目を細めて凝視すると、夕飯を食べていたエルニィが目線を逸らす。
「い、いやぁー……興が乗っちゃって……ねぇ? ツッキーにシール」
「オレらのせいにすんのかよ。そもそもの話、エルニィの悪ノリが原因だろ?」
「ぼ、ボクのせいにするのぉ? ……元々で言うと赤緒だかんね」
責任のなすりつけ合いをする面々を見渡し、両兵はテレビと思しき物体を軽く叩く。
「これ、テレビ……にしちゃ、随分と薄っぺらい」
「人機のモニター部品を使ったんだよ。あとは余った廃材とか、日本じゃ手に入らない素材とかを組み合わせて」
「……組み合わせた結果、なんだよな? 何でこんなUFOみたいな形をしとるんだ?」
それを言及すると、エルニィがうっ、と言葉を詰まらせる。
「……最新鋭の電波とか受信しようと思うと、ほら。結果として技術の粋になっちゃうって言うか、なんて言うか……」
返事に窮するエルニィを他所に両兵は新型テレビらしいものを前へ後ろへと観察する。
「……ケーブルがねぇようだが」
「ケーブルなんてナンセンスじゃん。できるだけ、機能美を追及して、それで色々と受信できるようにしたんだけれど……」
「その結果、画面もねぇようだが……?」
エルニィが愛想笑いを浮かべていると、赤緒が言葉を差し挟む。
「今の技術じゃ、波長を動画にするのに色んなものを経由しているので目に悪いからって……これじゃ本末転倒ですよ、まったく」
そう言いながら白米をかけ込む赤緒は少し怒っているようであった。
両兵はそれとなく、さつきに尋ねる。
「……なぁ、何があったんだ?」
「えっと……私は現場に居なかったから何ともなんですけれど……テレビが、壊れちゃったみたいで」
「壊れただぁ? ……買ってくりゃいいだろうが」
「そう簡単にはいかないんですっ! ……小河原さんは柊神社の財政を分かっていないから……」
どうやら何か一悶着があったのは疑いようもない。
とは言え、このままでは平行線だ。
両兵は薄っぺらいテレビのスピーカーから漏れ聞こえる複雑な中国語と英語と、それに日本語がチューニングされているのを渋い顔で眺める。
「……話を聞かせてもらおうか」
「……何でもない話ですよ。立花さんが真っ昼間から、テレビの様子が変だって言うんで……」
「――あっれー……おっかしいな、これ」
昼過ぎからエルニィがテレビに齧りついているので赤緒は洗濯物を取り込みつつ、それとなく注意していた。
「……立花さん。そんなに近くで見ていると目を悪くしちゃいますよっ」
「……うーわ、またオカンの赤緒だよ。違ってさ、何か、映り悪くない?」
エルニィがチャンネルを切り替えていくと、確かにところどころ灰色のノイズが走っている。
「……あれ? 朝まで普通に映っていたのに」
「もうボロいんじゃないの? 新しいのに買い替えなよ」
エルニィの魂胆は見え透いている。
こうやって新機種のテレビを家電屋へと見繕いに行くつもりなのだろう。
そうは問屋が卸さないと、赤緒はテレビの端を叩いていた。
「こうして……トントンって叩けば、直るんですよ。ほら」
何度か叩くと、ノイズ混じりだったワイドショーのアナウンサーの姿がぶれる。
「……あれ? これってさっきよか酷くない?」
「大丈夫なんですってば。ほら、もっと強く叩けば……」
勢いよく叩くと一瞬だけ直るも、またノイズが激しく明滅する。
「……赤緒。もしかして壊してない?」
「そんなことはありませんよ。……大体、新しいものばっかりに目移りしちゃ駄目なんですっ。有り物をちゃんと、最後まできちんと使ってあげるって言うのが大事なんですよ」
「……けれどさ、その有り物もここまでなっちゃえばどうしようもなくない? あっ、またアナウンサーの顔がぶれた」
どうやら今日のテレビの調子はとことん悪いらしい。
赤緒は腕を組んで呻る。
