JINKI 270 埋蔵金より確かなもの

「馬鹿ね、自称天才。反応が小さ過ぎるわ。これじゃ、眠っていたとしても二束三文ね」

「あの……何で掘るのが私の役なんですか?」

 さつきがスコップ片手に小首を傾げる。

「だってぇー、ボクらがやると赤緒が怒るから」

「私がやっても怒られるんじゃ……って言うか、やっぱり勝手に土地を掘っちゃ駄目ですよ」

「さつき、今さら私たちは退けないのよ。あんただって、昨日のテレビの特集は見たでしょう? 一攫千金を狙うのなら、これしか方法がないわ」

 思い詰めた様子のルイだが、その理由をさつきはじとっとした眼差しで問い返す。

「……赤緒さんからお小遣いがもらえないからですよね、それ……。立花さんも悪さばっかりするから、お小遣いがないんじゃ……」

「まったく、失礼しちゃうよねぇ。ボクはトーキョーアンヘルに対して、これほど貢献しているって言うのに」

「とは言え、自称天才。来週出るゲームは絶対手に入れないと損よ。赤緒に屈してはいられないわ」

 ひょいとスコップを自分から引っ手繰り、ルイが境内の土を掘り始めたところで声がかかる。

「あれ? 何やってんのよ、あんたたち」

 びくついたルイとエルニィが振り向くと、南が湯飲み片手に歩み寄る。

「……何だ、南か。赤緒に見つかったかと思ったじゃんか」

「見つかったと思ったって……あれ? 何で境内掘ってんのよ」

「何でもないわよ。南はとっとと引き返したら?」

「……また悪さ考えてるの? 駄目よー、赤緒さんに目を付けられたらそこまでなんだし。おっ、茶柱」

 湯飲みを覗き込んだ南に、エルニィは期待しかけて、いややっぱりと取り下げる。

「南は……あんまり日本の風土とかに詳しくないんだっけ? じゃああんまりヒントはなさそうだね」

「ヒントって……あんたら、本当に何やってるのよ。さつきちゃんまで連れ出して。ねぇ?」

「これだよ、これ」

 エルニィが差し出したのはL字型の棒一対で、南は思案する。

「……鉄の棒で何をやってるわけ? もしかしてこれがお菓子だとか?」

 南が掴んで匂いを嗅ぐものだから、大慌てでエルニィはそれを取り返す。

「食べ物じゃないってば……! ホント、南ってば色気より食い気だよねぇ」

「何よぅ。じゃあ、これ、本当にただの鉄の棒ってわけ? ……何だってこんなガラクタを?」

「ガラクタじゃないよ。これがお宝になるんだ」

 どういう意味なのか、南は分かっていないのだろう。

 さつきはそれとなく囁きかけていた。

「あの……実は昨日のテレビで……」

 ――夕食の席も終わり、エルニィはぼんやりとテレビを眺めていた。

 手元には筐体があり、いつもの習慣で弄っているが、風呂の順番が回ってくるまでの手慰み程度だ。

「……暇だねぇ、ルイ」

「あんただけでしょ、暇なのは」

「ボクもさぁ、そろそろちゃんとしたPCパーツが欲しいんだよねぇ。けれど、そういうのの勝手な輸入はやめろって、赤緒から釘を刺されちゃってさ。代わり映えのないPC改造に飽き飽きしかけてるんだけれど」

「お金なら貸さないわよ」

 ぴしゃりと言い渡されてしまったので、エルニィは唇を尖らせて不貞腐れる。

「……ちぇっ、ケチー」

「来週の新作ゲーム発売まで少しでも貯金をしておかなくっちゃね。そのための軍資金集めよ」

「軍資金って言ったって、赤緒にお小遣い抑えられちゃってるじゃんかー」

 ルイはその指摘に静かに耐え忍ぶ。

「……それが痛いわね。もう二千円ちょっと足りないんだけれど、赤緒のご機嫌取りでどれくらい儲けられるかしら……」

「無理なんじゃない? 赤緒、あれで一回決めたことは覆さないでしょ。また言われるよ? “ゲームばっかりしてると眼が悪くなりますっ。ゲームは一日一時間っ!”って」

「ちょっと似てるわ、自称天才」

「そう? もうかなり赤緒に締め付けられちゃってるからなぁ……。柊神社の財政上、あまり強くは出られないし」

「あんたはもしもの時にはアンヘルの貯金に手を付けられるでしょう。私よりか優位じゃないの」

「それしちゃうと、今度こそボクの信用は地に落ちちゃうし、さすがにできないかな。赤緒に財布を任せているのもその辺の事情だからね。それにしたって……どこかで臨時収入もないものかなぁ」

