スーパーで焼き栗を買ってもらったのだろう。
レイカルは袋に入ったそれをはふはふと頬張っている。
そう言えば、自分も昔は秋頃になればそれらしい行事に一喜一憂したか、と思い返す。
「……すいません。何だか自分のことで精いっぱいになっちゃって……」
「……別に、いいのよ。それは作木君のいいところでもあるし。……ただね、秋だからって無茶はしないこと。夏の疲れだって残ってるんだから」
指摘されて、作木は申し訳なさそうに首を縮こまらせていた。
「……はい。あ、でも……今しかできないこともたくさんありますから……」
「それも、分かってるつもり。でも、近くに居る人を心配させてまですることじゃないでしょう?」
「……肝に銘じておきます」
「さぁ! ナナ子キッチンの開幕よ! 今日は水炊きと、それに特売で買ってきた栗を使った炊き込みご飯と行こうかしら! 腕が鳴るわ!」
ナナ子は早速、キッチンで材料を切り揃え始めたので、何か手伝えないかと作木は冷蔵庫を開けると、ほとんど空っぽだった。
「……すいません、何か気の利いたもてなしもできないで……」
「いいのよ、お邪魔してるのはこっちだし。……ただ、秋は気候も崩れやすいから、体調管理は万全にすること! いいわね?」
「……はい」
「……とは言え、作木君。ちょっと教えて欲しいことがあって……」
小夜はどうしてなのだかスケッチブックを携えている。
理由もまるで分からないでいると、彼女は色鉛筆を手にして自分へと身を寄せる。
「……芸術の秋……って言うの? 分かんないんだけれど、作木君、こういうの得意でしょ? 教えて欲しいのよ、スケッチのいろはって言うのが全然分かんなくって……」
「えっ、課題でも出てたんですか?」
「課題とかじゃなくって……秋は何かと色々始めるのに適した季節でしょ? こういうの……似合わないかもだけれど……」
頬を紅潮させた小夜に、作木は自分にできることがあるのなら、とペンを握っていた。
「……いいですよ。じゃあまずは基本からやりましょうか。ちょうど、ナナ子さんを中心にしてレイカルたちが居ますんで、放射線状をイメージして……」
「ほ、放射線状……ね。分かったわ、やってみる……」
いつになく真剣な面持ちに、小夜も新しいことに挑戦しているのだと言う感覚が先につく。
「……小夜さん、スケッチとかやってましたっけ?」
「……図工は1だって言うのは作木君も知ってるでしょ? けれど……このまま何も始めなければ、ずっと嫌な思い出を引きずるままだもの。なら、せめていい思い出にしたいじゃない? 自分の中で、少しでも……」
彼女なりの足掻きなのかもしれない。
作木は基本的には見守るスタンスで、小夜のスケッチへと指示を与える。
「あ、そこのところは、もうちょっと丁寧に、筆圧は強めで描いたほうがいいかもしれません」
「ひ、筆圧強め、ね……分かったわ」
おぼつかなくとも、そうだ――今は秋なのだと思い至る。
ならば、秋には秋の標として。
一つずつでも自分にとって新しい季節にしたほうがいいに決まっている。
作木は夏ごろには新緑の葉をつけていた窓際の樹木が、過ぎゆく季節に少しずつ赤くなっているのを視野に入れていた。
「……ぼうっとしている間に、秋は過ぎちゃうから……少しでも、今日を大事に……そうしたいな……」
「ちょっと、作木君。ちゃんと見てよ。……私、こっち方面じゃ全然自信ないんだから……」
何だかいつになく頼られているようで悪い気はしない。
距離は近いが、今日は小夜のサポートができるのならそれが自分の役割だ。
「……はい。小夜さんにとっての今年は芸術の秋、ですか」
「そこまで大層なつもりはないけれど……まぁ、これまでやってこなかったことをってのは、誰しもに言えることよね」
「創主様! もうすぐ晩御飯ができそうです!」
レイカルがキッチンで声にしたのを、作木は満たされた気分で聞いていた。
秋の涼しい風が吹き込む。
木枯らし一つ、今は肺の中に取り込んで、作木は喧噪を目にしていた。
「……ああ、だって、短い季節なんだ。なら……少しでも、前に、か……。そのほうがいいに決まってる」
今夜は温かな食卓を囲んで、騒がしくともそれを享受しよう。
だって――秋は短くも儚い、前進の季節なのだから。