「当たり前じゃんか! ボク相手に、無謀にも向かってくるって言うのはいい度胸じゃん!」
何だかその意地も必要なのかどうなのか、と赤緒は嘆息をついて目の前に佇む対象に目を向けていた。
相手は骨ばった細身の人機だ。
疾駆の機体の装甲自体は軽装で、なおかつしなやかである。
『いいかー? 模擬戦なんだから変なところ壊すなよなー!』
シールの声が響き渡り、自衛隊の駐屯地にて自分たちは緊張をはらんだ空気を吸い込んでいた。
『いいけれど、そっちこそ壊れても文句言わないでよね。私の新型機の初舞台なんだし、ちょっとは歯ごたえがないとつまんないわよ』
応じたのはルイで、新型トウジャが挑発するように手招きしていた。
「……こんの……ルイってば調子づいちゃってさぁ……! 赤緒っ! ギッタンギタンにするよ!」
「そ、その……模擬戦ですよね……?」
「構うもんか! 新型機って言ったって、ボクの手が入ってるんだからね! ちょっと関節の一本や二本は抜いたってバチは当たんないよ!」
何だかいつもよりも想定外にやる気を出しているエルニィに辟易しつつ、赤緒は一応、とルイへと通信を繋いでいた。
「その……ルイさん。お手柔らかにお願いします……」
『なに? 随分と弱気ね。そんなんで、勝負にすらならないってことだけはやめてちょうだいよ』
ルイは強気でこちらと相対する。
「何をぅ……! 赤緒! やるよ!」
「けれど、今回の模擬戦は新型トウジャである……《エスクードトウジャ》の試験としての意味合いも兼ねているって言うのに、私が下操主でいいんですか?」
「いーの! だってルイは息巻いたんだ。ボクのブロッケンと真正面から戦って、勝利してみせるってね!」
エルニィの怒りの沸点に赤緒は何度目か分からないため息をつく。
「……そう、なんですよね……。けれど、せっかくの新型機のお披露目……もっとちゃんとしてあげたくないんですか?」
「しょーがないじゃん。ルイが勝てるってずっと言うんだもんね。こっちだって負けちゃいられないよ。《ブロッケントウジャⅡ》、エルニィ立花!」
名乗りとは随分と古風だが、赤緒もうろたえながら乗る。
「あっ……えっと、柊赤緒! ……です」
『……上等じゃないの。《エスクードトウジャ》、黄坂ルイ……出るわよ』
その言葉が交わされたのを嚆矢として、双方の機体が大地を蹴ってまずライフルを構える。
その段階で横っ飛びする機体追従性能に赤緒は舌を巻きつつ、呟いていた。
「これが……トウジャの機動性能……!」
「――あれ? 今日は立花さん。学校に行かなくっていいんですか?」
ふと、居間で寝転がっているエルニィを目に留めて赤緒は尋ねる。
「……むぅ。赤緒ってさ。ボクが休んでいても文句言うんだね」
「い、いえっ、そんなつもりじゃ……。けれど先生のお仕事とメカニックのお仕事でてんてこ舞いだって……」
「そうだよ。忙しいには忙しいけれど、たまには気も抜かないとどうしようもないよ。ま、教師としての仕事は明日に持ち越しだし、メカニックもね。今はシールとツッキーに任せている途中。今日は久しぶりの非番なんだから」
とは言いつつ、エルニィはごろごろと寝転がりつつ雑誌を捲っていた。
「……立花さん。よくないですよ、あんまり真っ昼間からごろごろしちゃ……。駄目人間になっちゃいますよっ」
「うへぇ……相変わらずなんだからなぁ、赤緒は。……じゃあ、ちょっと真面目な話。赤緒さ、リカバリー役をやってみるつもりはない?」
何だか聞き慣れない言葉をかけられて、赤緒は戸惑ってしまう。
「……何です? リカバリー……?」
「赤緒は、今まで血続トレースシステムの補助なしで、人機に乗ったことはないわけじゃん」
「ま、まぁそうですけれど……」
「けれどもしもの時……そうだな。たとえば上操主がどうしても怪我とかで万全じゃない時に、両兵だとかのサポートが得られない場合、赤緒だってそれなりに《モリビト2号》を動かしてきたんだ。下操主席に一回くらいついてみたいとは思わない?」
