判定したのはエルニィであった。
「シールの場外負け! 一ラウンドは赤緒の勝利!」
「オレが……負けた?」
息を荒立たせる自分にシールは《テッチャン》の掌に視線を落とし、フッと微笑む。
「……ま、そういうこともあるだろうな。エルニィ、下手にしがみつくもんでもねぇし、オレは棄権だ」
「おっとー! じゃあここでシールが勝つほうに賭けていた人は没収ねー!」
「あの、ハラレィさん……」
「シールでいいっての。名前で呼べよ。オレも……自分の造ったの、愛してくれる操主が乗ってくれるって言うんなら、何つーのかな……メカニック冥利に尽きるって言うか……」
シールは頬を紅潮させる。
赤緒もその理由くらいは分かるつもりであった。
「はいっ! ……その、これからもメカニック、よろしくお願いします!」
「デケェ声で言うんじゃねぇよ、恥ずかしい奴だな」
「はい、私、恥ずかしい奴ですので……その……シールさんのお仕事、すごいと思いますっ!」
「だから、恥ずかしいっての……。本当にお前はその、何つーのか……」
後頭部を掻いて視線を逸らすシールに、赤緒は微笑みかけていた。
きっとこれだけ自分の造ったものを愛せる人なのだ。
自分たちの人機も万全にしてくれるに違いない。
「んじゃこのトーナメント……赤緒が優勝? 何か、しまらないなー。ボクが参戦しちゃおうかな」
「やめとけって、大人げねぇぞ、エルニィ」
「むー……ボクだって本当は審判じゃなくって、選手やりたかったのにー!」
むくれるエルニィにシールと赤緒は視線を交わし合い、ウインクしていた。
今だけはきっと、誰よりも分かり合えているのだと信じられる。
「あ! じゃあ私もたまには身体動かそうかなー。赤緒さん、スパーリング頼める?」
先ほどまで煎餅を頬張っていた南が挙手するのでエルニィが怪訝そうにする。
「……南? 言っておくけれど、これ、人機同士の模擬戦闘で……本当に動けるの? 最近、また太ったんでしょ?」
「失礼ねー、あんたも。まぁ、ちょっとした運動よ。赤緒さん、軽ーく、運動しましょう。何だかみんなが楽しそうに《テッチャン》を動かしているのを見たら、ガラにもなく久しぶりにやりたくなっちゃった」
「……はいっ! ではよろしくお願いします、南さん」
「……頑張れよ、赤緒」
ぼそっと言ってからシールに肩を叩かれる。
今はそういう距離感でもいい。
そう思えるのが、何よりも――。
「じゃあ、行くわねー。あ、本当にマニュアルなんだ、この機体。懐かしいー」
「じゃあ行きますねっ!」
「あいよー。エルニィ、審判よろしくー」
「……もうっ、南が勝てるわけ……はい、スタート――」
言い切る前に、南の《テッチャン》がこれまで見たことのない駆動速度で肉薄し、赤緒の機体を張り倒していた。
「……あれ?」
全員が呆気に取られていただろう。
動かした南自身も戸惑っている。
「あれ? 力加減、間違えちゃった?」
「……いや、そもそも……あ、でもこれ、テンカウント経ってるから……赤緒の負け、だね……」
呆然とするアンヘルメンバーに赤緒は倒れたまま現状を認識する。
「えっ、負けちゃった……?」
「えっと、じゃあ……トーナメント優勝者は南ー……。釈然としないなぁ……」
「えーっと……ごめんなさいね、赤緒さん。マニュアル操作だと私もそのぉー……昔のあれとかこれとかが色々蘇っちゃって……!」
頬を掻いて倒れたこちらを引き起こした南に、赤緒は当惑していた。
「い、いえ……っ、南さん……もしかしてすごい人……?」
「そんなことないってば。もう操主としては引退なんだし」
謙遜する南相手に、口をあんぐりと開けたまま放心するシールへと、月子が語りかける。
「ま、まぁ! 当初の目的は果たせたし! ファイトだよ、シールちゃん!」
「……な、納得いかねー……」
とは言え、少しばかりシールとの仲が縮まったことだけは、今はありがたいと思おうと、赤緒は微笑むのであった。