JINKI 253 アルマジロのきもち

「少し、な……参ってしまっている」

 メルJが弱音を口にするのは単純に珍しいが、そもそも何が原因か、と探る目線を寄越していた。

 その手に握られていたのは――荒縄である。

「……えっと……それって確か次郎さんを散歩させるための……」

「ああ、あのアルマジロの散歩用の荒縄だ。……やはり、軽々しく引き受けるべきではなかったか……!」

 何故なのだか猛烈に後悔するメルJに、赤緒はそっと隣へと座り込んでいた。

「あのー……話なら聞きますが……」

「むっ……まぁ、そうだな。話の仔細をここで聞いてもらえれば、この状況の説明にもなるだろう。あのアルマジロ……この柊神社で飼うようになってから……の話だが……」

「――あっ、ヴァネットさん。モデルのお仕事の帰りですか?」

 帰り道で遭遇したさつきに抱えられているのは、南米から運ばれてきたと言う――。

「ああ。……そいつは」

「はい、アルマジロの歩間次郎さんです。今日は私がお散歩に連れて行っていいとのことでしたので」

 ジロウと呼ばれたアルマジロの手を振らせて、さつきは会釈する。

「……ふむ、アルマジロか。あまり見たことはなかったが」

「そうですね。私も次郎さんが初めてのアルマジロなので」

 普通は人生においてアルマジロと出くわすことなど滅多にないはずだが、柊神社で飼われるようになった次郎はアンヘルメンバーが交代で散歩に連れて行くようにしている。

 ほとんどはエルニィとルイによる分担であったが、今日はたまたまさつきの番だったらしい。

「それにしても……犬猫も飼ったことはないと言うのに、よく赤緒たちが許したものだな」

「ですね。犬や猫は駄目ですけれど、アルマジロなら……って感じでなし崩し的じゃないですけれど、許してもらえたみたいなのはよかったです」

「……恐らくは、赤緒たちも想定し切れていないのではないだろうかな」

 次郎の口元に手を差し出すと、ぺろりと舌を出して指先を舐める。

「わぁっ……! 次郎さん、偉いね! ヴァネットさん、よかったですね。次郎さん、警戒していないみたいで」

 さつきは次郎に頬ずりして、何度も頭を撫でている。

「……そうなのだろうか。私はこれまでの人生でペットを飼ったことはないからな。よく分からん。お前はあるのか?」

「私……ですか? いえ、そもそも旅館勤めだったので、ペットは固く禁止されていて……。だから、次郎さんがこうして柊神社で飼っていいってなったのは正直、ちょっと嬉しかったり……」