「私が、下操主に……?」
実感はなかったが、確かに今のところトーキョーアンヘルで下操主を十全に務められる人間は限られている。
実戦レベルで言えば、両兵か、それかシールや月子だろう。
「そっ。下操主って上に比べて不足してるんだよねー。で、赤緒にはその戦闘経験値を買って、一回だけでも下操主の景色を見てもらいたいって寸法なんだ。どう? やる気はある?」
唐突に問われても戸惑うばかりであったが、赤緒はこれが真剣な話と感じてエルニィと視線を合わせて座り直す。
「そ、その……下操主って大変ですか?」
「まぁ、一回もないんじゃ、大変どころじゃないよ。血続トレースシステムが組み込まれているのは辛うじて上操主席だけだし。それに、何回か両兵がやったと思っているけれど、下操主席って上操主の代わりに動かせる……まぁ言ってしまえば、人機のマニュアル部分を兼ねているのもあるんだ。最悪のケースを想定すると、キョムのジャミングだとかで上操主のシステムがダウンした場合、下操主席のマニュアルに頼ることも大いにあり得るんだよね」
つまり、とても大事な職務だと言うことだ。
「……で、でも小河原さんは、そんなに大変そうには見えないですけれど……」
「両兵は慣れちゃってるからなぁ……。参考にはなんないよ。なんてたって、カナイマアンヘルだとマニュアル以外じゃ人機を動かす術はなかったんだからね。赤緒は想像できる? 今やっている全ての動作だとか操縦技能を頭の中に叩き込んで、最適なタイミングを想定して常に動くとか」
少しだけ考えを巡らせるも、あまりにも膨大な作業量に頭がパンクしそうになってしまう。
「……いや、ちょっと……」
頭痛さえ覚えた自分に、エルニィは嘆息をついていた。
「……まぁ、今の人機の稼働状況になってからの話しか知んない赤緒に、それを覚えろってのは酷だから、そこまでは求めないよ? ただ、経験として下操主をやってみるのは大事かもって話。両兵の助けをいつでも得られるわけじゃないし、戦闘経験値を積んでおくのは何よりもリカバリーになるんだ。それに、対策として敵に搭乗機を探られ難いって言うメリットもある。赤緒だからモリビトに乗っているって相手に対策取られて、そのせいで戦法を読まれて負けたんじゃ話になんないよ?」
確かに、それは考えの外であった。
自分の戦法や癖を読み込まれて対策されてしまえば、それは勝負になる前の話になるだろう。
キョムの操るAIや電脳で動いている《バーゴイル》に関してで言えば、エルニィ曰く数十年先を行かれていると言う。
このままでは相手が対策を練って完全にアンヘルの操主の動きを網羅する日も近いとのことだ。
そうなってしまってからでは遅い。
やはり、対策として下操主席の経験は積むべきだろう。
「……その、でも私が下操主になると、上はどうなるんですか?」
「そうなんだけれど、ルイがちょうどいいかなって思ってるんだ」
「ルイさん……ですか? でも……」
濁した意味をエルニィは理解しているのか深く頷く。
「ルイは今、さつきとのツーマンセルを想定して動いている、だよね? それなんだけれど、近日中にルイの搭乗する新型トウジャの模擬戦が行われることになってるんだ。もちろん、その試験も兼ねて、と言う感じ」
要はルイでさえも慣れていない新型機の補佐に回って欲しいと言うことなのだろう。
それならば最初からそう言ってくれればいいのに、と思っているとエルニィは口をへの字にする。
「……最初から言えって顔しないでよ。問題なのは、ルイが承認するかどうかなんだから。赤緒の補佐なんて要らないって言うんなら、そっちを尊重するし。それに、今回の場合、模擬戦の相手も重要なんだよね」
「……えっと、ルイさんに匹敵する操主としての技量なら、ヴァネットさんとかですか?」
「それは理想的なんだけれど、今回はトウジャの機動力を試したいのもあって、陸戦機がいいかもね。赤緒、トウジャに関しての知識は?」
