JINKI 227 声、雨空を抜けて

「……オレ、この曇り空の向こうってのが、ちょっと想像できないんだよな……」

「何だよ、いつになく弱気だな。たとえ雨だろうがよ、空ってのは繋がってンだ。なら、信じりゃ届くだろ。そんなもん、メカニックやってんだ。オレよかよっぽど頭も回るだろうが」

 何だかここまで突っかかってきた割には、どこかで知った風な口を利くのが両兵で、シールは窓に反射する両兵の不機嫌そうな顔を覗き見る。

 別段、今の言葉だって気取ったわけでもなければ、こちらを救おうとして放った言葉でもないのだろう。

 しかし、それが今の自分にとっては、一番の――。

「……訂正だ、訂正。女の敵ってのは言い過ぎた」

「……何だよ、気味悪ぃな……。けれどまぁ、こっちも跳ねっ返りは……言い過ぎちまったな」

「そっちこそ前言撤回なんてするなんざ……今日は雨でも降る――ああ、でも、降っているか」

 南米の空までこの曇り空なわけでもあるまい。

 ならば――この想いも届ければ、とシールは窓を開けて叫んでいた。

 精一杯の声で、がなり声でもいいから、カナイマの空に。

 想い人の――下へ。

「何だ何だ……急に叫びやがって……ったく」

「両、あんたには女子の機微は分からないのよねー、やっぱり」

「……オレ、何かしたのか?」

 胸が空いた気分で、シールは両兵へと向き直る。

「……何でもっ! ただ、ちょっとナーバスになっていたってだけだよ。オレらしくなかったな」

 そう、いつだって、自分らしく生きていきたいだけだ。

 時々、空を見上げて。

 たまに大きく――深呼吸して。

 雨であろうとも、想いは消えるものか。

 想いだけは、遠ざかる雨雲でも消えることはない。

 開けた窓から、つんと漂ってきたのは爽やかな風のにおいであった。

 コンクリートの鼠色の街を超えて、柊神社の色彩へと。

 ようやく停車した車を降りて、シールは買っておいた新しい服を今一度、確かめる。

 この服に袖を通す時が、いずれ来ると願って。

「シールちゃん。これからの季節だね。だって、夏服なんだもん」

 月子の言葉にシールは首肯して、それから光の差した空へと手を伸ばしていた。

 暗雲漂う、湿っぽい季節にはさよなら。

 さぁ――もうすぐ夏がやってくる。

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