JINKI 291 青葉とお年玉

 去年は頑張った、今年も頑張って欲しいと言う願いを込めて。

「……何だかよく分かんねーけれど、そこまで小難しく考えることか? お年玉なんて、ぱぁーっと使っちまえばいいんだよ。どうせ、オレらが頭を悩ませたって、くれた奴にとってはそんなに考え込んでのものでもねぇんだろうし。その時に楽しめるのが一番だろ」

 両兵の考えはシールや月子の言っていたこととも重なっていた。

 ――自分が納得できる形が、誰にとっても一番。

「……ありがと、両兵。私、これをちゃんと使えそう」

「うん? まぁ、どういたしましてだな。ってか、お年玉なんて大したもんだとは思ったことなんてねぇよ。どうせ、年寄りがガキにくれてやるんだ。ゲームだとかおもちゃだっていい。そいつの納得の話だろ?」

「……うん。そうだね。なら、私は――」

「――おい! これを見やがれ!」

 翌日に整備デッキでシールはポチ袋を掲げる。

「あ、貰えたんだ」

「おうとも! いやー、それにしても苦労したぜ……。お年玉をねだるってのはプライドだとか要らないものを全部捨てねぇと駄目なんだな」

「私も貰っちゃった! これで新しい作業着が買えるかも」

「ついでにボクもー! いやーばーちゃんたち、太っ腹だなー!」

 満足げにほくほくしている月子とエルニィに、青葉は自分まで満たされた気分であった。

「そういや、青葉。あれは何に使ったんだよ。それなりの額だったんだろ?」

「あ、うん。……自分で納得できるものがいいかなって。これ……」

 三人が覗き込んでくる。

 それは新しい手袋だった。

「これ、普段から付けてる手袋か?」

「うん。いつも使っているもののほうが馴染みあるし、それにちょうど操主としてまだ半人前だけれどそれなりに扱えるようになれたからかな」

「確かに身に着けるものでお前らしいっちゃお前らしいが……いいのかよ。もっと欲しいものだとかはあったんじゃねぇの?」

「……うん。けれど気付いたって言うか……欲しいものはきっと」

 そこから先を青葉はあえて口にしなかった。

 ――欲しいものは、求めていたものは、きっともう揃っている。

 なら、自分なりの歩み寄りでいい。

 この日々を活かすために、青葉は新品の手袋を装着する。

 身に馴染んだ所作と、そしてぴったりのサイズは純粋に心地いい。

「ボクは何を買おっかなー! どうせなら、普段は買わないものがいいよね?」

「私はブティックに行くけれど、シールちゃんも来る?」

「けっ! オレはそんな色気づいたものに使うのは御免だね! ……それよか錆びたモンキーレンチの替えが欲しいんだよなー。今度のはすぐには壊れないほうがいいだろうし」

 お年玉を何に使うかは十人十色。誰一人として同じ使い道をする者は居ないだろう。

 だからこそ、あげる側にも意義が出てくる。

 当然、貰う側にも。

「じゃあ、せっかくだしいいご飯でも食べに行こっか! ボク、とっておきの場所知ってるし、青葉と二人も来なよ! 奢ってあげる!」

「いいが……お前は後が怖いんだよなぁ……。足りねぇって言うんでオレらのお年玉をたかるんじゃねぇぞ?」

「大丈夫だってば! なんてたって……お年玉を貰ったばっかりの子供ってのはいつだって無敵なんだからさ!」

「――おや、そこの」

 呼び止められて両兵は振り返る。

「あン? 何だ、ルエパの婆さんじゃねぇの」

「婆さんとはとんだ言い草だね。まだまだ現役だよ」

「そんで、何だよ。オレはこれでも一応忙しい……」

「まぁまぁ.急くものでもないさ。これをくれてやるよ」

 差し出されたのはポチ袋だ。

「……何か思惑でも……」

「ほっほ。若い者は疑り深くっていけないねぇ。もっと純粋に、老婆心でくれてやっているとは思わんのかい?」

「……悪いが、ただほど高ぇもんはねぇって学習してンだ。それに、あんたが青葉や立花に渡して回っていることもな。……目的は何だよ」

「目的なんてないさ。分からんかい? こうして若い者たちにお年玉をくれてやれる、それそのものが案外、替え難いものだって言うのは」

 両兵はポチ袋に視線を落とし、それから再三言い置く。

「……言っておくが、病気以外はオレは何だって貰うぞ? いいんだな?」

「構わんとも。それに……ああ、言い忘れていたねぇ」

「何がだよ。個人的なものに使うなって言うんなら――」

「そうじゃなく。――あけましておめでとう、とね。これが言えるから、私は若い者にお年玉をくれてやる喜びがあるんだよ」

 両兵はその言葉の裏面を探ろうとしたが、柿沼は微笑むばかりでその胸中はまるで読めない。

「……けっ。そんなでいいのかよ」

「そんなでいいんだよ。いや、違うね。そんなだからいいんだ」

「何だ、そりゃ。じゃあ、まぁ。若人から返すとしたらこうなのかねぇ。――あけましておめでとう、今年もよろしくってな」

「ほっほ。よく分かっているじゃないか」

 片手を振って身を翻した柿沼に対し、両兵はポチ袋の中身を開ける。

「……ンだよ。ケチくせぇ額だな。ただまぁ、貰えるもんは貰っとくか。これもありがたい、新年の挨拶なんだろうからな」

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