 さつきは純粋に次郎を可愛がっているらしい。

 少し過剰過ぎるほどのスキンシップをしてやりながら、笑顔を向けている。

「……生き物を飼うと言うのは責任が伴うと聞く。私には縁遠いものだったのかもな」

「そんなことないんじゃないですかね? だって、次郎さんが柊神社に来てくれたんですから。わわっ……! くすぐったいですよ、次郎さん」

 さつきの発言の意図が分かっているのかいないのか、次郎がさつきの頬を舐める。

 そう言えば、とメルJは思い返していた。

「生き物に好かれる性質の人間は居るものなんだろうな。……それも私には少し遠いだろうが」

「いえいえ。そうだ! ヴァネットさんも、よければ次郎さんの散歩を担当してみればどうですか? そうすればより、生き物を可愛がるコツが掴めるかも!」

「私が、こいつを散歩……」

 暫しの間、目線を合わせて凝視するも次郎の底知れない黒い瞳が何かを問い返してくるようで、メルJはその話を打ち切っていた。

「や……やめだ、やめ! そんなことは断じてないのだからな! 第一、私には合っているとは思えない……!」

「そう……ですかね。でも、次郎さんはヴァネットさんのこと、大好きだと思いますよ?」

「そんなことがあるか。生き物には……ついぞ好かれたことなんてないんだ」

「でも……ヴァネットさんはたまに野良猫さんに好かれようと、マタタビを持って行っていることもあるって……って、ハッ!」

 大慌てで口を噤んださつきであったが、メルJは誰にも打ち明けていない秘密を認識されていることに驚愕する。

「だ、誰からそれを聞いた……」

「い、いえいえ……誰にも……」

「嘘は、ためにならんぞ?」

 そこまで詰め寄るとさつきは隠し立てする意味を失ったらしく、肩を落とす。

「……その、赤緒さんが見たって……この間」

「赤緒め……」

「で、でも……! その時には子猫たちはヴァネットさんのところに集まっていたって聞きましたよ?」

「……マタタビやエサを使って近づかせていただけだ。猫にしてみても不本意だっただろう」

「いえ、でも……動物って思ったよりも繊細で……思ったよりも人間のことを見ているものだと思いますし……。ヴァネットさんが悪い人じゃないから、きっと懐いてくれたんですよ。それは間違いないと思います」

「……悪い人じゃない、か。立花から聞いているだろう? 私が世界を股にかける犯罪者だったことくらいは」

「ま、まぁ……。けれど! それこそ関係がないじゃないですか! どんな人であれ、動物はその人の本質を見てるんです!」

 真っ直ぐな瞳で言われてしまえば、メルJも否定材料を失う。

「……動物はその人間の本質を見る、か。どうだろうな。私なんて、どうせ一生、動物にはまともに懐かれんだろうさ」

「そんな事もないと思いますけれど……。現に次郎さん、ヴァネットさんのこと、気になっているみたいですけれど」

 前足を伸ばしてこちらへと純粋な眼差しを投げる次郎に、メルJは寸前のところで堪える。

 ――可愛いっ! だが……。

「そ、それは私らしくあるまい! そんなことで浮ついたりせんのが、メルJ・ヴァネットと言う私だ!」

 わざと大声で淡い期待を打ち切っていた。

 猫に餌付けしていたところを見られていたのも不甲斐なければ、ここで次郎相手に猫なで声を発すれば、威厳など地に落ちるだろう。

 断じて、「トーキョーアンヘルのメルJ・ヴァネット」の在り方ではあるまい。

「……そう、ですか。可愛いのになぁ……」

 しゅんとしたさつきには少し悪いことをしてしまった気分に陥るが、これも自分の譲れない性分のため。

 次郎もどこか所在なさげにしゅんとしたように映ったのは、どこか浮ついている証拠だろう。

「動物なんかが、私に懐くわけがないからな!」

「――あれ? 何さ、今日は随分と早く起きちゃって」

 エルニィが寝ぼけ眼を擦りながら、早朝の境内へとサンダルを突っかけて歩み出る。

「……お前こそどうした? いつもはもっと寝ているクチだろうに」

「今日は小動物の朝の散歩はボクの番。そりゃー、眠いよ……ふわぁ……っ」

 欠伸をかみ殺したエルニィは次郎の小屋へと近づいて、カルパスの封を開ける。

「ほぉーれ、小動物。朝のおやつだよー」

「……よくないんじゃないか? 赤緒は朝晩の餌以外はやるなと言っていたぞ」

「だってぇー、小動物はこうしないと、朝は全然出て来てくれないんだもん。ボクと同じで朝型じゃないんだよねぇー、小動物は」

 エルニィらしからぬ甘やかし方に、メルJは苦言を呈する。

「……お前のようなIQ300の天才でも、そんな風になるのか。動物を飼うと言うのは恐ろしいな」

「何言ってんのさ。そういうもんでしょ、生き物を飼うって。家族の一員なんだもんねぇー、小動物は」

「……家族……そいつもトーキョーアンヘルのメンバーだとでも?」

 小屋から顔を出した次郎がカルパスを前足で器用に掴んで口の中へと放り込む。

 むんずとその襟首を掴んだエルニィは胴体に荒縄を巻いていた。

「よしよし! じゃあ散歩に行こっか!」

「……何で荒縄なんだ? 普通に首輪でいいだろうに」

「犬猫用の首輪じゃ入らないんだよ。かと言って、何にも着けないで散歩はさせてくれないみたいでさ。朝の散歩はただでさえ嫌がるから、こうして荒縄を巻いているってわけ」

「……痛いんじゃないのか?」

「いやいや! 小動物はこれでもアルマジロなんだし、皮膚は固いよ。むしろ、柔らかい素材のほうが逆効果だろうし。まぁ、それに? 日本は何かと危ないだろうってことで、ルイの提案だからねー」

