「……オレ、この曇り空の向こうってのが、ちょっと想像できないんだよな……」
「何だよ、いつになく弱気だな。たとえ雨だろうがよ、空ってのは繋がってンだ。なら、信じりゃ届くだろ。そんなもん、メカニックやってんだ。オレよかよっぽど頭も回るだろうが」
何だかここまで突っかかってきた割には、どこかで知った風な口を利くのが両兵で、シールは窓に反射する両兵の不機嫌そうな顔を覗き見る。
別段、今の言葉だって気取ったわけでもなければ、こちらを救おうとして放った言葉でもないのだろう。
しかし、それが今の自分にとっては、一番の――。
「……訂正だ、訂正。女の敵ってのは言い過ぎた」
「……何だよ、気味悪ぃな……。けれどまぁ、こっちも跳ねっ返りは……言い過ぎちまったな」
「そっちこそ前言撤回なんてするなんざ……今日は雨でも降る――ああ、でも、降っているか」
南米の空までこの曇り空なわけでもあるまい。
ならば――この想いも届ければ、とシールは窓を開けて叫んでいた。
精一杯の声で、がなり声でもいいから、カナイマの空に。
想い人の――下へ。
「何だ何だ……急に叫びやがって……ったく」
「両、あんたには女子の機微は分からないのよねー、やっぱり」
「……オレ、何かしたのか?」
胸が空いた気分で、シールは両兵へと向き直る。
「……何でもっ! ただ、ちょっとナーバスになっていたってだけだよ。オレらしくなかったな」
そう、いつだって、自分らしく生きていきたいだけだ。
時々、空を見上げて。
たまに大きく――深呼吸して。
雨であろうとも、想いは消えるものか。
想いだけは、遠ざかる雨雲でも消えることはない。
開けた窓から、つんと漂ってきたのは爽やかな風のにおいであった。
コンクリートの鼠色の街を超えて、柊神社の色彩へと。
ようやく停車した車を降りて、シールは買っておいた新しい服を今一度、確かめる。
この服に袖を通す時が、いずれ来ると願って。
「シールちゃん。これからの季節だね。だって、夏服なんだもん」
月子の言葉にシールは首肯して、それから光の差した空へと手を伸ばしていた。
暗雲漂う、湿っぽい季節にはさよなら。
さぁ――もうすぐ夏がやってくる。