JINKI 44 別の未来像

 廊下で見知った影を見つけて、ジュリはその襟首を掴んでいた。

「……何で、あんたがここにいるのよ」

 首根っこを引っ掴んだ相手は悪びれもせずに応じる。

「失礼だな。八将陣、ジュリ。学徒ならば学校に通うものだ。例外はない」

 応じてみせた黒髪の少女は平時と変わらなく読めない笑みを浮かべる。

JINKI 43 笑って泣いて強く

「南さん、何を読んでいるんですか? ……ファッション誌……?」

 窺ってきた黒髪の少女に南は捲っていた誌面から顔を上げる。体操着姿で、デッケンには「津崎」の文字が。

「おっ、青葉。筋トレはもういいの?」

「休憩中なんです。ルイも……あれ? どこ行っちゃったのかな」

「ここよ」

レイカル 10 九月「レイカルのお月見」

「あれ? レイカル……。どこに行ったんだろ?」

 夕飯の準備を行っている間にレイカルは部屋から忽然と姿を消していた。視線を巡らせる作木にラクレスが指差す。

「ここです、ここ」

 レイカルは毛布に包まっている。涼しくなってきたのでついつい居眠りでもしているのだろうか、と様子を窺うと、何と震えていた。

「ど、どうしたの? レイカル。怖い夢でも見た?」

JINKI 42 極寒の地にて

 エルニィが話をつける、とまずは先導していた。

 ペラペラと異国の言葉を用いて、屈強な兵士たち相手に交渉する姿に、さつきはやっぱり、と認識を新たにした。

 ――天才なんだ、立花さんって……。

JINKI 41 遠雷の日には

 遠雷が漏れ聞こえて、赤緒はやおら台所から遠ざかっていた。それを見た五郎が嘆息をつく。

「あの……五郎さん」

「はい。後はさつきさんに手伝っていただきますので」

 赤緒は面持ちを暗くして台所を後にする。それを怪訝そうにさつきは窺っていた。

JINKI 40 恋ぞつもりて

 砂礫を踏み締める感覚は作業用の《ナナツーウェイ》ならではで、下操主に付き物のストレスも高い。それでも、下操主席から一度として弱音を吐かないルイは素直に称賛できる、と南は差し入れのホットドックを頬張りながら考えていた。

 ――はー、私ならお尻が痛いって理由でパスだわ。よく乗り回しの悪い《ナナツーウェイ》の下操主を買って出るわねー。この子、ひょっとしてマゾっ気があるのかしら。

「……ロクでもないこと考えてるでしょ」

 言い当てられ、南は頭を振る。

JINKI 39 「蘇る翼」

「どうです? これが我が国家が威信にかけて開発した、人機の第一号機です」

 その言葉と共に照明が照り返され、水色の兵器をその場に集った者たちに見せつけた。

 表向きは、各国政府への品評会だ。この時、拍手喝采が起きたのを、中国の兵器開発部門の要人は手で制していた。

「立派なものでしょう? 我が国家のロストライフ現象の報告件数が少ないのも頷けたので? トーキョーアンヘルの専門家さんは」

JINKI 38 守り人の価値

「あー、そうじゃねぇ。もっと寄せるんだよ。ナナツーなんて姿勢制御楽なほうだろうが」

 両兵の言葉に迷彩仕様の《ナナツーウェイ》がよろめき、またしても倒れる。前のめりに倒れたお陰で派手にすっ転げる事態は防げたが、それでも何回目だ、と呆れ返っていた。

 とはいえ、極東の島国で人機のノウハウは存在しない。

 だからこその自分と、そして――。

「よーし、いい感じ。そのまま歩くことだけに集中してー」

レイカル 9 八月「夏の思い出」

 ビーチは戦場。

 ――とばかりに、小夜は張り切っていたのだが、実際作木の軟弱体質にも困ったもので、早速パラソルを置いて、その陰で涼んでいる。

 小さな携行扇風機を手にし、既にぐったりモードだ。

「おおっ! 砂浜の中に何かいるぞ! カリクム! そっちから追い込め!」

「分かっているわよ! よぉーし、こっからが勝負だかんね!」

「……何の勝負なのよ、あんたたち……」

JINKI 37 ライフイズビューティフル

 銃の握り方を知ったのは、五歳の頃だった。

 他のおもちゃと同じように、まさかこれで人が死ぬなんて思いも寄らない。だが、父親はそれを与え、そして誇らしく笑ったのを、記憶の断片で覚えている。

 実際に撃ってみると、反動で肩を壊した。三週間くらいは、右肩が上がらなかったのを周囲に笑われた。

 しかし、と私は思ったものだ。