ほぼ不意打ち気味に問いかけられて、赤緒は脳内にあった人機の基礎知識を呼び出す。
「……えっと、モリビトはパワーで、ナナツーが汎用性、トウジャは確か……機動力でしたっけ……?」
「ま、赤緒にしちゃ、一応ちゃんと覚えてるじゃん。ほぼ正解。加えて新型トウジャはナナツーの有する汎用性を向上しようって設計思想もあるんだ」
エルニィは雑誌に挟んでいた書類をぺらりと差し出す。
表に「最重要機密書類」とでかでかと書かれているが、これを栞感覚で使っていいのだろうか、と赤緒は不安になっていた。
「えっと……名称、《エスクードトウジャ》……。これが新型機の名前ですか?」
「うん。ま、今のところ最有力かな。で、スペック表を読んでもらうと助かるんだけれど」
「……でも、これ全部英語……」
「えー、もう、赤緒ってば英語読めないの? まぁ、軽く説明すると、《エスクードトウジャ》はボクのブロッケンやメルJのシュナイガーと違って、陸戦を想定して造られてるんだ。建造方針とかの話になって来るんだけれど、それは結局、キョムとの戦闘において優位に立つ上で、陸戦機の機動力を突き詰めた機体……型落ちだけれど、《トウジャCX》の理念に近いかな。あれも陸戦機だけれど、ちゃんと加速性能は高かったし」
教えられる限りではそういえば《モリビト2号》も元々は陸戦機だったか、と混乱しながら思い返す。
「あれ……? でも《ブロッケントウジャ》も陸戦用の人機ですよね? 役割が被ったりするんじゃ……?」
「ブロッケンはトウジャの性能を保持しつつ、ナナツーの汎用性を武器換装によって実現する機体だから、厳密には違うんだけれどね。それに、ボクの機体もアップデートする予定だし。はい、これ。新型の編成案」
今度は日本語の設計図だったので、赤緒はそれを上から下まで読み込む。
「新型機……《ブロッケントウジャⅡ》……」
「前回、キョムとは違う、グリムの眷属との戦闘時において局地的な戦法も有効だと分かったからね。ブロッケンはもっと色々と積載できるように肩や背中のハードパーツを入れ替えてさらに換装性能を上げていく。その方針には南も賛成みたいだし、これでコンペは超える予定」
「ブロッケンも強くなるんですね……」
自分の懸念を読み取ったように、エルニィは視線を注ぐ。
「……赤緒、置いていかれるとか思ってない?」
「いえ、そんなことは……ない、とは言い切れませんけれど」
「あのね、これでも《モリビト2号》に結構リソース割いているんだよ? 血塊炉を三基連動させているんだから、他の人機とはまず馬力が違うってのに。まぁ、それも込みで、赤緒には下操主席の経験を積んで欲しいってことだよ」
あ、とようやく悟る。
エルニィはこの話になることを想定して、下操主を提案していたのだ。
「……そう、ですね……。下操主も動かせれば……私もちょっとは役に立てるかも」
「でしょ? まぁ、ルイの下操主になるって言うんならかなりスパルタだろうけれど、頑張ってよ」
何だか前途多難だなと思っていると玄関が開いた気配がしたので赤緒はぱたぱたと駆け出す。
「あっ、ルイさん。次郎さんのお散歩終わりました?」
荒縄で縛った次郎を散歩させるのはルイの役割だ。
「ええ、まぁね。……何かあった?」
目聡く分かってしまうのか、あるいはそれほどまでに自分は分かりやすいのだろうか。
「……分かっちゃいます?」
「顔に書いてあるわよ、あんたみたいなのは」
「……新型トウジャの模擬戦、近いって聞きました」
「それで? もしかしてあんた、下操主に任命とかされたんじゃないでしょうね?」
何もかも見透かされていて、赤緒は素直に頷く。
「ええ、まぁ……」
頬を掻いていると、ルイはキッと鋭くこちらを見据えていた。
「……赤緒。あの自称天才と話をさせてちょうだい」
問答の間もなく、居間へと乗り込んだルイがエルニィへと早速、声を吹き込む。
