JINKI 301-4 恐怖は漆黒の影と共に

 コンコルザは何度もワインを飲み干し、上機嫌であった。

「では、我々にご支援いただける、ということで構わないのですね?」

「キョムもドクターオーバーも蹴ったのです。最大限にこの京都支部に貢献いたしましょう」

「……しかし、肝心の人機は運び出されていた。シミュレーター上の事故だと思っていましたが、まさか示し合せていたとは。三宮金枝だけではない、彼女を支援する者が居た」

 モリビトの鉄拳に押し潰される直前、加藤はコックピットの内側に潜んでいた女性の姿を思い返す。

 腹の底より湧き上がってくるのは憤怒であった。

 死を超越しても、やはり自分を殺した者には怒りを抱くのが人類なのか、と加藤は醒めた意識で思考する。

「存じています。なるほど、彼女なら確かに。月代アンナ……これも偽名ですね。まさか我々の廃棄ナンバーがまだ生き残っていたとは想定外です。これも処理が甘かった、と言うことなのでしょう」

「そちらの不手際……として訴求しても?」

「構いませんよ。世の中、金で解決できる禍根は解決したほうがよろしい。ワタシたちも、まさか生き延びているとは思ってもみませんでした。こちらへ。――ダテン=スー」

 コンコルザが手を叩くと、豊かな青髪の女性が歩み寄ってくる。

 その所作だけで只者ではないのが加藤には伝わっていた。

 猛禽類のような紫苑の眼差しを一瞥させ、女性は尋ねる。

「……旦那。ほんまにわしを出してええんけ? 殺してまうよ? その三宮とか言うん」

「構いません。言ったでしょう? 一方的なゲームはつまらないものですが、プレイヤーは往々にして無双感もある程度は味わいたいもの。あなたは一騎当千となる。ダテン=スー、うちの専属操主です」

「あんじょう、よろしゅう……。加藤とか言っとったかいのぅ、そこのオッサン」

 ダテン=スーは礼節を欠いた物言いだが、コンコルザは注意するわけでもない。

「……ああ、私だが」

「強化人間使っとるさかい、もっとおっかない鬼みたいなもんを予想しとったが、案外普通やのぅ……。まぁ、よろしゅう頼みますわ。わしもまだ死にとうないからのぅ」

 差し出された手を加藤は睨み据える。

 するとダテン=スーは小首を傾げていた。

「……旦那。このオッサン、握手も分からんのか?」

「ダテン=スー、あなたはもう少し礼節を弁えるように。相手は取引先ですよ」

「せやさかい、握手せなと思うとるんやないけ。もしかして日本語分からん感じかいのぅ」

 加藤はダテン=スーから視線を打ち切ってコンコルザへと向け直す。

「我々の思惑が知れてはいけない。……月代アンナと三宮金枝、この二名を抹消しなければ」

「それですがね……もう動き始めているのですよ。こちらを」

 テーブルの中央の電子モニターに映し出されたのは巨大な人機の姿であった。

 モリビトタイプでもなければ、トウジャでも、ナナツーでもない。

 既存の型に収まらない大型人機に加藤は息を呑む。

「……これは……」

「既にキョムでは実地試験に入っている人機です。地上勢力では持っている人間はワタシだけでしょうがね。南米に送り込んでおいた実戦部隊が鹵獲いたしました。名を――キリビト」

「……キリビト……」

「ダテン=スーにはこれに乗ってもらい、三宮金枝を取り戻して差し上げましょう」

「旦那。せやけれどこれ、まだ未調整やって言うとったやんか。ええん? そんな自信満々に言うて」

「……あなたは少し黙りなさい。まったく……口さがない操主ですいませんね」

「……いえ。我々が擁しようとしている三宮金枝も、似たようなものです」

「貴重な血続操主のサンプル。欲しいはずです。加えて、三宮金枝は京都に戻ってくる。戻って来なければいけない理由はある」

 コンコルザの口車に乗るのは癪だったが、それに関しては同意だ。

 アンヘル京都支部がただただ手をこまねいているだけとは思わないはず。

「ご心配されずとも。彼女は戻りますよ。それは彼女自身の血の宿命が、そうさせるのですからね」

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