「最近、ちゃんと顔合わせられてなかったんだろ? じゃあ、ちゃんとツラぁ合わせて、そんで喧嘩でも何だっていい。どれだけ言い合いになったっていいんだ。そりゃ、てめぇみたいなカタブツがプチトマト食えンって泣けるのは笑え……コホン。大変な事態だが」
最後の最後で本音を飲み込み切れなかった両兵へと、メルJは顔を真っ赤にする。
「……馬鹿馬鹿しいだろうか……?」
「確かにちっぽけなことかもしれませんけれど……でも、ちっぽけでいいんだと思います。お互いにどうしても大変なところを言い合うんじゃなくって、ちっぽけなことで喧嘩して、ちっぽけなことで……こうして後悔できるのなら」
それはとても――尊いことではないのだろうか。
自分たちは生半可ではない傷痕ばかりを互いに見せ合って、そうして絆を育んできたが、差し迫った問題だけが関係性を深めるのではない。
傷を見せ合うだけが、理解の過程ではないのだ。
こうして取るに足らないことで言い合い、その途上でこじれてしまうのもよくあること。
「……そうか。そうなのだろう……かな。私も何だか、負い目じみたものがあったのかもしれない」
立ち上がったメルJへと、両兵は問いかける。
「オレの力は要るか?」
「……いや、小河原。聞いてくれてありがとう。それに、さつきも。自分一人で……赤緒に言って来るよ」
こうして軽々しく礼を言うタイプでもなかったはずだ。
それが解消されたのも大きな一歩なのだろう。
「おう、頑張れよ。なに、柊だって分からず屋じゃねぇンだ。人間同士なんだからよ。言い争って、時にはデケェ喧嘩もして、その度にどうにかなっていく。言葉があるだろ、オレらには。信じられる言葉ってもんがよ」
こういう時に、両兵はちゃんと背中を押す言葉が言えるところが、一つズルいんだろうな、とさつきは感じてしまう。
――誰にでも優しいから、だからそれは……。
「……さつき、柊神社に帰ろう。……そうだな、取り留めもないことを、ただただ言ってから、そして謝るとする。赤緒はもう二度と、私に夜食を作ってくれないかもしれないが……」
「大丈夫ですよ。ファイト! です」
自分なりの言葉でメルJを鼓舞する。
メルJは一つ微笑み、それから頷く。
「……正直になれば、何か返ってくるのかもしれないな」
「――お風呂いただきましたよー。立花さん」
「うん? ああ、ちょっと待って。この面クリアするまで、寝ないって決めたんだからねー」
エルニィは新発売のシューティングゲームに昨日からお熱だ。
すると、赤緒がすかさず飛んできてリセットボタンへと指を向ける。
「立花さんっ! ゲームし過ぎです! そんなんじゃ、寝れなくなっちゃいますよっ!」
「ああっ! 赤緒、それだけは! リセットボタンから手を離してってば! この面だけは! あとちょっとだけ!」
「駄目ですっ! いいですか? ゲームに夢中になり過ぎると、本当に眼が悪くなっちゃいますよっ!」
「……うへぇ……さつきぃ……助けてよ……」
「そ、それはさすがに自業自得なので……」
一瞬目を離した隙に、赤緒がリセットボタンを押す。
「あーっ! どうしてくれんのさ! ここまでやったのパァじゃん!」
「もう寝る時間ですよ! ほら! もう十時!」
「……まだ十時でしょー。赤緒ってば子供だなぁ」
肩を竦めるエルニィへと懇々と説教する赤緒を他所に、さつきは二階へと上がる。
すると、視界に入って来たのはお盆に乗ったうどんとおにぎりであった。
「……よかったですね。ヴァネットさん、それに赤緒さんも。言わないと分かんないことも、きっと世の中にはたくさんあるんですね」
お膳には「今日もお疲れ様です!」と赤緒直筆の手紙が添えてある。
二人の繋がりをしっかりと感じつつ、さつきは自室の扉を閉めていた。
「多分ですけれど、あったかいんですよね。こういうのって」
少しすれ違っても、それでもいい。
家族なら、いつでも何度でも、やり直せるはずなのだから。