何だか立ち聞きするのも悪い気がしたので、赤緒は玄関に取り残された次郎を抱えていると、直後には怒声が飛んでいた。
「待ってって! ルイ、それは横暴だよ!」
「横暴も何もないわ。それとも……あんた、私にそれで勝ったつもり?」
「何をぅ……! こうなったら!」
「ええ、こうなったら」
エルニィは居間から飛び出し、玄関先で硬直している自分を発見して歩み寄る。
「な、何ですか……?」
うろたえているとエルニィは自分の手を取って宣言していた。
「赤緒! ボクのブロッケンの下操主になってよ! 絶対! ルイの鼻を明かしてやるんだ!」
目を白黒させていると、ルイとエルニィの間で勝手に話が進んでいく。
「……舐められたものね。けれど、いいわ。やってあげる」
「よぉーし! 赤緒、勝負は三日後だよ! それまで下操主席のノウハウ、ちゃんと教わってよね!」
完全に取り残された心地で赤緒は事態に流されて頷く。
頷きながら、あれ? と疑問が生じていた。
「教わるって……誰に?」
――シミュレーターでまず居合わせたのは南で、彼女は平常時の服装ではなく、人機搭乗用の服装に袖を通している。
「赤緒さん。話は聞いたわ。下操主、教わりたいんだって?」
「え、ええ、まぁ……。けれど、南さんから教わることになるなんて……」
「任せなさいっ! これでもカナイマじゃ上だろうが下だろうが鳴らしたもんよ!」
ガッツポーズを取る南はどこまでも強気だ。
「あの、基本動作くらいでいいんで……」
「何言ってるの! ルイに勝つんでしょう? これでもルイに人機の操縦を叩き込んだのは私なんだから。いわばルイの操縦のクセは完璧よ!」
真偽不明な自信に翻弄されつつ、赤緒は下操主席についていた。
「えっと……マニュアルじゃ、下操主って現状の人機だとやることはないんですよね?」
インジケーターを調整しつつ、南は上操主席の血続トレースシステムではなく、マニュアル操作に切り替えていく。
「まぁねー。けれど、やることの基本は変わんないわ。索敵と、それに基礎動作として、脚部周りは任すことになるけれど……いけそう?」
「が、頑張りますっ……!」
自信のほどはないが、それでもエルニィからある程度の基礎中の基礎は叩き込まれている。
「じゃあ、シミュレーションを稼働させるわね。トウジャの設定だから、かなり気持ちは軽くなるけれど、振り回されないようにね」
トウジャの稼働設定にした途端、脚部周りとそれに機体追従性能が切り替わる。
これまで《モリビト2号》で操縦を叩き込んできた身体がまるで空回りするのが、トウジャの性能だった。
「こ、こんなのを……ヴァネットさんや立花さんは……動かして……!」
「トウジャを動かすのも久しぶりねぇ。ま、けれどシステムに関してで言えば最適化されてるし、ナナツーをゼロから動かすのに比べればまだマシかな」
上操主席の南は余裕ぶっているが、赤緒は必死だった。
まず、駆動系統が異なるのに、上操主席でやっていたことの三倍は負荷が強い。
如何に《モリビト2号》とトレースシステムに甘やかされてきたのかを実感する。
南が上操主で人機の基本的な動作を担ってくれているとは言え、下操主は姿勢制御と武装選択、それにファントムの加速調整などやることは数多い。
これで真っ当に戦闘できるのだろうか、という思案を浮かべた矢先、トウジャが踏み込む。
「よぉーし、飛ばしちゃうわよー!」
エルニィから聞かされていた通り、踏み込む度に靴裏のバーニアで加速するのがトウジャの特性だ。
今の設定は型落ち機であるはずの《トウジャCX》を主軸にしていたが、その速力は《モリビト2号》の通常機動力の比ではない。
「こ、これが……トウジャで感じる重力……!」
振り回されて操縦桿を吹き飛ばされそうだ。
それをぐっと堪えて、上操主の南の操縦へと追従する。
「よし。ここまでかな。久しぶりにトウジャ動かすの楽しー!」
まだまだ余裕がある様子の南に対して赤緒はギリギリだった。