「……うーん、でも新しいのを買うってなると、出費が……」
「どうせ、五郎さんに買ってもらうんでしょ? 赤緒のじゃないし」
「……でも、悪いじゃないですか。五郎さん、あんまりテレビ観ないですし。観てるの、ほとんど立花さんと南さんとルイさんばっかりですから」
「ボクらに責任があるって言うの? じゃあ赤緒、ちゃんと直してよ。お金の問題があるんでしょー」
こうなってくるとエルニィの身勝手さも磨きがかかってくる。
赤緒は、どうしても要らぬ出費を抑えたいと、テレビの背面から攻めることにしていた。
「……ケーブルの繋がりが悪いとか……天気は……」
「今日は晴れだし、天気の影響じゃないでしょ」
となると、ついに寿命が来た可能性が高い。
赤緒は今度こそと後ろからテレビを叩く。
「あっ……アナウンサーが三人になっちゃったよ。赤緒ー、悪化してない?」
「し、してませんよ……。こんの……いい加減に直っちゃえっ!」
テレビへと思いっ切り張り手を見舞うと、直後にはぷつんと映像が途切れていた。
「あれ……あれ、これって……?」
エルニィがリモコンを操作するも、テレビはうんともすんとも言わない。
「……あれ? 点かないですか?」
「もう! 何してくれちゃってるのさ! まさか、超能力もどきを発動させたんじゃ……」
「し、してませんよぉ……! 青い光点も見えてないですし……」
「じゃあ……赤緒の馬鹿力で壊しちゃったんだ。どうしてくれんのさー! 見たい番組があったのにぃー!」
「た、立花さんが騒がなければ……壊れなかったんじゃないですか?」
「そんなことあるわけないでしょー! ……そうだ。ツッキーとシールに見てもらおう。メカニックなんだし、テレビくらい直せるでしょ」
格納庫へと駆けていくエルニィの背中に、赤緒は思わずぼやく。
「……最初からそうすればいいのに。って言うか、立花さんもメカニックじゃない」
「……何か言った?」
「……あっ、いえ、何も……」
とは言え、もしテレビの買い替えとなれば相応の手痛い出費のはずだ。
赤緒はシールと月子ができれば直してくれればそれに越したことはない、と、そう思っていたが――。
「何だよ、何だよ……こっちは仕事中だぞ」
呆れ返った様子のシールの手をエルニィは引いて頼み込む。
「シールとツッキー、メカニックでしょ。テレビ直してよ」
「テレビだぁ? ……何だ、壊れちまったのかよ」
「赤緒が壊したの。……馬鹿力でね」
「そ、それはぁ……。立花さんが直して欲しいって言うからじゃないですかぁ」
「まぁ、どっちにしたってツッキーとシールはプロでしょ? これくらい直せるよね?」
「ちょっと待てって。テレビなんて直したことねぇぞ?」
想定外なシールの返答にエルニィは戸惑ったようであった。
「あれ? 人機の修復に比べればおままごとみたいなものじゃない? 無理なの?」
「うーん、パーツとかの互換性の話にもなってくるし、そもそも一時的に映らないだけかもしれないから。赤緒さん、ちょっと調べてもいい?」
月子がテレビを横倒しにして背面のカバーを開く。
配線を調べつつ、どこに影響しているのかを探っているようであった。
「……あの、直ります?」
「配線もかなり古くなってるし……それに重要なパーツが歪んじゃってるから……何か大きな力でも加わったみたいに」
じとっ、とエルニィが目線を配る。
赤緒は観念してがっくりと肩を落としていた。
「わ、分かりましたよ……。じゃあ新しいの買いますから、その……でもテレビって高いんで、五郎さんに相談しますね」
「せっかくだし、ボクらで新しいテレビ作っちゃう?」
「日本の規格とか分からねぇから、人機のモニターでも使うか?」
シールと新型テレビの話題に夢中になったエルニィを他所に、赤緒は陰鬱な気分であった。
「……五郎さんにテレビ買ってくださいなんて言ったら……多分、お小遣い、減らされちゃうよね……」
