JINKI 222 譲れない理由ひとつ

「……安心してください。終わらせません。いいえ、こんなところで――キョムに奪わせない。そのために私たちは……! そうでしょう、トーキョーアンヘル!」

『――はいっ!』

 吹き込んだビルの風圧を切り返したのはフライトユニットを装備した《モリビト2号》であった。

 その威風堂々とした立ち振る舞いと共に、《バーゴイルミラージュ》が後続する。

『南さん! 立花さんも!』

《ナナツーライト》と《ナナツーマイルド》が都市戦に入る前に、自分たちを保護していた。

 さつきが最後尾につき、ルイの《ナナツーマイルド》のメッサーシュレイヴが辻風を呼び起こす。

『まったく、ロクなことにならないって分かっていてでしょう? 自称天才に南も』

「分かっていたって、呑まなきゃいけない毒もあるのよ、世の中にはね」

『……分かんないこと言うんだから』

 メルJの《バーゴイルミラージュ》が瞬発火力を《バーゴイル》部隊へと見舞っていた。

『アルベリッヒレイン!』

 面火力を生み出された弾薬が防御に入った《バーゴイル》の有する盾の上で浮遊する。

「いけない! メルJ、相手はリバウンドシールド持ちだ!」

『それくらい……想定している!』

 反射された火線を潜り抜け、メルJの《バーゴイルミラージュ》が格闘兵装を突き上げる。

『逃がしはしない、銀翼の――アンシーリー、コートッ!』

 黄昏色のエネルギーフィールドを身に纏い、舞い降りた銀翼が爆ぜる。

 盾を粉砕し、直後にはゼロ距離での重火力が《バーゴイル》の装甲を粉砕していた。

 地上を疾走する《ナナツーマイルド》は制御を奪われた《アサルト・ハシャ》の合間を縫うようにして駆け抜け、メッサーシュレイヴの剣先を奔らせる。

『遅いの』

 装備が断ち割られ、瞬間的に《アサルト・ハシャ》は丸裸になる。

『やらせはしません……! Rフィールド……プレッシャー!』

《ホワイト=ロンド》の指揮する《アサルト・ハシャ》の弾頭を《ナナツーライト》はRフィールドで弾き返し、そのまま指先で手繰って地面へと落下させる。

《ホワイト=ロンド》がブレードを携えた直後には、その背面にルイの《ナナツーマイルド》が佇んでいた。

『……南の前で、その機体を穢すんじゃないわよ』

 二の太刀が閃き、《ホワイト=ロンド》の両腕を落とす。

《モリビト2号》は有り余るその膂力で護衛についている《バーゴイル》を叩きのめしていた。

 相手の武装が狙い澄ます前に、機体を仰け反らせ赤緒は声を弾かせる。

『ファントム……!』

 超加速で掻き消えた《モリビト2号》がブレードを翳し、護衛機の《バーゴイル》の四肢を切り払っていた。

『さて……残りはあのジャミング用の機体だけか。黄坂ァッ!』

「な、何よ、両。広域通信で……」

『……いんや。ちぃとばかし、くれてやってもいいんじゃねぇの。てめぇの苦労はオレらだってよく分かってるさ』

 その言葉に後押しされるものがあったのは――事実。

 南は責任者への直通通信に声を吹き込む。

「……キョムからの技術支援、それに要塞都市を落としたと言う責任。どれを取っても解任、いいえ、それで済めばまだいいはずですよね」

『わ、わたしは……そ、そちらの落ち度だ! トーキョーアンヘルがキョムを呼び込んで……!』

 南は深く呼吸し、通信機へと叫びを上げていた。

「あまり――嘗めてるんじゃないわよ――ッ! 私たちがどんなふうに戦っているのか、分かれなんて言わないけれどね……せめて、邪魔すんじゃないわよ、このすっとこどっこい――ッ!」

 ビルの合間を風が吹き抜ける。

《モリビト2号》がブレードを肩に担ぎ、それから両兵の声を繋いでいた。

『……言えるんじゃねぇか。まだオレの知っている黄坂南なんだって、信じていいのかねぇ』

「……ええ。ありがとう、両。それに、赤緒さんたちも。もう遠慮は要らないわ。目一杯――やっちゃいなさい……っ!」

 ハッキング用の《バーゴイル》がミサイルを発射する。

 その軌道を読み切って、《モリビト2号》が空域を駆け抜けていた。

 大上段に掲げたブレードの軌跡が、《バーゴイル》を両断する。

 その瞬間、風向きが変わったのが窺える。

 要塞都市を支配していた魔の風が、一瞬にして爽やかな誇り高い風へと。

《アサルト・ハシャ》が次々とシステムをダウンさせ、その場に縫い付けられていく。

《バーゴイル》を撃墜した《モリビト2号》はこちらへと一瞥を振り向けていた。

 その眼差しへと、南はサムズアップを寄越す。

 ――そうだ、まだ変わっていない。

「だって、私たちのやれることは、何も変わっちゃいないはずなんだからね!」

「――にしたって、あーあ。やらかしちゃったねぇ……某国要塞都市の再建計画に関して言えば、南米の連中も噛んでいたって言うのかな」

 軒先で筐体を組み上げつつ、ぼやいたエルニィに南は頬杖をつく。

「……まぁ、どうせ一枚岩じゃないのは分かり切っていたけれどね。どっちにしたって、あそこで要塞都市の計画を一時凍結させるのも考えのうちだったんでしょう」

「体よく利用された気がするなぁ。……大丈夫? 南」

「何がよ。あんたこそ、こういうのは嫌がっているんじゃないの?」

「ボクはいいけれどさ。南は……トラウマ掘り返されていい気分ってわけじゃないでしょ」

 何だかこちらを慮るエルニィに、南はその頭を撫でる。

「安心なさい。どうやら私も……大人しく老兵として後ろに行くばかりじゃ、ないっていうのが分かったからね」

 あの時、両兵が声をかけてくれたから、少しは自分もマシな身分であることが分かった。

 今はきっと、それだけでいい。

「無理してるなぁ、もう。けれど、さ。ボクらが必要ならいつでも言ってよ。だって、トーキョーアンヘルは何も南だけの責任じゃないでしょ?」

「……そう、ね。もっと頼っても、いいのかもね」

「お茶が入りましたよー。あれ? 南さん。報告書の作成はもういいんですか?」

 尋ねた赤緒に、南は報告書を作る途中で投げたのを思い返す。

「……まぁ、たまにはいいんでしょう。お茶にしましょう、赤緒さん。私、この間の一件でいいお茶請けを買っておいたのよ」

 そう言って台所に向かうと、エルニィと赤緒は視線を交わし合って微笑む。

 今だけは――全てを忘れて彼女らの一員として、ゆっくりとお茶会としゃれ込もうではないか。

 それだけが、アンヘルの責任者としてではない、黄坂南としての、譲れない理由であるのだから。

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