弁明する赤緒とエルニィに、何だかつい先ほどまでの深刻な自分の思い込み自体が馬鹿馬鹿しかったような気がして、思わずぷっと吹き出す。
「な――っ! 笑うことないじゃん! って言うか、赤緒のほうだよね? 明らかにチアだし、夏服とかそういうことじゃないでしょーって言う」
「た、立花さんが着せたんじゃないですかぁ……っ! 私がいいなって思ったのはこうじゃないですから!」
「いや、そうじゃねぇ……そうじゃねぇ……だけれどな。ああ、笑えちまうんだな、オレも」
別に一時として忘れるなと囚われているわけでもない。
こうして笑えるのだ、ならば少しは彼女らに寄り添ってもいいはずだろう。
「……立花のはいつもとそんなに変わらねぇ。柊のは……言うまでもねぇが、誰の応援に行くんだ?」
「えぇー! じゃあ、どっちが似合ってるのさ! ボクのほうが夏っぽいでしょー!」
「立花さんのだけ自分のセンスで選んでいるからズルいですよ! 私だってまともなんですから!」
そうやってやいやい言い合っているそれそのものが、平穏を享受していることになるのだろうか。
ならば自分は彼女らの平穏に、僅かであろうとも色調を添えることができるのかもしれない。
それが戦いと板挟みであろうとも、少しの安息が訪れるのならば。
「……まぁ、満足いくまで選んでろよ。オレはここで待ってるから。そうだな……待ってることにするよ」
「……小河原さん?」
ベンチに座り込み、手を差し出す。
「ただし、こっちも暑ぃ中待ってンだ。飲み物代くらいは奢ってくれるんだよな?」
不遜そうに振る舞うと、赤緒は違和感を仕舞ったのかいつものように微笑む。
「……もうっ。少しだけですよ。そうだ、立花さんっ! 喫茶店に寄りましょうか。この間、いいお店を泉ちゃんから教わったので……!」
「おっ、いいねぇ。買い物の後にコーヒーを嗜むのもオツだよねぇ」
そうと決まったら、と二人は夏服のコーナーに戻っていく。
「今度こそ、赤緒には負けないんだからっ! まだまだ夏服選びは始まったばっかりだよ!」
「わ、私だってちゃんとしたの選べるんですから! そこで待っていてくださいよ、小河原さん!」
「いや、それはいいんだが……駄賃……」
結局言い出せず、両兵は二人の背中を見送る。
「……まぁ、いいや。自分だけ不幸だって思い込むのは何なら簡単だからな」
この後、二人とのティータイムが待っている。
ならば少しばかりは我儘にも付き合おうではないか。
自分は彼女らに振り回されながらもその笑顔を一秒でも長く見つめることが、きっと正しい在り方なのだろうから。
「――あっ、結局冷房買ったんだ。へぇ、あんたが持って帰って来たと。……よくやってくれたわね、両」
「こちとら結構な買い物だったんだ。もうちょい労えよ」
縁側で全員が寝静まってから、両兵は南の言葉を聞く。
格納庫にまず付けようと言い出したまではまだ真っ当だったが、その日のうちにすぐさま二台目を製造した情熱は恐れ入るとしか言いようがない。
二台目は無事に居間へと取り付けられ、今は涼しい風を送っている。
「……それはご苦労さま。どう? ラムネでも」
「酒じゃねぇのかよ、ケチくせぇな」
そうは返答しつつラムネを受け取ってビー玉の封を開ける。
喉に流し込まれる炭酸が心地よい。
南もラムネを開けて同じように呷っていた。
「……日本の夏も悪くない、そう思っているんじゃないの?」
「心読むんじゃねぇっての。第一、オレもお前も南米のほうが長いクチだろうが」
「そりゃあね。でも、あんたもちょっとは変わる予兆があるって言うか……夏服の買い物にも付き合ったんだって?」
「……口の軽い連中も居たもんだ」
「いいんじゃないの? だって、赤緒さんもエルニィも笑顔であんなにウキウキしちゃってさ。ちょっと羨ましいくらい」
結局、あの後四十分ほど夏服の買い物に付き合わされたのだが、帰りの喫茶店のコーヒーが思ったよりも口に合ったのでチャラにしたのだったか。
「オレは保護者じゃねぇぞ?」
「でも、あんたが居たからみんながこうして笑顔でいる。当たり前じゃないのよ、それ」
「……そうか? オレはどっちでも構わんと思っているがな」
にべもなく返すと後頭部をラムネの瓶で殴りつけられる。
「なーに黄昏てんのよ! あんたらしくもない」
「痛ってぇなぁ! 瓶で頭ドつく奴が居るかよ、ったく!」
「……ま、そういう気分になることもあるのかもね。夏だもの。ちょっとばかし思うところも出てくる季節なのよ」
「……あっちじゃ年中夏みてぇな気候だったが」
「それも日本とカナイマじゃ違うもんよ。……気付いているかどうか分かんないけれど、あんたは日本の夏を私たちと過ごすのよ。ね? 私たちと、なんだから」
その言葉の赴くところに両兵はケッと毒づく。
「そいつぁちぃと重いな。てめぇら全員と夏、か……」
「そうよ。あんたにはそれなりの重さ、ちゃんと感じてもらうんだからね」
そう言い置いて南は軒先から離れていく。
両兵は手元に残ったラムネへと視線を落としていた。
「……誰かと過ごす夏、か……。それはオレにとっても、初めてのものなのかもしれねぇな」
思いっ切りラムネを飲み干す。
鼻孔に弾ける香りと清涼感。
そこには確かに夏の気配が、爽やかに漂っていた。