「そう上手い話があるわけ……」

「立花さーん、お風呂先にいただきました。……どうしたんです? 二人して」

 自分たちの空気を感じ取ったのか、さつきが見渡す。

「……別に、何でもないわよ。さつきには無関係」

「そうだね。さつきはいい子だから、お小遣い貰ってるんでしょ? いいよねぇー、いい子って言うのはお得で」

「な……っ、それはちょっと心外ですよ。私だって、毎月のお小遣いは決まっているんですから」

「でもボクらみたいに減らされたりしないじゃん。ボクらは死活問題なんだってば」

 その言葉で察したのか、さつきはルイのほうに目線を配る。

「……ルイさんも?」

「まぁね。来週までに二千円……赤緒にどれだけゴマをすればいいかしら……」

 真剣に考え始めるルイにエルニィは呆れ返っていた。

「やめといたら? 赤緒のご機嫌伺っていちゃ疲れちゃうよ。ボクらは自由に、それでいてちゃんと自分たちの仕事をやるのが一番の近道――」

『徳川埋蔵金に関してですが……本当にこのダウジングマシンが反応するんでしょうか……?』

 テレビの特集へとエルニィは自然と目を向けていた。

 安っぽいセットの中で、自称超能力者がL字型の棒を突き出す。

 すると、手前に用意されていた金品の前で棒が反応していた。

 するすると、近づけると横に向き、離すと元の状態へと戻る。

 自ずとエルニィはそれに注目していた。

『ダウジングマシンを使えばもしかするとあなたも埋蔵金を……一攫千金を掴むのも夢ではないかもしれませんね』

 その締めで番組が終わっていく。

「徳川埋蔵金……これだわ」

 立ち上がったルイに、エルニィは同じように頷き合う。

「これしかないね……一発逆転の策は……」

「あの、二人ともまさか……」

「まさかも何もないわ。徳川埋蔵金さえ掘り当てれば、私たちは一気に億万長者。もう赤緒のご機嫌取りをする必要性もないのよ。自称天才、用意できるわね?」

「テレビに映っていた程度でいいなら、ちょうどパーツの余剰品で用意できそうだね」

 L字型の部品がたまたま余っていたので、それを手にエルニィも立ち上がる。

「……言っておくけれど、見つけたら分け前は半分……」

「それはそうじゃん。ボクらで協力して見つけよう! 徳川埋蔵金を!」

「あ、あのぉ……」

 士気を上げた自分たちへと言い辛そうにさつきが割り込む。

「……ははーん、さてはさつきも徳川埋蔵金を狙っているわけか」

「実はがめついのよね、さつきって。……いいわ、三人で割りましょう」

「そうじゃなくって……徳川埋蔵金なんてどこにあるんです?」

「それは探していくしかないでしょ。この! ダウジングマシンでね!」

「……ただの鉄の棒じゃないですか」

「さっきのテレビの実演を見ていたでしょう? 金品に近づけると反応するのよ」

「いや、あれってテレビの演出で……」

「何だい、夢のないこと言うなぁ、さつきは。じゃあ明日から始めちゃおっか! まずは……柊神社の境内から!」

「あんたも来るのよ、さつき」

「わ、私もぉ?」

「当然じゃん。分け前を狙っているんなら参加はしてもらわないと。そうだなぁ……徳川埋蔵金当てちゃったら何買おうっか……」

「まずは最新のゲームソフトね。……ゲームを端から端まで、ショーケースにあるの全部、って言うの、一度やってみたかったのよね」

「いや、その……そもそも徳川埋蔵金って、簡単に見つかるものじゃないから、その……」

「嫌だなぁ、さつきは。簡単に見つからないって言ったって、ダウジングマシンがあれば違ってくるでしょ。元手がかからないで精度があるって言うんなら、ちょうどいいし」

「いや、だからぁ……あれってトリックとかじゃ……」

「さつき、今日は早めに寝なさい。明日の早朝から始めるわ。私たちが絶対に徳川埋蔵金を掘り当てて、そして夢の億万長者……」