「……荒縄を巻いた生き物を散歩していると、奇異な目で見られるのではないか?」

「それが意外と、ね?」

 何か心得たようにウインクするエルニィに、メルJはむっとしていた。

 そうでなくとも、自分には懐かないと思った矢先の出来事。

 何かと気になることは間違いない。

「……私も同行していいだろうか」

「いいけれど……まさか、メルJも小動物の散歩に付き合うの?」

「……後学のためになるかもしれん。生き物を飼うと言うのならばな」

「メルJに犬猫なんて似合わなさそうだけれど……まぁ、いいや。いつもの散歩コースねー。レッツゴー!」

 エルニィが号令するや否や、次郎を引っ張るようにして駆け出す。

 想定外の動きにメルJは咄嗟に追従していた。

「ま、待て……、立花! さつきは抱えて散歩していたぞ……」

「あれー? そうだっけ? まぁ、人によって散歩の仕方なんてそれぞれじゃん? ボクはこれが合ってるんだよねー! ほら、小動物! もっともっと速度出しなよ!」

 ぷぎっ、と鳴いて次郎は柊神社の石段を駆け下り、そのまま鋭角的にカーブする。

 起き掛けとは思えないエルニィのスタミナは底なしで、メルJは何とか付いていくのが精一杯であった。

「ま、待て……。ちょっと待て……」

「あれ? メルJのほうが音を上げるなんて珍しいじゃんか」

「急に走るな……。それに、そもそもこんな珍獣を野に放っていいのか?」

「それが、意外に珍獣でもなかったりねー。あっ、おはよう! みんな!」

「……みんな?」

 息を整えて顔を上げると、近所に住む貴婦人たちが各々の犬を引き連れ公園で話し込んでいた。

「あら、エルニィちゃん。次郎ちゃんも元気ねぇ」

「いやぁー、それほどでも。そっちも元気だね」

 大型犬が次郎を睨んで唸っているが、エルニィは素知らぬ顔で話の輪に入っていた。

「……立花。いいのか、これ……」

「何が? こうして散歩サークルみたいなのがあるから大丈夫だって!」

「いや、そうではなく……。怖がっているんじゃないか? こいつ」

「怖がる? 小動物が? 本当に?」

 次郎は本人なりに威嚇しているつもりであろうが、大型犬の鼻息一つですぐにすごすごと退散する。

「……可哀想じゃないか?」

「いやいや、そんなことないってば。それよりも、この散歩サークルは面白くってねー。何かと情報交換もできるし」

 完全に話に入り込んでしまったエルニィにはそれも届かないようで、次郎が縮こまっているのをメルJは遠巻きに眺めることしかできない。

「……むぅ。だが、黄坂ルイならば……このようなことにはならないはず……」

「――今よ。三回転なさい」

 川べりで猫じゃらしを振ってルイが舞い踊っているのをメルJは偶然発見していた。

「何をやっているんだ?」

「メルJ……? 見て分からない? この子たちに芸を仕込んでいるのよ」

「芸って……」

 野良猫たちはめいめいにくるっと回転しては、失敗したり成功したりとまちまちであった。

「……よし、次は横になってお腹を見せなさい。早いもの順で撫でてあげる」

 猫たちが仰向けで完全にルイには従っているのを見るに、恐らくは一回や二回の仕込みではないのだろう。

「……なんて暇そうなことをしているんだ、お前は。こんなことに費やす時間があれば操主訓練をすればいいだろうに」

「あんたに言われたくはないわね、メルJ。私は今日もハイスコアを叩き出したわ。今にトウジャのトップは私が塗り替えるんだから」

 そう言えば、ルイは《ナナツーマイルド》の操主であるのと同時に、新型トウジャのテスト操主も引き受けているのだったか。

 その身分ともなれば、なるほど、自分の言ったことなど釈迦に説法か。

「……それはいいが、何で河川敷で猫たちを?」

