エルニィが背筋を伸ばして作業を中断する。
その中で一人だけずっと続けていたのは――。
「――両。あんた、こんなところに居たのね」
夕飯後に両兵は軒先で涼んでいた。
「おう。何だかとんでもねぇ目に遭った気がするぜ。夕飯時も空気悪ぃし……」
ぼやいた両兵へと南はそれとなく相槌を打つ。
「……あのねぇ……まぁ、これはみんなも悪いんだけれど……女子が必死に作ってるのを男子がちょちょいのちょいで作っちゃうと、そりゃみんなやる気をなくしちゃうわよ」
「知らねぇよ、そンなもん。……ってか、難易度高いってのに、全員ゼロから作ろうとすンのが悪ぃんだろ。もっと上手く既製品と組み合わせてだな……って、似たようなことを昔、そういえば誰かさんに言ったっけか」
「ホント、変わんないのねぇ、あんたも。……はい、これ」
南が差し出したのは手製の麦わら帽子であった。
「ん? オレが作った奴じゃねぇよ、これ。編み方が雑過ぎンだろ」
「あんた……言い方ってもんがね。……私のよ、それ」
「てめぇの? ……そういや、他の連中が飽きた後もてめぇだけ作ってたっけか」
「みんなはまだこういう地道な作業は大変かもだけれど、私は幸いにして時間はあったからね。……あげる」
「あげるって……自分で被るために作ってたんじゃねぇのかよ」
「いいのよ。まぁ、こういうのもね。あってもいいかなって」
「何だ、そりゃ。しかし、飽きた分を捨てちまうのももったいねぇな。黄坂、連中が中途半端にしちまった麦わら帽子、オレが引き取ってもいいか?」
「いいけれど……どうすんのよ」
「まぁ、ちょっとしたボランティアみてぇなもんだ」
「――よう。おっ、何だそれ」
「おう、勝世。何だ、てめぇも暇してンな。これでも持ってけ」
そう言って両兵が差し出したのは麦わら帽子である。
勝世は明らかに嫌悪を浮かべて警戒していた。
「……あのなぁ、こういうの、女子からはオールオッケーだが、野郎からもらうってのは気味が悪ぃぞ?」
「そうか? ホームレスの連中に配ってンだ。好評だぞ?」
勝世が見渡すといつもの橋の下の顔ぶれが誰も彼も麦わら帽子を被っている。
「……オッサン共が麦わら帽子ってのも奇妙なら、それを配ってんのがてめぇってのも薄ら寒い……まだ怪談にゃ早いだろ」
「うっせぇな。ほれ、これ。よくできたからよ」
勝世は受け取ってからその細工の細やかさに絶句する。
「……そんでもって完成度は高いってのが嫌な話だな。……うん? だがお前が被ってんのは随分と粗いじゃねぇの。何だ、最初に出来上がった奴被ってんのか?」
「いや、これは……。まぁ、みてぇなもんだ」
「そんでもって、またしても気味が悪ぃな。ちゃんと刺繍してあるぜ? “RYOHEI”ってな」
「ん……何だよ、あいつ。こんなところまでこだわっている暇があるんなら、ちゃんと作れってンだ」
一度被っていた麦わら帽子を片手で転がして刺繍を確認してから、両兵は被り直す。
「……誰かから貰ったのか?」
「いや、これは……別にそういうんじゃねぇよ。多分な」
そう、多分――これも気紛れの一つなのだろうと両兵は結ぶ。
かぎ針で麦わら帽子を編むと、少しだけ夏の匂いが鼻孔を掠めたのを感じたような気がした。
そうだ、もうそろそろ夏が来る。
ならば、その前に一度だけの機会だったのだろう。
「……マジに……めんどいだけなんだろうがな。それもこれも」