていたことですから。レイカルたちが、少しでも努力したら、僕は精一杯、彼女らに花丸をあげようって。創主としてできることは少ないですけれど、これで喜んでくれるならと思いまして」

「創主としてできること、ね。……相変わらず作木君には学ばされることも多いってわけか」

「さぁ、頑張ったみんなには今日も今日とて晩御飯を振る舞ってあげるわ! ナナ子キッチンの開幕よ! ……作木君、全然食べてないんでしょ? 今日はちゃんとしたナナ子特製バターチキンカレーを振る舞ってあげる!」

 キッチンに立ったナナ子が早速、夕飯の準備に入る。

 ――そう、頑張ったのなら、それに相応しい報酬を。

 それこそがきっと、正しい道なのだ。

「あっ、そう言えば小夜さん、レポートって書いてます?」

「もう提出したけれど……作木君、もしかしてまだなの?」

 いやはや、と作木は後頭部を掻く。

「……色々と遅れてしまって……」

「しかも……うわっ、これ明日までの奴じゃないの。間に合うの?」

「ど、どうにか……」

 こちらの頼りない声に、小夜はため息一つで胸元を反らす。

「仕方ないわね。私が手伝ってあげる。幸いにもこの講義、私も取っていたし。少しは力になれると思うわ」

「助かります……」

 精一杯頑張っても難しいことは世の中にはある。

 だが、こうして手を取り合うことができるのならば、きっとそれは少しだけ簡単になるはずなのだ。

 小夜にレポートの書き方を教わりながら、作木は必死に作成する。

 一方でレイカルたちはお互いの答案用紙を見せ合っていた。

「やっぱり私のほうが立派な花丸だ!」

「いーやっ! 私のほうだね!」

「あの……私のも立派だと思うんですけれど……」

 努力にはそれ相応の報酬があるのならば、また明日も頑張れるはずだろう。

 少なくとも今の自分には、バターチキンカレーの報酬が待っている。

 ならば――誰かに花丸をもらえるように、歩みは遅くとも努力しようではないか。

 開けていた窓から夏風が吹き込んでくる。

 期末テストが終われば待ちに待った夏休み。

 また騒がしい季節がやって来る。

 今は、その時のことを心待ちにしながら、歩みを進めよう。

 相応しい報酬を、ただ願って――。

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