とは言え、テレビがないと文句が出るのも事実。
ここは自分の犠牲だけで済むのならば、最小限か。
そうは思っていても気は重かったのだが――。
「――おい! エルニィ、これ、もうちょっと受信感度上げれば日本だけじゃねぇ。海外のも入るんじゃねぇ?」
「そうそう、その調子! どうせなら最近始まったとか言う、衛星放送も入れちゃおう!」
居間に戻るなり、上機嫌になったメカニック二名とエルニィを発見して、五郎は指差す。
「……えっと……お三方、何をやっておられるんですか?」
「あっ、五郎さん! テレビ、買わなくっていいかも! 今、作ってるところだから!」
「作ってるって……本当にゼロから作れちゃうんですか?」
「ボクらを誰だと心得る! テレビくらいお茶の子さいさいだよ!」
そうのたまうエルニィの吐息は既に出来上がっているのか、酒臭い。
「……真っ昼間からお酒……」
「酒くらい飲まねぇとテレビの設計なんてやってらんねぇよ。……で、だ。ここの回路とこの回路を繋げると……これ、もしかして全世界の電波を受信できるんじゃねぇの?」
「うんうん! これなら日本だけじゃなくって、世界の番組が観れちゃうね!」
常識担当であるはずの月子でさえ、笑い上戸と化している。
赤緒はとんとんとエルニィの肩をつつく。
「その……別に変なのを作ってもらわなくっていいので……普通に五郎さんと話し合いで、テレビ買うことになりましたし」
その結果、自分の小遣いは減るのが確定したのだが。
だが、エルニィはそんな心配は要らないのだと笑う。
「大丈夫だって! これ完成したら、普通のテレビなんかには戻れないよ! なんてったって、どれだけ観ても目が悪くならない、最強のテレビなんだからさ!」
胡乱そうに目線を向けると、先ほどまでのテレビの部品と新造部品を混ぜこぜにしているようであった。
「……あの、普通に直してもらうだけでいいんですけれど……」
「フツーなんてつまんねぇからよ。この際だ、誰も見たことのねぇテレビにしてやろうぜ!」
「ここの配線を繋いだら、もっと広域の電波を受信できるんじゃない?」
「じゃあ、もう全部の配線繋いじゃおう! ここの回路は無駄だから潰しちゃって!」
完全にメカニックの独壇場になってしまったので、赤緒には分け入る術がない。
「……あの、五郎さん。もし……直せれば新しいのを買わないで済むかもしれませんけれど……」
「はぁ……。でも、よろしいんですか? 前のテレビも壊しちゃって」
「それは……多分、立花さんたちだって普段は人機みたいな複雑なのをいじっているんだし……大丈夫……だよね?」
「――……で、大丈夫じゃなかったわけか」
話の仔細を聞いて両兵は嘆息をついていた。
その結果が、全世界の情報を受信する高度な諜報用のラジオ機器――つまりは盗聴器の類になったのだから笑えない。
「衛星の電波を使ったところまでは上手く行ったんだけれど……シャンデリアがあったの忘れてた。あそこ、今の地球上じゃ得られない情報がないでしょ? そこの電波を噛んだもんだから……情報の逆流で映像も音声もごった煮になっちゃって……」
呆れ返った両兵はエルニィと赤緒に連れ立って家電量販店に訪れていた。
「……前のテレビはもう使えんのか?」
「ほとんどパーツ単位でバラしちゃったから、新しいの買ったほうが多分、早いよ。それにしても……うーん、飲み過ぎちゃったかな……」
額を押さえるエルニィに一抹の不安要素を覚えつつ、両兵は赤緒へと言葉を振る。
「あのよ、柊。オレもテレビの良し悪しなんざ分からんぞ?」
「別にいいですよ。お酒飲み一人で買いに行かせるわけにはいかないじゃないですか」
どうやら赤緒はテレビを買うことよりも、それを無茶苦茶にしたエルニィにおかんむりらしい。
挟まれた両兵はそれとなく、エルニィへと声をかける。
