さつきもルイも、シールたちでさえ、この場所では対等だ。
駄菓子屋の前で催されるちょっとした大会――そんな小さな輪を囲み、それでよしとする。
しかしそれは、ある意味では替え難い幸福の時なのかも知れなかった。
「あーっ! エルニィが勝ったかぁ」
子供たちの声にエルニィがガッツポーズを取る。
「よっし! 最大の関門だと思っていたシールに勝てた!」
「くっそー……何が駄目だったんだ? エルニィ、イカサマしてねぇだろうな?」
「してないってば。第一、この大会じゃイカサマしたって、っと。次は赤緒だっけ? ボクに勝てると思ってる?」
「……いえ、まるで勝てないと、そうは思います」
「でしょー? これだから赤緒は」
「でも……気持ちの面じゃ、負けたくありませんから……!」
その段になってベーゴマをしっかりと構えた自分に、エルニィはにやりと笑っていた。
「……いいね、いい顔になって来た」
「立花さん。……遊んでばっかりだとか、言っちゃいましたけれど……。まぁ半分はそうなのかもしれないし、別に撤回する気もありません」
「だから? 赤緒は頭を下げてくれるわけでもないでしょ」
「……はい。だからこそ――ここで一生懸命、戦いますっ!」
それがエルニィに対して最大限、敬意を払うということなのだろう。
ベーゴマを構えたエルニィは水切り石を投擲する時のようなフォームで相対する。
「……なるほどね。じゃあ赤緒、ボクも手加減しないって言うのが、一番かな」
「……行きますっ!」
「へいへい、見合って見合って。いざ尋常に――」
「「勝負!」」
互いの声が弾け、ベーゴマがステージを疾走する。
エルニィの攻め手は当然のように強気だ。
耐久戦など望んでいないのだろう。
真っ直ぐにこちらのベーゴマに向かってくる姿勢は、そのままエルニィの勝負に向かうスタンスを浮き彫りにさせる。
だがそれは――自分とて同じ。
赤緒はこの数時間でベーゴマのコツを掴みつつあった。
強い回転軸にはそのまま強い回転だけで対応するのが何も戦略ではない。
赤緒の回転軸はエルニィとは正反対の軸を取っている。
弾かれ合いは最低限に抑えられ、相殺された勢いは互いの持久力を下げる。
「……なるほどね。何度もぶつかり合うんじゃなくって、一回だけでもいいから、相手の勢いを弱めるって戦術か」
エルニィの強気のベーゴマは僅かに背が高い。
背の低い自分のベーゴマは安定型だ。
だが勝負は時の運と、そして実力が物を言う。
最後に笑うのは――いつだって真剣勝負に打ち込んだ側だろう。
「勝ちますっ!」
「来い! 負ける気はないよ!」
互いのベーゴマの回転が中腹に至り、そして円弧を描いて衝突する。
果たして、勝負を制したのは――。
「――立花さん。今日もだらだらして……暇なら神社の掃除、手伝ってくださいよ」
「えーっ、それは赤緒の仕事じゃん。ボクは……このメンコを改造するのに忙しい――」
「暇ですよね? それ」
ぐっと顔を近づけて言いやると、エルニィも折れた様子だ。
「ちぇーっ、せっかくベーゴマ大会で優勝してもこき使われるんじゃ同じじゃんかー。苦労して優勝して、駄菓子屋の千円相当の券貰ったのにー」
「こき使ってません。暇なら手伝ってくださいよ」
「いいけれど……じゃあ今度も付き合ってくれる? 実は週末にメンコ大会が……」
赤緒は嘆息をつきつつ、戸棚の上に飾られた写真の、ベーゴマ大会で優勝したエルニィが大輪の笑顔を咲かせているのを目に留める。
この笑顔だって当たり前ではない。
しかし、今は彼女の少しばかりの我儘も、それはきっと、明日の笑顔のためにあるのならば。
「……もうっ。でも今度は勝ちますからね。実は私も、この間強いメンコを買い揃えたんですよ」
「あーっ! いいなぁー! ……交換してくれる?」
「しませんっ。自分で当ててください」
「ちぇーっ、ケチー」
エルニィは箒を片手に唇を尖らせて笑う。
こうして笑い合えるだけの、変わらない明日があれば、きっとまっさらな笑顔のままで居られるはずなのだから――。