「そ、それはよかったです……」
赤緒はぐわんぐわんと身体がふらつくのを留め、一度シミュレーターから降りる。
「……大丈夫? ちょっと水を買って来るわね。赤緒さんは休んでおいて」
「は、はひぃ……」
ベンチに座り込み、赤緒は陰鬱なため息をつく。
「……私、まだまだだなぁ……」
「なぁーに、へこたれてンだ。お前も」
頬っぺたに冷たい感触を当てられ、赤緒は思わず素っ頓狂な声を出してしまう。
「ひゃん……っ! って、小河原さん?」
「コーヒーでも差し入れてやろうかと思ったんだが、黄坂の操縦について行くのでやっとじゃねぇの」
差し出された缶コーヒーを受け取る。
両兵はベンチの隣に座ってプルタブを開けていた。
「……えっと、その……」
「ま、黄坂の奴は操縦が雑だかンな。振り回されるのも無理ねぇよ」
両兵は彼なりに気遣ってくれているのかもしれない。
赤緒は息をついてコーヒーをちょびちょびと飲む。
「……トウジャって大変なんですね。何だかまさかこんな戦いに巻き込まれちゃうなんて思っていなかったですけれど、下操主席ってすることも覚えることも多いし」
「そうか? ……まぁ、そうか。オレみてぇなのはずっとマニュアル操作だからよ。逆に今の人機のほうが随分と便利にゃなったが、その代わりに失われたもんもあるような気がするな」
両兵はそう言えば血続の恩恵を全く受けていないはずなのだ。
それなのにメルJを実力で下し、自分たちアンヘルメンバーのサポートにもちゃんと回ってくれている。
何だかんだでこうして面倒見がいいのだ。
だから、下操主を買って出ることができているのだろう。
「……小河原さん。小河原さんって、下操主になってくれている時、いつも言ってくれていますよね。“恐れはオレが全部吸い取ってやる”って。自分の背中に……弱音は全部吐き出せって。そう言えるようになったきっかけとかあるんですか?」
「きっかけ、か。……そんなことを言い出せるようになったのは、多分、オレ自身が随分と……いや、いい。柊、お前はどうなんだよ」
「わ、私……? 私はその……まだまだ操主としては未熟で……」
「ンなこたぁ分かり切ってる。それでもよ、上操主に背中見られるの、気分とかどうだ?」
つい先ほどは南の荒っぽい操縦であったが、それでも初めての感覚であった。
いつも自分は、縋るように、救いを求めるようにして両兵の背中を見ているのだな、と実感したものだ。
南は自分を信じてくれている。
それは別段、彼女だけではない。
どんな境遇であれ、上操主席から望む景色は同じなのだ。
誰だとしても、人機操主をやり続ける限り、その視野からは逃れられない。
上操主と下操主。
互いに信頼関係があるからこそ、一機の人機の操縦を預けられる。
たとえどのような結果であろうとも、そこには納得があるはずだ。
まるで運命共同体のような――。
「……小河原さん。私、もうちょっと頑張ります」
「そうか。そういう気持ちになれンなら、悪くねぇだろ? 下操主席もよ」
問いかけられて赤緒は笑顔で応じていた。
そうだ、どのような諍いであろうとも、どのような道標であろうとも、そこに信頼があれば。
人機操主として、どこまででも、高く飛べるはず。
――ルイとエルニィがどのような会話を果たして決闘になったのかは分からない。
あえて、赤緒は聞かなかった。
きっと彼女らなりの、不器用でも信じたものがあるはずだ。
ならば、自分の役割は仲裁ではなく、かけられる言葉と信頼に応えること、応え続けることのみである。
操縦桿を押し込めるようにして掴み、《ブロッケントウジャⅡ》の駆動系に血を通すイメージで相対する。
《ブロッケントウジャⅡ》は特徴的な四枚羽根に仕込んだバインダーを押し広げてルイの《エスクードトウジャ》の攻撃に耐え忍ぶ。
「この……っ! ルイってばしつこいなぁ……!」
《エスクードトウジャ》の真骨頂は機動力からもたらされる立体的な舞踊を想起させる格闘戦術。