布を巻いて、中にインナーらしき黒い服を着込んでおり、一見するよりもちゃんとした衣装だ。
「まったく、レイカルの奴が勘違いさえしなければなぁ」
カリクムは猫耳で仮装しており、尻尾が感情に合わせて動いている。
「まぁ……カリクムってば本当にお馬鹿さぁん……。尻尾が嬉しい時の感じになっているわよぉ……」
「な、なってねぇよ!」
フシャーと威嚇するのも猫っぽく、威厳たっぷりな魔女コスに身を包んだラクレスに遊ばれている。
「あの、作木さん。ハッピーハロウィンです」
ウリカルが丁寧に頭を下げる。
彼女はパンプキンをあしらった衣装に身を包んでおり、明るい色調がウリカルには合っていた。
「うん、似合ってるよ。もちろん、レイカルも」
「やったー! どうだ! カリクム! お前なんかには負けないんだからな!」
「べ、別にレイカルの創主に褒められたって嬉しくないし……」
ちら、と目線を振り向けたカリクムに小夜ははいはいとどこか雑に返す。
「似合ってる似合ってる」
「……適当だな、おい」
「けれど、何で家で? 外でもいいんじゃ……」
「いくらハロウィンには不思議がつきものって言ってもレイカルたちオリハルコンは誤魔化せないわよ。妖精みたいなものって言い訳は立ちそうだけれどね」
「小夜は一応、芸能人だからその辺気を付けているのよ」
ナナ子に忠告されて、なるほどと納得する。
確かに小夜は芸能事務所に所属しているのでこういったところで写真でも撮られればまずいのだろう。
「……けれど、ちょっとこじんまりしていますよね。すいません、狭い部屋で……」
「いいわよ、別に。慣れたもんだし、それに……まぁ、せっかくのハロウィンなんだから。似合ってるカッコをしたいじゃない?」
ウインクした小夜のハロウィン衣装は少しだけ挑発的で、目に毒だ。
とは言え、自分も何かやろうか、という気分にはさせられる。
「……僕は何かできるかな……」
「それなら、これ! 作木君ぴったりだわ」
取り出されたのは骸骨男の衣装で、何だかその辺も含めて見透かされているような気がしていた。
「……まぁ、確かに背高ノッポですけれど……」
「さぁ! じゃあ写真を撮るわよ! せっかくのイベントなんだもの。最後まで楽しまないとね!」
ナナ子に促され撮影会が催される。
写真に収められていくのを実感しつつ、作木はラクレスの少し寂しげな横顔に気づいていた。
「ちゃんと撮れてる?」
写真をチェックする小夜とナナ子には聞こえない程度の声で、作木はラクレスに声をかける。
「……ラクレス。もしかしてハロウィンは苦手?」
「……やはり作木様はよく観察していらっしゃいますね。別段、私の異名のせいでもないのですが、こればっかりは。本国の感覚とはかけ離れていますので」
ラクレスは「ノイシュバーンの魔女」の異名を取るベイルハルコンであった。
そう「あった」のだ。
今はもう違う、頼れるオリハルコンの仲間だ。
「……けれど、この国のハロウィンは嫌いじゃないんだよね?」
ラクレスは一瞬だけ困惑したようであったが、やがて答えていた。
「……認めていいのでしょうか。この国のこういう、ある意味ではいい加減な在り方を。それも一種の平穏の証なのだと」
「いいと思う。だってラクレスだってこの平和、嫌じゃないはずだよね? だからこうして傍に居てくれている……」
「買い被り過ぎですわ。……ただ、そうですね。そうあれればきっと、いいのでしょうね」
作木は買っておいた石焼き芋を取り出す。
それを半分に割って、ラクレスに差し出していた。
「どうかな? この季節の、日本の平穏さに。ラクレスなりの歩み寄りでいい、きっとそれぞれの歩調で」
彼女がこの季節が嫌だと言うのならば、自分も同じだけの苦しみを背負ってもいい。
その気持ちが伝わったのか、ラクレスはハウルで石焼き芋を浮かせて受け取る。
「……作木様のその気持ちだけで……私はきっと、何度でもこの季節を好きになれるのでしょうね」
「あーっ! ズルいズルい! 創主様とラクレス、ズルいぞー! 私も焼き芋が欲しいー!」
「大丈夫、こっちはレイカルたちにあげるから」
自分の持っていた石焼き芋をさらに半分に割ってレイカルに差し出す。
目を輝かせてレイカルは焼き芋へと齧り付く。
「美味しいー! やっぱりこの季節も最高ですね!」
その言葉に、なんてことはない、レイカルの全力で何もかもを楽しむ姿勢にラクレスは目を見開く。
「……この季節も最高……」
「うん。そういうのでいいと思う。この季節も、だっていいんだ。だって、どれだけ好きになっても、季節は巡るからね。いずれラクレスのための季節も来るよ。その時に、僕は最大限、君たちのためにしてあげたい」
それが創主の務めならば。
ラクレスは微笑んでから、そっと焼き芋を頬張る。
「……甘いですね、これ」
「そうさ。美味しいものを食べて、美味しい季節を楽しもうよ。それが、多分一番の……」
自分たちが巡る、季節からの甘い報酬なのだろうから。