「あの……間違っていたでしょうか……」
所在なさげなウリカルに小夜はいえ、と返答していた。
「これはどっちの問題でもあるからねー……。ハウル消耗の激しいレイカルに、体力のない作木君……どっちかをどうにかすればいいってもんでもないわ。ウリカルはよく考えてくれているわよ」
「なら、いいんですけれど……」
とは言え、このままでは正月太り解消とはいかないだろう。
「……幸いにして、ここは真冬の早朝……。通りを窺う人も居ないだろうし、作木君。それにレイカルも。もっと効率よく、体力をあまり消耗せずに正月太りを解消する方法があるって言えば、どうする?」
「なに! そんななものがあるのか!」
「インストラクターの人に習ったんだけれど……エアロビクスってのがあってね」
「小夜、小夜。それはむしろ、ランニングより酷なんじゃない?」
「い、いえ……それでも走るよりかいいのならば……やってみる価値はあります……!」
「そう、じゃあまずは有酸素運動って言うのが……」
「――レイカルにカリクムよ。では、この手に向けてハウルを撃ってみせよ」
レイカルに続き、カリクムもハウルの砲弾を放つ。
それはヒヒイロの手首を的確に撃ち抜き、ヒヒイロはそれを命中すると同時に弾き落とす。
「うむ、見事、戻ったようじゃな」
「当然! 私が正月太りなんてあり得ないんだから!」
「あっ、カリクム! 私のほうが強かったんだからな! 私のお陰だ!」
調子を取り戻した二人がいつものようにいがみ合うのを、小夜は平常業務に戻った平日の削里の店で眺める。
「それにしても……ようやくお正月休みが終わったって言うのに、お客さん全然来ないんですね、削里さん」
「俺は自由業みたいなものだからね。君らとは違うんだ。……ふーむ、今年の詰め将棋はちょっと難しいな」
詰め将棋本と睨めっこする削里を他所に、ウリカルは勉学に励んでいる。
「師匠! で、できました……!」
「ふむ、どれどれ……全問正解とは、さすがはウリカルじゃな」
「あ、ありがとうございます! ……けれど、今回。私、あまりお役に立てなくって……」
しゅんとするウリカルに小夜は声をかける。
「何を言ってるの。ウリカルが先生をやるって言うからレイカルとカリクムもやる気を出したんだから。カリクムなんて放っておいたらソファに爪を立てるばっかりなんだからね」
「私は猫か何かかよ! ……ったく。それにしたって、あんな魔法みたいな運動法、よく習っていたもんだよなー、小夜も」
「これでも一応はアクションもできる女優だからね。体力作りは怠らないのよ」
「けれど、弊害もあったわよねー。まさか作木君がねぇ……」
「……まぁね。削里さん、お見舞いの品、ありがとうございます」
「作木君によろしく頼むよ」
本から視線を上げずに片手で返答した削里に、小夜はヘルメットを手にバイクへと跨る。
向かったのは作木のアパートであった。
インターフォンを押すと、ばたばたと部屋の中で音がする。
「あっ……すいません、小夜さん……」
「いいのよ、やっちゃったのは脚と腕と……?」
「首もみたいです……いたた……っ」
「どれだけ運動不足なのよ。はい、削里さんからお見舞い貰っておいたから」
「あっ、ありがとうござ……いたた……っ」
あの後――エアロビクスは有効な効果を発揮したものの、生来より運動不足であり、なおかつ筋肉量も少ない作木は案の定、全身を痛めてしまったのだ。
それで二日間も臥せっているのだから、少しは責任も感じてしまう。
「創主様……大丈夫ですか……?」
「ああ、うん……だいぶよくなって来たかも……」
「ヒヒイロから聞いたけれど、元々作木君の無限ハウルだとかは、身体の臨界点を引き上げるものでもあるみたいだから回復も早いんだってさ。ただし! 次からはちゃんと運動を定期的にすること! そうじゃないとこうなったら困るんだからね!」
「き、肝に銘じておきます……」
「けれど、作木君もウリカルもよく頑張ってくれたわ。二人とも、ちゃんとレイカルたちを元に戻そうと努力してくれたのよね」
「なら、私たちができるのは最大限の労いよね! さぁ、新年一発目のナナ子キッチンの始まりよ! 今日はもつ鍋! ちゃんと栄養を付けないとね!」
「その、私ももらっていいのでしょうか……」
おどおどするウリカルの背中をレイカルが抱き寄せる。
「大丈夫だ! ウリカルのお陰なんだからな!」
「お母さん……。はいっ! 次からもちゃんとできるように私……作木さんとレイカルさんのインストラクターになります!」
「厳し過ぎない程度でね……? 作木君は生粋のもやしっ子なんだから」
作木が養生しているために、既に大学は始まっていたが今日は自主的に休みを取っていた。
それの責任を感じているのか、彼は申し訳なさそうに口にする。
「すいません……新年一発目から……」
「謝り過ぎ。第一、作木君なしじゃ、大学生活も味気ないってものよ。そりゃー、女優業もあるけれど、それだって作木君ありきなんだからね」
「それってどういう……あたた……っ」
またしてもどこかひねったのか、作木がのた打ち回る。
その鼻先へと、小夜は人差し指を突きつけていた。
「ほら、そういうところ! ……まったく、今年も手がかかりそうね。私が居ないと作木君は駄目なんだから!」
そう言って小夜はウインクしてみせるのだった。
それを目の当たりにして、カリクムはやれやれと肩を竦める。
「ホント、分かんないよなー……人間ってのはさ」