小夜たちを通してから、作木はテーブルの上で解答用紙を並べたラクレスを目にしていた。
「じゃあ始めるわよぉ……」
「よ、よろしく頼むぞ! ラクレス!」
「ひいきしたら承知しないわよ……」
「お願いします!」
カリクムとウリカルも正座し、三者三様の反応を楽しみながらラクレスが採点する。
「けれど、ヒヒイロが言っていたんだけれど、何で作木君の家で採点? それが分かんないまま来ちゃったんだけれど」
「あ、それはですね、多分……」
採点を終えたラクレスがレイカルたちに答案用紙を裏向きで返す。
各々、ゆっくりと答案用紙を捲ると、レイカルがまず奇声を上げた。
「あー! 全然合ってない!」
「……思ったよりかは解けていてよかったぁ……。ウリカルは?」
「あっ、私はえっと……」
「……百点満点じゃない」
レイカルはテーブルの上で手足をばたつかせる。
「悔しいー! 二十五点なんて全然強くないじゃないかー!」
「私は六十点。ウリカルなんて満点よ? レイカル、もうちょっと勉強したほうがいいんじゃない?」
「六十点がよく言えるわね……。カリクム、あんたもうちょっと勉強したほうがいいわよ」
呆れ返った小夜にカリクムはむっとする。
「……は、半分取れてるんだからいいだろー」
「では、作木様。例のものを」
ラクレスから赤ペンを渡され、作木は促す。
「じゃあ……早速付けていこうか」
「お願いします! 創主様!」
ミニサイズの答案用紙へと、作木が描いたのは花丸である。
それを施されるとレイカルは先ほどまでの不機嫌さはどこへやら、笑顔になって答案用紙を誇っていた。
「どうだ! カリクム! 私の答案用紙は最強だぞ!」
「……二十五点がえばっちゃって……。私も頼めるかしら」
続いてカリクムの答案にも花丸を描き、もちろん百点満点のウリカルにも花丸をあげていた。
「これで対等ね」
「対等だと? 私の花丸のほうが強そうだぞ!」
「わ、私も花丸、すごく嬉しいです。作木さん」
全員の賛辞を受けてから、なるほどね、と小夜がコーヒーを片手に歩み寄る。
「作木君の家で、ってそういう意味だったわけ。けれど、いいの? みんな点数が違うって言うのに」
「いえ、これは決めていたことですから。レイカルたちが、少しでも努力したら、僕は精一杯、彼女らに花丸をあげようって。創主としてできることは少ないですけれど、これで喜んでくれるならと思いまして」
「創主としてできること、ね。……相変わらず作木君には学ばされることも多いってわけか」
「さぁ、頑張ったみんなには今日も今日とて晩御飯を振る舞ってあげるわ! ナナ子キッチンの開幕よ! ……作木君、全然食べてないんでしょ? 今日はちゃんとしたナナ子特製バターチキンカレーを振る舞ってあげる!」
キッチンに立ったナナ子が早速、夕飯の準備に入る。
――そう、頑張ったのなら、それに相応しい報酬を。
それこそがきっと、正しい道なのだ。
「あっ、そう言えば小夜さん、レポートって書いてます?」
「もう提出したけれど……作木君、もしかしてまだなの?」
いやはや、と作木は後頭部を掻く。
「……色々と遅れてしまって……」
「しかも……うわっ、これ明日までの奴じゃないの。間に合うの?」
「ど、どうにか……」
こちらの頼りない声に、小夜はため息一つで胸元を反らす。
「仕方ないわね。私が手伝ってあげる。幸いにもこの講義、私も取っていたし。少しは力になれると思うわ」
「助かります……」
精一杯頑張っても難しいことは世の中にはある。
だが、こうして手を取り合うことができるのならば、きっとそれは少しだけ簡単になるはずなのだ。
小夜にレポートの書き方を教わりながら、作木は必死に作成する。
一方でレイカルたちはお互いの答案用紙を見せ合っていた。
「やっぱり私のほうが立派な花丸だ!」
「いーやっ! 私のほうだね!」
「あの……私のも立派だと思うんですけれど……」
努力にはそれ相応の報酬があるのならば、また明日も頑張れるはずだろう。
少なくとも今の自分には、バターチキンカレーの報酬が待っている。
ならば――誰かに花丸をもらえるように、歩みは遅くとも努力しようではないか。
開けていた窓から夏風が吹き込んでくる。
期末テストが終われば待ちに待った夏休み。
また騒がしい季節がやって来る。
今は、その時のことを心待ちにしながら、歩みを進めよう。
相応しい報酬を、ただ願って――。