「一攫千金……長者番付でウハウハ……」

 エルニィとルイは、にたぁと笑い始める。

 大金を手に入れた時のことを考えると、笑いが止まらない。

「こりゃ、参ったね! こんな簡単なので、まさか一生お金に困らないなんて!」

「――……って思ったのに、全然じゃん。ねぇー、ルイー。そっちの棒と交換してよー」

 柊神社の隅から隅まで探索したエルニィがルイとダウジングマシンを交換する。

 しかし、ルイも相変わらず収穫はないようで、浮足立った昨晩が嘘のようであった。

「……何で反応しないのかしら。そっちのほうがよかったんじゃないの?」

「えー! 交換した途端に言わないでよ! ボクので反応したら、じゃあ取り分はボクのほうが上でね!」

「……言ってなさい。こっちのほうが多分、反応がいいんだから。それで見つかったら取り分は上乗せよ」

 二人が言い合いをしながら地面に向けて何度も何度も反応を確かめているのを、さつきは南と共に少し離れた位置で見守っていた。

「……なるほどね。って言うか、徳川埋蔵金って柊神社にあるものなの?」

「そもそもで言えばそうなんですけれど……まずは手近なところからって言うのが二人の言い分でして……」

 困り果てたさつきに、南は縁側で缶コーヒーを差し出す。

「飲む?」

「あっ、どうも……って、ブラックですね……」

「現実は甘いもんじゃないってことよ。それにしたって、二人はそこまでお小遣いに困ってるの? 埋蔵金なんて見つけたって、あんたらの所有物になる前にそもそも国の所有物になるんじゃないの?」

「南はロマンの欠片もないなぁー。……掘り当てたってバレなきゃあいいんだよ」

「そうよ。国のものになったとしても何割かはもらえるはずだわ。それが手に入れば……ゲームも買い放題……」

「パソコンもスペック上げ放題……あんなパーツや、こんなパーツも買っちゃおっかなぁ」

 ふふふ、と悪い笑みを互いに漏らすエルニィとルイはほとんど欲望の権化であった。

 プルタブを開け、さつきはブラックコーヒーに口をつける。

「……そんなに甘く簡単に行くものなんでしょうか……?」

「うーん、私は日本の文化にはあまり詳しくないから分かんないけれど……徳川埋蔵金って言うのは神社に眠っているものじゃないと思うし……」

「何言ってんのさ。案外、こういう何でもない土地に忍ばせておくのがへそくりの極意ってもんでしょ?」

「そうね。それに柊神社は土地も高いし、隠すのにはもってこいだと思うわ。一説には東京ならその可能性は高いとも言われているし」

 エルニィとルイが各々ダウジングマシンで探査し、ここでもないあそこでもないと言い合っている。

「……どう思います? これ」

 苦いコーヒーをちまちま飲みつつ、南へと尋ねる。

「どうって……うーん、けれど馬鹿馬鹿しいとも言えないって言うか……ほら。古代人機だとかを知ってるとねぇー。古代の鉱脈だとかはあるし、それを利用して動いているのが血塊を動力源にする人機だしね」

「そう言えば、血塊炉って南米で産出される鉱石をメインにして動いているんでしたっけ? えっと、それがよく掘り起こされるのがテーブルマウンテンで……」

「おっ、さつきちゃんはさすが、よく勉強しているわねー。そうそう、でも新しい血塊ってほとんど掘り起こされないもんだから、人機産業って進んでは戻り、進んでは戻りを繰り返してるのよ。何せ、要になる血塊炉が上手く量産できないもんだから」

「でも……一応、新型機とかは開発できるんですよね?」

「少ない血塊をやりくりして、その結果、電力メインの機体構成にしたりしているだけだから。本当の純粋な血塊炉で動いているのってそれこそ《モリビト2号》くらいだし。うちで扱っている人機は少なからず省エネが入っているって言うか……」