「生き物が好きなのよ。あんたとは違ってね」

 そう告げるルイは純粋に猫たちを可愛がっているようであった。

 横腹を撫でると、猫たちはめいめいにルイに媚びた鳴き声を発する。

「……本当に生き物に好かれるんだな、お前は」

「まぁね。南米じゃ、生き物に嘗められたら終わりよ、終わり。そういう点じゃ、昔からそうだった感じはするわね」

 エルニィとは違い、ルイは心の底から猫に好かれているらしい。

 これならば次郎も幸福か、とそう思った矢先、ぷぎっ、と声が響く。

「……うん? この見知った豚のような声は……」

「ああ、そう言えばやらせていたんだったわね」

 橋げたの上で、次郎は荒縄を身体に巻かれ今に飛び降りる姿勢になっていた。

「あ、あれは……? 何をさせているんだ?」

「見て分からない? 芸を仕込んでいるのよ。今日はテレビで観たバンジージャンプって言うのをやらせようと思ってね。三回口笛を吹くから、その後に飛び込みなさい」

 ルイが矢継ぎ早に口笛を吹くので、さすがにメルJは駆け込んで次郎を抱きかかえていた。

 垂直落下手前だった次郎に対し、身を挺して守ったせいでコートはびしょ濡れである。

「な、何をさせているんだ、お前は!」

「見て分かるでしょうに。そいつは私の下僕なのよ。南米じゃ、これよりもよっぽどたくさん芸を仕込んだって言うのに、半分くらいは平和ボケして忘れちゃってるんだから、困ったものよね」

 次郎が泣きわめいてルイに縋るのを、容赦なく彼女は足蹴にする。

 差し出したのは特上品のカルパスで、それを目にした次郎が三回回ってきゃんと鳴いていた。

「よし、じゃあ今度も橋の上から……」

「馬鹿っ! やめさせろ!」

「……何よ。メルJ、あんた、私の下僕を掠め取ろうって言うの?」

「普通に虐待だろ、これは! ……と言うか、何でこのアルマジロはそんな無茶振りに従っているんだ……」

「歴が違うのよ、あんたたちとは。こいつは私の言うことなら何でもするわ」

 何を考えているのだか分からない目つきをしているのは相変わらずだったが、今だけはルイから助けてくれと言っているような気がしていた。

「……見ていられない。さつきも、立花も……お前も。よし、決めた! 私が散歩に連れて行く! お前ら三人は少し反省でもしていろ!」

「――ええっ! そんなこと言っちゃったんですか? ……どうするんです?」

「……分からん」

 朝の散歩を任されて、メルJは先刻から頭を抱えているようであった。

 赤緒は境内の掃除がてら出くわしたものの、メルJの論調に戸惑うばかりである。

「……その、私も犬や猫のことはよく分かんないんで……次郎さんのことも皆さんに任せてばかりなので、人のことは言えないって言うか……」

「……さつきはまだマシだろうが、それでも甘やかしが過ぎる! 立花はアルマジロのことなど知らずにお喋りばかり! ……黄坂ルイは論外だ! ……だからどうにかしないと、と思ってしまったのは、いけないことだったのだろうか……」

 今さらに後悔の念が押し寄せてきたようで、不安そうに縁側で頭を振るメルJに、赤緒は少しだけ意外であった。

「……けれど、ヴァネットさん、次郎さんのこと、ちゃんと見てあげていたんですね」

「見てやっていたと言うか、見ていられなかったと言うか……」

「嬉しいですっ! きっと次郎さんも、ヴァネットさんのこと、好きになってくれると思いますよ?」

「そう……だろうか? だってその……身勝手な人間のエゴを、押し付けているんじゃないかと……」

「もうっ、そんな難しく考えることはないですってば! 私、犬や猫は柊神社で飼うのは大変そうですし、反対の立場を取って来ましたけれど、次郎さんはなんて言うのかな……ちょっと違うって言うか」

