「なぁーんか、それないと赤緒ってば、パチモンくさいよねー」
ゲラゲラと笑うエルニィに赤緒はむっとする。
「ぱ、パチモンとは何ですか……。でも、取った覚えもないのに、どこに……」
「たまには別の髪留めを付けたら? あれって……別に何かの役に立っているわけじゃないでしょ」
「……まぁ、確かに髪を留めるのに必要不可欠ってわけじゃないですけれど……。でも、私はあれがいいんです……」
「何で?」
「何でって……何ででしょう?」
小首を傾げた赤緒にエルニィは手を引く。
「だったらさ! たまには感じ変えようよ! みんなー、赤緒が髪留めなくしちゃったから、今日は赤緒で遊ぼっか!」
「あ、遊ぶって言いました?」
じとっと睨むとエルニィは口笛を吹かす。南が覗き込んで、あらホント、と赤緒のこめかみをさする。
「どこにやったのか、覚えていないの?」
「なくなるとは思えないんですけれど……。でも私のことだからどこかに置いたままにしているかもしれません……」
「色々試そうよ! せっかく髪留めのない赤緒って貴重なんだから」
エルニィはお手製のおもちゃ箱をひっくり返し、色々な装飾品を探る。当惑する赤緒は、南へと助け船を頼っていた。
「……あの、南さん? 私、別に他のを試す気はないんですけれど……」
「まぁ、でもいいんじゃないの? イメージとかちょっと変えてみると気分も変わるかもしれないし」
「……でもあの髪留めは大事なものなんです。早く見つけ出したいですし……」
急く赤緒に対してエルニィが、これ! と差し出してきたのは黒いカチューシャであった。
「まずはオーソドックスなカチューシャね! 赤緒にピッタリじゃない?」
「あんた……勝手ねぇ。赤緒さん、困っているじゃない」
「えー! じゃあ南は赤緒を着せ替えできるチャンスはなしね」
「お待ちなさい。……誰もやらないとは言ってないでしょ」
どうやら二人ともに目を付けられてしまったらしい。後ずさろうとする赤緒の手を引っ掴んでエルニィはカチューシャを留めていた。
赤緒は落ち着かない様子でカチューシャをさする。
「ど、どうですか……?」
「うーん、なぁーんか、足りない気が……」
「メガネでもつけとく?」
「伊達メガネならあるよ?」
カチューシャにメガネをつけた赤緒は慣れない異物によろめく。
「……何だか、いつもの感じじゃないです……」
「カチューシャでメガネと来れば、はい、文庫本」
文庫本を差し出され、赤緒はそれなりに体裁を整えようとするが、やはりと言うべきか、自分には合わない格好に頭を振っていた。
「……あの、やっぱりこれ、あんまり……」
「うーん、インテリっぽい感じってやっぱ赤緒には合わないよねぇ」
「まぁ、そうね。もっとうまく、こう……調和のあるアイテムってないのかしら?」
「まだまだあるよ!」
エルニィがおもちゃ箱を探り始める。赤緒はカチューシャとメガネを取って嘆息をついていた。
その時、隣に座っていたメルJと目線が合う。
「赤緒。どうした、何だか……変だぞ」
明言し難い違和感であったのだろう。赤緒は自分のこめかみをちょんと指差す。
「いつもの髪留めがなくって……。ヴァネットさん、知りませんか?」
「いや、知らんが……。しかしいつものワンポイントがないだけで何かこう……名状しがたいものがあるな」
別人のように見えるとでも言いたいのだろうか。赤緒はどこか空白めいた髪留めの在り処を探っていると、エルニィからひょいと差し出される。
それはネコ耳であった。
「あのぉー、立花さん? ふざけてますよね?」
「何言ってのさ、赤緒! ふざけてなんていないよ、大真面目!」
自信満々に言われてしまうので赤緒は流されてネコ耳を付けてしまう。そこで盛大にぷっと南とエルニィが吹き出したものだから赤緒は立ち上がって抗議していた。
「やっぱりふざけているじゃないですか!」
「いや、ゴメン、赤緒……。でも、ネコ耳も似合わないなぁ……」
「赤緒さんって猫っぽくないからじゃない?」
「あー、分かるかも。どっちかって言うと猫なら……ルイかな?」
「勝手なことを言わないで、自称天才」
いつの間にやらエルニィの背後に立っていたルイに、全員が驚愕してわっと声を上げる。
赤緒はルイへと手助けを求めていた。
「ルイさん……私の髪留め、見ませんでした?」
「見てないわ、そんなもの。自分で管理もできないの?」
手厳しい言葉に赤緒はしゅんとする。そんな自分を差し置いてエルニィはネコ耳をルイへと差し出していた。
「付けてみる?」
「馬鹿なのね、あんたたち。私がそんなものを付けるわけがない」
「でも……ちょっとくらい可愛げがあったほうが……両兵の興味も引くかもよ?」
「そ、そうよ、ルイ。たまにはあんたもチャレンジなさいな」
二人分の意見に押されてルイは渋々ネコ耳を装着する。
「……どう見える?」
「いや、まぁ可愛いんだけれど……にゃーんって言ってみて」
「嫌よ。馬鹿じゃないの」
そう言いつつルイはネコ耳を外さずにぷいっと視線を背けていた。
何だかそれ自体が猫の気紛れさのようですらある。
「しっかし、どうするかなー。あ、まだあるよ。今度はこれ!」
差し出されたのはウサギの耳であった。さすがに悪ふざけが過ぎると、赤緒はエルニィを怪訝そうに見据える。
「……立花さん? 遊んでますよね?」
「何言ってんのさ! ボクはこれでも大真面目!」
「……本当に? もうちょっとまともなのを用意してくださいよ。さすがにこれは……」
どう見てもふざけているようにしか映らないだろう。だが、エルニィはメルJへと言葉を振っていた。
「じゃあメルJ、付けてみてよ」
「……貴様、どうやら死にたいらしいな」
凄味を利かせたメルJにエルニィは肩を竦める。
「分かってないなぁ。普段のギャップがあればあるほどに、好印象を持たれるって言うのが。案外、ウサ耳一つで印象が変わるんなら安いものかもよ?」
そんな言葉繰りにメルJがかかるものか、と呆れていたが、彼女は周囲の目線を気にしつつもウサギ耳を手に取っていた。
「……こんなもので好印象になるわけがない」
「分かんないよー? ホラ、ねー、南」
「そうね……メルJ、あんたいっつも張り詰めているから、ちょっとくらい肩の力を抜いたら? ウサ耳はその証ってことで」
どう聞いても二人して詭弁を振りまいて籠絡しているようであったが、メルJは何と、ウサギ耳を装着していた。
エルニィと南が揃って視線を背け、小声で言いやる。
「……ヤバいよ、あれ……笑っちゃいそう……」
「駄目よ! エルニィ。笑ったらせっかくの面白構図が台無し! ……あんた、音のしないカメラ持っていたわよね?」