「ちょっと、南ぃー。その物言いだと何にも見つかりそうにないから、やめてよね。ボクらの苦労が水の泡みたいじゃんか」

「そうよ、何なら南も少しは掘るのを手伝って欲しいわ。これだけ苦労してるんだから」

「……いや、あんたたち勝手に徳川埋蔵金って盛り上がってるだけじゃ……。そもそもだけれど、そんなスコップで掘れる浅いところに埋蔵金なんてあると思ってるの?」

「分かんないじゃんかー。もしかしたらその……何だっけ? 教会がどうのこうので元が暗いだとか」

「灯台下暗し……ですよね? それにしたって、まさか柊神社に埋蔵金があるわけ……」

「さつき。あまり諦めの言葉を言うもんじゃないわ。いつだって人類の歴史は、こうやって発展してきたのよ」

「……もう、偉そうなこと言ってもルイさんはゲームを買い漁りたいだけじゃないですか」

 スコップを使っていくつも境内に穴を作っていく二人だったが、やがて疲弊したのか、背中を合わせて息を切らす。

「もうっ! 全然出ないじゃんかー!」

「……ダウジングも駆使しているはずなんだけれど……何故こんなに何も出ないのかしら」

「そもそもダウジングだって本当かどうか怪しいんじゃないですか?」

「えーっ! それはやってないから言えるんでしょー! ……さつき、ためしに持ってみなよ」

「……何も反応しないですってば」

 縁側から立ち上がり、仕方ないのでエルニィのダウジングマシンを両手に携える。

 正直なところ、ダウジングマシンはテレビの超能力番組のインチキだと思っているタイプな自分にしてみれば、これ自体が疑わしい。

「いいから、歩いてみてって! 意外と反応するかも」

「そんな簡単に行くわけ……あれ?」

 まったく力を込めていないのに、L字の棒が開いていく。

 まさか、と目を見開いたさつきが振り返ると、エルニィとルイがじっとこちらを見据えている。

「……あ、えっとあの……反応しちゃいました……」

 二人は視線を交わし合い、それからスコップで直下の地面を掘り始める。

「さつき、そこ動かないでね!」

「……仕方ないわね。分け前は三人分よ」

「あー、もう! スコップじゃ全然足んないよ!」

 何度も硬い地面を突いていたスコップの先端が削れる。

 その段になってさつきは巨大な影が差したのを感じ取っていた。

『三人とも! そこ、動かないようにねー!』

「えっ……ええっ! み、南さん?」

 挙動したのは修理に出していた《ナナツーウェイ》である。

 片腕が削岩機になっている《ナナツーウェイ》がその推力を十全に用いて掘り進める。

 あまりのパワーにさつきは開いた口が塞がらなかった。

「み、南さんまで……?」

『エルニィにルイ! 私が見つけたら私の物だからねー!』

「何をぅ! 南には負けてらんないよ! ルイっ!」

「ええ。人機に乗って発掘するわ」

 エルニィとルイが《ブロッケントウジャ》に乗り込み、シークレットアームを伸ばしてその先端部にドリルを装着する。

『ボクらが先取りするんだから、南は引っ込んでなよ!』

『そうは問屋が卸すもんですか! 徳川埋蔵金は私の物よ!』

『……南、やっぱりがめついんだから』

「あ、あのーっ! 柊神社でこんなことしてたら、それこそ……」

「何やってるんですかー! 柊神社の地面を掘っちゃ駄目ですよーっ!」

 予想通り、赤緒が顔を出し、境内へと駆け寄ってくる。

「あ、赤緒さん……そ、その、皆さんは徳川埋蔵金を前に、お金に目が眩んじゃったみたいで……」

「さつきちゃん……? って、それ、どうしたの?」

「あっ、これはダウジングマシンで……金属とかに反応するみたいですけれど、そういうのはどうでもよくって――!」

『かかった! これだぁーっ!』

《ブロッケントウジャ》が掘り当てたそれを太陽のもとに晒す。

 それは、小さな――。

『……金属の菓子箱……?』

「えっと……それに反応したんですかね……? って、赤緒さん? 何で……?」

 横を見ると赤緒が羞恥の念にぷるぷると震えている。

 一体どうしたのだろうと思っていると、南が《ナナツーウェイ》のキャノピーを上げて注視する。

「……それって……もしかしてタイムカプセル?」

『タイムカプセル……って、何だっけ?』

『記念品とか入れておくもんでしょ。何だってそれが柊神社の地面から……』

「あ、あの……三人とも……それ、返してもらえませんか? 実は、それって……」

「――赤緒の個人的なタイムカプセル?」

 居間で開くと、柊神社に引き取られてから高校入学までの赤緒のオフショット写真や記念写真が撮られている。

「でも、何だって? 地面に隠しておいたのさ?」

「その……ここの元の持ち主で、私の身元引受人である柊垢司さん……と、約束していまして。私が引き取られた当初、あまりにも毎日無反応だったっていうので、写真に残しておこうって言い出されまして……五年後とか、十年後に見たらきっと、違うはずだって。あの頃は私、よく分かんなかったんですけれど……」

「へぇー、じゃあこれ、三年前の赤緒かぁ……。こうして見るとちょっとだけ幼い?」

「顔も、今みたいにいつもの覇気を感じないわね」

 赤緒は先ほどから居間の隅に座って座布団を握り締めて羞恥に耐えている。

 さつきはそれを悟って、そうだ、と提案していた。

「今の赤緒さんと……私たちの写真を入れておきませんか? これ、元々五年後とか十年後のタイムカプセルなら、私たちにちょうどいいじゃないですか」

 エルニィとルイは視線を合わせる。

「……まぁ、五年後とか十年後? ボクらは何してんのかなぁ……」

「きっと、そんなに変わらないわよ」

「……私はその頃には三十代後半かぁー……」

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