両兵がここに来るまでに買い付けていたのは三人分のアイスであった。
風が吹き込み、夏が近づいた僅かに熱のはらんだそれがゆったりと髪を撫でていく。
「……気持ちいい……」
「だろ? ここでアイス食うのが一番旨ぇんだよなー。ほら、二人とも遠慮すんなって」
遠慮するなと言っておきながら、両兵が買ってくれたのはせいぜい一人百円のアイスだ。
――でも、自分にとってのこれはそれ以上の。
「……うん。私もその……よかったかも。この景色が見れたんなら」
三人で屋上の手すりにもたれて、黄昏の色調の街並みを視野に入れる。
見知った街路樹も、馴染んだ商店街も、どこかで見知ったつもりでいた生活の景観である屋根瓦も。
どれもこれも――この瞬間ばかりはひときわ輝く。
「……何でなのかな? あれ……変だけれど……」
少しだけこみ上げてくる。
それを今ばかりは両兵もルイも茶化さなかった。
頬を伝う熱一つ、今はアイスのソーダ味に溶けていく。
「……ありがとうな。また来ようぜ。掃除したらでもいい、気が向いたら、でもいい。何だっていいのさ、きっかけなんざ。気分がいい時にゃ、夕焼けを見ながらアイスでも齧る。それでチャラになる価値だってあるはずだろ?」
両兵が橋の下で過ごしている意味が、今は少しだけ分かったような気もする。
生活の中で摩耗しかねない、そういう価値をきっと彼は取りこぼさないようにしているのだ。
「……うんっ! ありがとう、お兄ちゃん!」
「礼を言うのはオレのほうかもな。川本兄妹に世話ンなってる、それを何かの形でヒンシにも……伝えられりゃきっといいよな」
今はまだ術がなくとも。
それでもこうして毎日を回し続ける。
――いずれは届く。
何故なのだかそれを確証めいて感じられた胸の中は、じんと熱い。
きっと少し汗ばむ陽気のせいだ、と今は片づけてしまおう。
アイスをひと齧り。
それは多分――醒めない夢のように甘くって、涼やかで、そして。
「溶けてしまいそうな……そんな気持ち」
アイスを頬張る。
この熱は、この名前のない気持ちは、消えないで欲しい。
そう願うのは何も、間違いではないはずなのだから――。