「それはアルマジロだからだろう?」

「それも多分あるんですけれど、小河原さんが言っていました。次郎さんはたまにヒトの言うことを分かっているような節があるって」

「……ヒトの言うことを……」

「ですから、それなら大丈夫かなって。だって、人間の都合で振り回されたりしないなら、きっと動物ってのはのびのびと生きていけるはずなんです。……まぁ、犬や猫を飼っちゃ駄目ってのは、最初に私が垢司さんに言われたからなんですけれど」

 そのエピソードはそう言えば話していなかったか、と思っているとメルJも意想外そうに顔を上げる。

「……お前にもそんな頃があったのか?」

「意外……ですよね? ずっと反対反対って言ってきましたから。えーっと……まだ私がこの柊神社に来たばっかりの頃に、橋の下で捨てられていた猫をたくさん抱えて来たことがあって。その当時、私の身元を引き受けてくださった、柊垢司さんが、そういうのはよくないって言ってくれたんです。私は、このままじゃ可哀想って……そればっかりだったんですけれど……垢司さんは、それは責任のあることなのか? って、別に怒るでもなく懇々と言い聞かせる感じで」

 今でも思い出す。

 氷雨の降る十二月。

 橋の下で段ボールに詰められていた猫たちを、ただ可哀想だと思ったのは事実。

 それ以上に――その当時の自分の居場所のない感覚を投影していたのかもしれない。

「……柊神社に帰っても、そこが居場所じゃない気がしていて……。それで、だったのかもしれません。同情するな、って。同情で生き物は育てられないって」

「……柊垢司は、お前のことを分かっての言葉だったのかもしれないな」

「それも、今となっちゃ分かんないんですけれどね。けれど、同情で、可哀想だからってだけで動物は飼っちゃ駄目なんだと思います。だって、可哀想に可哀想を掛け合わせただけじゃ、マイナスになっちゃいますから。ちゃんと、何年も面倒を看られるって言う、確証がないと飼っちゃ駄目なんだって。だから、立花さんもルイさんも、さつきちゃんだって、その場その場の気持ちだけで可愛がっているだけじゃないと思いますよ? ちゃんと、次郎さんのことを尊重しているって言うか……あ、でもルイさんはちょっと注意しておきますね。バンジーさせようなんて……」

 そこでメルJが不意に笑う。

 心底、可笑しいとでも言うように。

「……お前らしい理屈だよ。私は……そうだな。その可哀想のマイナスだけで、見ようとしていたのかもしれないな」

「……いえ、ヴァネットさんは違いますよ。私には分かります。次郎さんのこと、可愛がってあげたいんですよね?」

「……それを言ってくれるな。私の品格が落ちる……」

 紅潮した頬で目線を逸らした今のメルJなら、充分に任せられるはずだ。

「えっと……荒縄しかないですけれど、散歩、行きますか?」

「……そうだな。そろそろ行かないと、朝の散歩の時間は大事だろう」

 メルJは次郎の小屋へと歩み寄り、その手をおっかなびっくりに差し出す。

 にゅっと顔を出した次郎が舌先で指を舐めていた。

 赤緒は後ろでサムズアップを寄越す。

 メルJがカルパスで次郎を小屋から誘導し、ゆっくりとその胴体に荒縄を巻く。

「……思ったよりも重いな」

「そうなんです。次郎さん……いいえ、次郎さんだけじゃない。生き物を飼うってのは重いんですから」

 少しだけ、あの時の猫たちが脳裏を掠めたのは秘密。

 可哀想だけではない、何とかしてあげられるだけの力を持たなければ、生き物と向き合うことはできないはずだ。

 メルJは次郎を引き連れ、ゆっくりと石段を降りる。

 赤緒の眼には次郎のほうがメルJを少しずつ、外の世界にエスコートしているようにも映っていた。

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