レイカル66 3月 レイカルと三寒四温の日々

「……何よ。こっちをじっと見て」

「……ねぇ、ナナ子。あんた、冷え症だっけ?」

 着ぶくれしているナナ子に小夜は問いかけると、彼女はうん? と怪訝そうにする。

「冷え症かって言われると……そうねぇ。まぁ、人並みじゃない?」

 それにしては、ナナ子は全体的なシルエットが丸くなったような気がしてならない。

 できるだけ直接的な表現を避けつつ、小夜は言及していた。

「……まぁ、この時期だし、冬服と春服がごっちゃになってややこしいこともあるだろうし……」

「うん? 何だ、ナナ子。ちょっと見ない間に太ったな」

 こちらが随分と迂遠な方法を取っていると言うのに、こういう時のレイカルの発言ほど迂闊なものはない。

「あんた……! そういうのは思ってても言っちゃ駄目なんだってば!」

 大慌てでレイカルの口を塞ぐと、ナナ子はピンと来ていないのか首を傾げつつコンビニスイーツを口に運ぶ。

「そうかしら? 今年の冬は厳しかったからねー。私もちょっとは太ったのかも」

「……ちょっと?」

 明らかに余計な一言を口走ってしまったと思った時には、ナナ子が眉を跳ねさせる。

「……何よ。小夜が本当のところはそう思ってるんじゃないの。私が太ったって」

 詰められると何も言い返せず、困り果ててしまう。

「レイカルー……あんたが言いだしっぺなんだから助けてよ……」

「うおっ! 割佐美雷が私に助けを乞うとは珍しいな……。でも、何で人間って冬から春にかけていっつも太っちゃうんだ? 私たちにはそれが理解できない……」

 腕を組んで考え込むレイカルにカリクムが言いやる。

「しょーがないだろ。人間ってのは不便だよなー。私たちみたいにハウル消費が大きいわけでもないし、食べたらその分、肥えてしまうんだから」

「……何よぉ、カリクム。あんた、オリハルコンの成りで言っているつもりだろうけれど、そんな調子じゃ今日の晩御飯は抜きね」

「ええっ! そんなの横暴だろ!」

「今さら謝ったって無駄よ。いい? あんたたちの食べ物の管理はこのナナ子様が握っているのを忘れないことね」

 確かにルームシェアをしている手前、体調管理と夕飯はナナ子に頼りっ放しだ。

 小夜自身は一応、専属トレーナーが居るとは言え、家での食べ物とその日その時の服装はナナ子が基準である。

「……ねぇ、ナナ子。もういっぺん聞くけれど、冷え症……って誤魔化してももう無駄か。太ったんじゃないの?」

「うーん……着ぶくれしている感はあるけれど、そんなに? 私、これでも栄養管理は行き届いているはずよ?」

 そう言いながらチョコレートを頬張るのだから、ナナ子の中でのルールもよく分からない。

 小夜はこの店に居る全員に目配せする。

 レイカルとカリクムは相変わらずの様子で、春めいてきたせいか少しだけラフな格好だ。

 それもこれもナナ子と作木の手腕が大きいのだろう。

 ラクレスはと言えば、ウリカル相手に教鞭を振るっている。

 ラクレスは艶めかしいスーツの女教師姿、ウリカルはと言うと今日はセーラー服に袖を通している。

「いい? ここの公式さえ覚えてしまえば、後は簡単よぉ……」

「は、はいっ!」

「……相変わらずウリカルは真面目ねぇ……」

「そ、そうですかね……。けれど、最近寒かったり暑かったりで困ってはいるんですよ? レイカルさんも作木さんもそれは同じようで……」

 噂したせいか、レイカルが大仰にくしゃみをする。

「うわっ! 汚いなぁ、もう……」

「この時期はくしゃみが多くなって困るな。目もかゆいし……」

「花粉症じゃない? レイカルもかかったことはあるみたいだし」

 ナナ子が言うと、レイカルはまさか! と胸を反らす。

「戦闘力の塊である私が花粉症なんかに屈するわけがない! ……はっくしょん!」

「言っている傍からもう花粉症の症状じゃないの。……まぁ、この季節って何かと忙しいわよね。冬なのか春なのかって言うと中途半端って言うか……」

 だからこそ、ナナ子の服装も間違っていないのではと思ったのだが、やはり太ってしまったようにしか映らない。

「小夜こそどうなのよ。冬から体重が増えたりとか減ったりとか……春先になって来ると体力も必要になって来るわよ」

「私? 私は別に……。これでも体型は維持してるし……今度の仕事もゲスト出演だけれど、一応は女優業だから」

「特撮って大変ねぇ。太ったら太ったってSNSで言われちゃうし、痩せたら心配って。結構、ファンも身勝手よね」

「……まぁ、夢を売っているようなものだから、そういうもんかなとは思うけれどね。って言うか、やっぱしその辺も考えると、ナナ子。太っちゃったんじゃないの?」

「うーん、幸せ太りじゃないの? ほら、私! 伽クンとラヴだもの!」

 携帯の待ち受けに設定している伽とのツーショットを見せつけられてしまうと、こうして助言するのも馬鹿馬鹿しくなってしまう。

「……はいはい、あの鳥頭との関係はどうだっていいわよ。それよりも、ナナ子は痩せようとか思わないわけ?」

「小夜と違って、ちょっとくらいは肉が付いていたほうがいいわよ。そうでなくっても天気は急転直下! 低気圧だったり高気圧だったりなんだからね」

 ここ数日、雨が降ったかと思えば晴れ渡り、かと思えばまた氷雨と言うのも珍しくはない。

 子供の頃はこんな風に天気が気にかかった忙しい日々だったか、と回顧するも案外、十年程度前とは言え思い出せるものでもないのだ。

「小学校の時とか、一斉に衣替え! とかだったもの。いざ自分で服をどうこうするってなると、結構困るわよね……」

「加えて小夜は一応は芸能人だから、見られる覚悟って奴よね。心中察するわ」

 それもあるのだ。

 ナナ子の服装が気にかかったのは、自分もこの時期に相応しい格好をしているのだろうか、と思ったのもある。

 春先ならば、春先の格好と言うものがあり、仕事先に出る際に変に映ってしまうとそれだけで奇異の目線に晒される。

「……大学生ってだけなら、こんなに考え込むこともないんだけれど……芸能人って大変なのよね」

「嬉しい悲鳴って奴じゃないの? まぁ、小夜が人前に出る時はマネージャーさんとかにコーディネートしてもらってるんでしょ? 私たちよりかはファッションに気を遣うこともあるわよね」

「……でも現場に向かう時は私服だし……変なセンスだとか思われたくないのよねぇ……」

 悩ましいところだ。

「ラクレスよ、次の授業は担当しよう」

 ヒヒイロは奥の茶の間で削里と将棋盤を挟んで向かい合っている。

「いいけれどぉ……まだ教えることは山ほどあるのよぉ?」

「心配あるまい。この一手で」

 ぱちんとヒヒイロが駒を打つと、案の定削里が長考に入る。

「……待った」

「よいですが、待ったは三回までですよ。さて、ウリカルよ。次は社会の勉強じゃ。レイカル、カリクムも。お主らも勉強の時間じゃぞ」

「でもさー! レイカルの奴、花粉症なんだけれど……!」

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