「……なぁ、柊と仲直りせんのか。金出すのはあいつだろ?」
「……知んないよ。ボクらがどうこうしなくたって、結局壊れていたんだし? 赤緒の馬鹿力のせいで」
どうやらこちらも譲る気はないのは同じのようで、両兵はげんなりとしていた。
「……しかし、今は便利なもんがあるんだな。こっちのテレビなんて衛星放送が観れるようだが」
「小河原さんは、アンヘルのほうでテレビとか使っていたんですか?」
「あー……そういや、オレもテレビとかはほとんど観てなかったな。そんな場合でもなかったっつーのもあるが、お前、想像できるか? カナイマなんて奥地もいいところだぞ? ジャングルだとかとんでもねぇ高さの山だとかあるんだ。スコールだっていつ降るか分からねぇ。そんなところで、テレビがマトモな娯楽になると思うかよ?」
そう説明すれば赤緒にも想像がついたのだろう。
じゃあ、と目の前に陳列されたテレビを指差す。
「ほとんど初心者が三人ってことですか?」
「……まぁ、ボクはメカに精通しているから一抜けだけれど。って言うか、普通に新しいのでいいんじゃないの? これとか」
「それは値段が高過ぎます。……これだから、お金を使わないで済む人は気楽でいいですよね」
「……何をぅ……」
お互いに牽制を続ける二人に、両兵はほとんど参っていた。
「……頼むから、テレビ一つ選ぶのにそうツンケンすんなよ」
「ツンケンなんて!」
「してないよ!」
「あー、分かった分かった。うっせぇなぁ、もう……。これならさつきを中立的立場で連れてくりゃよかったぜ、ったく。柊、金はどんくらいあるんだ? 予算が分からんと提案もできんぞ」
「お金は……一応、最新のテレビが買えるくらいには」
「じゃあ、一番新しいの買えばいいじゃん。強情な誰かさんのせいで、時間ばっかり食うよねぇ」
「こ、これは柊神社のお金で……私の個人的なことで使っていいお金じゃないんですっ! もう、私もお小遣い減らして買いに来ているのに……」
どうやら個人的な恨みつらみも強いらしい。
これでは決まるものも決まらないな、と思っているとふと目に留まったのはラジオであった。
「……なぁ、テレビで喧嘩するんならもうラジオでいいんじゃねぇの? 安くでどうにでもなるし」
「ラジオじゃ何にも観れないじゃん。つまんなーい」
「ラジオだと朝忙しい時とかに天気予報とか聞き逃しちゃいそうですし……。何よりも娯楽がないのは、その……」
要はこの平和な日本で娯楽に肩までどっぷり浸かっているからこそ出る文句と言うわけか。
両兵はふぅーむ、と思案する。
「じゃあどうするよ? ……テレビ買うにしたって、それなりのもんがあるだろうし……おっ、これなんてどうだ?」
両兵が目に留めたのは、出たばかりの薄く小さな液晶テレビであった。
「カーナビ機能やら何やら付いているんだと。それに、寿命も長ぇって書いてあるぞ? 値段も安いんじゃねぇの?」
「そんな小さな画面で何が観れるってのさ。もうちょっとまともに考えてよね」
「……それにすぐ壊れちゃいそうですし」
反目する割には、テレビに関してはどうこう言いたいのが本音らしい。
「だぁーっ! てめぇらは女々しくぐだぐだぐだぐだ……! じゃあ、ここは第三者に決めてもらうとしようぜ!」
「第三者って……」
「誰を呼んでくるのさ」
「……待ってろ。てめぇらの文句が出ねぇ奴を呼んできてやる」
「――あれ? 前と同じテレビじゃないですか。でもホコリ被ってない……」
「ああ、さつきちゃん。どうにもねぇ……何だか結果として同じテレビを買ってきちゃったみたいなのよ。おっ、茶柱」
軒先で湯飲みを覗き込んでいる南へと、さつきはそれとなく尋ねる。
「あの……立花さんと赤緒さん、結構険悪だったと思うんですけれど……」
「それに関しちゃ、両に感謝ね」
「……お兄ちゃんに?」
