天気予報を眺めていたナナ子に対して、小夜は別室で明日の服装選びに躍起になっていた。
「これでもない……あれでもないー……ああっ、もう! 時間がいくらあったって足りないってば!」
「……小夜ー? もう、煩悩の一つも隠せやしないんだから。そんなに悩まなくったって、いつも通りの服装でいいじゃない。作木君だって邪険にするものでもないでしょ」
「で、でも、ナナ子ぉ……。あんたは……まぁいつも通りのカッコでしょうけれど、せっかくの春よ! 春! だって言うのに、服装も適当じゃ……愛想尽かされるかもじゃないの」
「ないない。カリクムだってそう思うでしょ?」
カリクムはテーブルの上でせんべいを頬張っていた。
「まぁなぁ。正直、小夜が何だってそこまで春にこだわっているのかも謎だし、第一、花見? とか言うのだって意味不明なんだよ。何で桜に関して日本人ってそんなにうるさいもんなのよ」
「……カリクム。そこは日本人の心なんだからさ。分かってあげてよ」
「分かんないんだよ、それも。毎年、どうせこの辺りってあったかいのと寒いのが同時に来て、何だかそわそわするような……」
「カリクム。それが春なのよ。春っ! それは出会いの季節……! そして恋の季節でもあるのよー!」
ナナ子の芝居がかった言葉の数々に、小夜は大仰なため息をついていた。
「何よ! 大きなため息をこぼして!」
「……いや、あんたとあの鳥頭は年中似たようなもんでしょうが。春ねぇ……出会いの季節って言うけれど、私は作木君一筋だし?」
「かと言って小夜ー、そろそろ何もないのも浮かばれないんじゃないの? ここは一つ、猛烈アタックよ!」
「も、猛烈アタック……? でも、作木君、あんまりガンガン行くのは引いちゃうかもだし……」
「何よ、小夜らしくない。何かあったの?」
カリクムは肩を竦める。
小夜はぶつくさと呟いていた。
「……春先って、ついこの間までほとんど冬みたいなものだったから……ちょっとサイズが合わなくなってくるのよねぇ……」
「あー、要は太ったって――」
「黙らっしゃい!」
小夜のラリアットがナナ子へと直撃する。
それを目の当たりにしてカリクムは震えていた。
「うわぁ……人間って厄介だな。頼むからハウルシフトの時には、そういうのナシにしてくれよ、小夜」
「誰が太ったって……?」
「言ってない! 言ってないってば! ……ったく、おーい、ナナ子ー。生きてるかー?」
カリクムが手を鳴らす中でナナ子は目を回している。
「うーん……星が回る……」
「駄目だこりゃ。でも、そんなの関係ないんじゃないか? 明日は雨だろ?」
「雨? 本当に雨なの? カリクム!」
「テレビで言ってるぞー? 明日は全国的に雨だって」
テレビ画面を指差したカリクムに小夜は絶望していた。
「……何てこと。じゃあせっかく選んだこの服やこの服も……?」
「だーから! 雨なんだったら意味ないだろー?」
「……いえ、まだ手はあるわ」
こちらへとぎろりと睨み返してきた小夜の勢いにカリクムは気圧される。
「うぉっ……! 何だ、小夜……何をするつもり……」
カリクムが逃げ回ろうとする前に、小夜はむんずとカリクムを掴んでその額へとヘッドバットをかましていた。
直後、光が拡散し、カリクムがテーブルの上に倒れ込む。
――……痛ったたた……って、小夜! ハウルシフトしてるじゃんか!
「(ふっふっふー、この状態になったら身体の主導権はこっちのもんだかんねー。さぁ、カリクム! 行くわよ!)」
――いや、待った、小夜……行くってどこにだよ。
「(決まっているでしょ! 雷雲があろうがなかろうが、私たちならばそれくらいは消し飛ばせばいいって話! 雨雲を吹っ飛ばして青空にしてみせる!)」
――いつになく無茶苦茶言っているぞ! 小夜ぉー!
そのまま黄金の光を引きつつ、小夜は部屋から飛び出すなり、ツインキャンサーを身に纏っていた。
刃を両手に握り締め、曇天を見据える。
「(あれが雨雲ね……。よぉーし、カリクム! 一気に行くわよ!)」
――……って言ってもなぁ。第一、私たちの武器じゃ相性悪くないか? こっちも雷だぞ?
「(何の、相手よりも強い雷で暗雲を引き裂く! キャンサー、武器はこっちに任せて! このまま、ハウルゴーランドで……!)」
そこまで構えた瞬間、吹き込んできたのは豪雨と稲光であった。
これまで感じたことのない密度の雨粒が身体にかかり、暴風に身が煽られる。
「(って……全然制御できないじゃないの! いつもより動きが鈍い……?)」
――……単純に、暴風域の中に突っ込んだんじゃそりゃーそうなるってば。小夜ー、もう帰ろうよー。別に日取りを変えればいいだけの話じゃんかー。
「(駄目よ! カリクム! ……春の乙女の恋心は、雨風なんかには絶対に……負けないんだからぁーっ!)」
刃が奔り、積乱雲の一角を吹き飛ばすが、やはり火力不足だ。
直後に吹き込んできた突風と雷雨に吹き飛ばされそうになってしまう。
「(こんの……オリハルコンの身体って厄介ねぇ……っ! このまま……中心地を狙うわよ! カリクム!)」
――って言ったって、どの辺りが中心なのかまるで分かんないんだけれど……。
「(そこはオリハルコンの眼……! 私とカリクムのハウルシフトなら、相手の弱点くらいは分かるはず……!)」
小夜は集中を極め、瞼を閉じて意識の網を掲げる。
激しい烈風が吹きすさぶ中で、次に眼を見開いた時、低気圧の中心地は光の情報となって脳裏に叩き込まれていた。
「(そこっ……!)」
刃を雲に沿わせ、気圧とは逆回転に自身を回転軸とする。
そのまま躍り上がった躯体へと、小夜は全開の攻撃を命じさせていた。
「(吹き飛べ……っ! 春の……ハウル、ゴーランド……ッ!)」