テレビの前ではいつものようにルイとエルニィ、そして歩間次郎が鎮座して尻尾を振っている。
「……次郎さんに決めさせたんだって。ま、こういう時に仲裁者って言うか、喧嘩両成敗するのにはちょうどいいのよね」
「次郎さんに……? でも次郎さんにテレビの良し悪しなんて……」
「だからよかったんじゃない?」
ウインクする南に、さつきは困惑顔になる。
「今日のお夕飯はハンバーグですよぉ……。立花さん、それにルイさんも。テレビ近いですよ。目が悪くなっちゃいますっ」
「……もう、赤緒ってば相変わらずだなぁ。しょーがないじゃん。もっといいテレビでもよかったけれど、小動物が決めたんならね。従うしかないし」
「自称天才、最近のテレビならゲーム内蔵型があったんじゃないの? 何で、それを選ばなかったのよ」
「知んなーい。全部小動物のせいだし」
当の次郎は小首を傾げている。
「……まぁ、いいですけれど。……立花さん、その……すいませんでした。意固地になっていたかも」
謝罪する赤緒へと振り返らずにエルニィは応じる。
「……まぁ、ボクも身勝手だった。ちゃんと直すべきだったし、それにテレビ選びもね。ちゃんとすればよかった。赤緒だけのせいじゃないよ」
その段になってさつきは両兵のやってのけた采配になるほどと手を打つ。
「……二人が素直になるために……」
「まぁ、そういうことよね。……まったく、両も粋な真似をするわ。確かに次郎さんに選んでもらったんなら、二人とも文句は出ないわよね」
直後、赤緒とエルニィは同時に頭を下げていた。
「本当にごめんなさいっ!」
「本当にゴメンっ!」
その言葉が重なってから、二人は視線を合わせて相好を崩す。
「……何ですか。立花さん、笑ってますよ?」
「あっ、何でだろ。……安心、しちゃってるのかも?」
「何で疑問系なんですか。……ハンバーグ、冷めちゃう前に夕飯にしましょう」
「……うんっ! ボク、赤緒のハンバーグ大好き!」
「……調子いいんですから。皆さん、ご飯にしましょう」
すっかり笑顔に戻った赤緒にさつきは安堵して夕食の席についていた。
「……さて、その名采配の皺寄せはどうなるのかしらねぇ」
南がそう呟いて柊神社の夜は更けていく。
その意味をはかりかねてさつきは首を傾げていた。
「――おや、小河原さん。珍妙なものを持ってるね」
焚火を囲んだ橋の下で両兵はそれを叩く。
「……これが最新の“自称テレビ”なんだと。ったく、燃えないゴミの整理を押しつけられたんじゃ堪ったもんじゃねぇよ」
アンヘルの整備班が作り上げた「自称テレビ」は今も海外やあらゆる電波を受信し、片言の日本語や英語を垂れ流す。
「ホッホ。どうやら上手くやっておるようではないか」
ヤオの杯へと両兵は酒を注ぐ。
「うっせぇな。変わって欲しいくらいだぜ」
「……お主でしかできんこともある。それにしても、なかなかのものではないか。動物に采配させるとは」
「……見てたみてぇな物言いは気持ち悪ぃからやめろ。あーあ、貧乏くじ掴まされたもんだぜ! こういう時は酒を飲んで忘れるに限るな」
寝転がると頭上で「自称テレビ」が声高に告げる。
『明日は都内広範囲で雨……見てください! こんな大きなマグロ! ――侵攻作戦は明後日……《バーゴイル》の建造計画は――』
そこで両兵はスイッチを切る。
「聞かんでよかったのか?」
「……世の中知ンねぇほうがいいこともあらぁ。テレビに釘付けになる前に、今は目の前の酒のほうが優先さ」
なみなみと注がれる酒に口をつけて、両兵はふんと鼻を鳴らす。
「テレビってのも大変な身分なこって。娯楽っつー厄介なもんを押しつけられちまってる。なら、その身分ってのも悪いばっかの方向じゃねぇだろ」
「ではテレビに乾杯とでも言うべきか?」
「……だな。じゃあ今宵はテレビに」
乾杯、と。
カツンと杯を交わしていた。